見出し画像

寒波の翌日

寒波のおかげで、5度という気温がずいぶん暖かく感じる。仕事を中断して近所の図書館に本を返しに行く。石本泰博の「桂離宮」や「シカゴ、シカゴ」などの大版ばかり借りていたので、IKEAのビニールバッグの取っ手が肩にめり込む。「桂離宮」を読んだのは初めてだったが、写真の美しさよりも、歪みのない整った線形に感じる心地良さが印象的で、改めて自分の神経質さに呆れてしまった。

手ぶらで帰ってくるのももったいないので、書棚を物色していると、植本一子の「台風一過」というタイトルが目に入った。白一色のシンプルな装丁に明朝体のタイトルが目を引く。

植本さんは写真家でエッセイストとのこと。恥ずかしながら存じ上げなかった。表紙をめくると「石田さん」へのメッセージが。植本さんのご主人らしいが、数年前に病気で逝去されたとのことだった。書棚の前で植本さんについてスマホでぽちぽち調べてみると、石田さんはECDというラップミュージシャンだった。

ECD。私も一枚、CDを持っていた。「Direct Drive」という曲がとても好きだった。「やりきれないことばっかりだから、レコード、レコード、レコード、レコード、レコードを聴いている、今日も」という歌詞が学生時代のモラトリアムな雰囲気にしっくりきた。

数年前に逝去されたというニュースを見た時、久しぶりにこの曲を聴いたのを思い出す。

植本さんの「台風一過」という本。石田さん逝去後の毎日が日記の体で綴られている。読み出したら植本さんの日記に没入してしまうと思われたので、ためらわれたが、ECDのあの曲が思い出されたこともあり、借りていくことにした。

ついでに娘が喜びそうな絵本を数冊借りて図書館を後にした。

夕方、コインランドリーの靴用洗濯機で娘と私のスニーカーが洗われている間、「鬼海さんの壁」を見に行った。

最近、これも図書館で借りた鬼海弘雄さんの「東京夢譚」という写真集に近所の壁が写っていた。2000年初めの頃の写真だったが、20年前に鬼海さんがこの辺りをうろうろしていたと思うと、何だか嬉しくなった。

数日前にこの壁を見つけたのだが、まだ写真を撮っていなかった。

鬼海さんの壁

コインランドリーから帰宅すると、「台風一過」をぱらぱらとめくった。
そしてやはり石田さんのあの曲が聴きたくなった。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?