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[書評]秘密結社ヤタガラスの復活 陰陽(めを)カケル

保江 邦夫『秘密結社ヤタガラスの復活 陰陽(めを)カケル』(青林堂、2020)

保江 邦夫『秘密結社ヤタガラスの復活 陰陽(めを)カケル』

理論物理学者と、安倍晴明と一体化した少年との対談

その対談は、青林堂の蟹江幹彦社長の企画で実現した。2020年2月から3月にかけて3回おこなわれたのをまとめたのが本書である。当時、その少年はまだ高校3年生だった。

この少年が安倍晴明の魂を宿すことになった数奇な体験について、物理学者・保江邦夫は知合いを通して聞いたから信じることができたにしても、一般読者にとってはとても信じられない話である。本書は初めから誤解される運命の下に生まれてきた。

にもかかわらず、本書は数々の貴重な示唆を含む。荒唐無稽な対談本として片づけられないものを持っている。一切の先入主を棄てて、虚心に彼らの語るところに耳を傾ければ、他では得られない物の見方にふれることができるかもしれない。

ただし、そういう面が純度百%で含まれているわけではなくて、こんなこと言わなければいいのにという発言もある。特に、昨今のスピリチュアル業界に対する手厳しい言葉は、好意的な反応を引出すとは思えない。その業界は一定の人気があるからである。

それでも、歯に衣着せぬ物謂いをせざるを得ない、切迫した社会情勢が背景にある。その点を勘案して、やや距離をとって本書を眺めれば、長い目で見れば益するところのある本と看做される可能性がある。スピリチュアル系のひとで反発を覚えたとしても、ここに書かれていることは、陰陽師の血筋を引く二人による貴重な証言であることに変わりはない。保江邦夫は、安倍晴明の師匠である賀茂忠行の系統。

前置きが長くなった。結論からいえば、『語ることが許されない 封じられた日本史』(2020) を読んで保江邦夫の日本史観に関心があり、陰陽道方面のこと、八咫烏にからむことを知りたいと思うひとなら、本書は一読の価値はある。

ただし、八咫烏のことについては殆ど語られていない。おそらく対談した二人はその本当のところについて語り合ったのではないかと思われるが、本書には収録されていない。陰陽道のことについては、ある程度は語られている。

上記の書においてもそうであったが、本に書けることと書けないこととがある。書けないことについては講演会などで少しは踏込んで話されることもあるだろうが、そういう場でさえ、話せないことがある。

結果的に、本書で得られるのは、当たり障りのない、誰にとっても益があるような話、例えば、〈神職さんの一番大事なお仕事って、実はお掃除〉(第3章) のような話だ。そこには深い意味がおそらくあり、毎日の生活を正してゆくことが神と人との本来の道の第一歩なのだろう。

しかし、それだけではない。目立たぬようにされてはいるが、ここには、日本の真の歴史や、宇宙をつらぬく原理の現代への展開の実相の一端が確かに書かれている。その部分は、おそらく分る人には分る。

そして、その部分を理解することは、これから生きてゆくうえで重要になる人びともまたいるのは間違いない。

スピリチュアル系の反発をわざわざ招くような書き方になっているのは、ひょっとしたら表面的に物を見る人を遠ざけるためかもしれない。

平安中期 (10-11世紀) の安倍晴明が令和の御代 (21世紀) に現れて発言していることの意味は何か。千年の時を越えて現代にまで通じるものとはいったい何か。

その高校3年生は神道系の大学を受験した際、口述試験で古事記について問われ、こう答えたという (第3章)。

「天之御中主が導いているのは『今』だ」

「古事記には最初にしか出てこないけど、実はずっとあり続けている。宇宙の背後で物理法則をつかさどる、その存在は、直接は認識できないけれども、物質の動きを見ることによって重力などのように間接的に認識できる」

この答えには試験官全員がうなった。

安倍晴明が少年と一体化することで令和の時代に新たに蘇ってきたわけについて、保江は次のように記している。

〈集福消災を祈願する陰陽道をさらに地球レベルで極めること、すなわち、愛の生け贄としての日本人の霊的役割を先導するためではないか〉

さらりと書かれているが、この言葉を理解するには本書一冊でも足りない。しかし、一つ確かなことは、この少年のような若い世代こそがこれからの時代を先導するということだ。少年の名は雑賀信朋という。

***

以下、個人的メモ。思考の糧。

第1章

  • 藤原道長の『御堂関白記』(ユネスコ記憶遺産) に安倍晴明のことが出てくる。「長保2 (1000) 年正月10日条」に〈雪が大いに降る〉とあるのは、最近、悪いことがたくさん起きるの意。ゆえに安倍晴明に占わせたが、その術そのものは伏せ字にしてある (道長本人による伏せ字)

  • 役行者、空海和尚、安倍晴明が歴史上、三大呪術者

  • 術に関して。〈神さまの力だから、施した後も、この力は神さまの元に返して、触れた体だけを潔白にしていって禊を行えば、その力は神さまの力なのだから、自分のほうに跳ね返ってくることもない〉

  • 安倍晴明の才能を初めて見出したのは八咫烏という組織

  • 安倍晴明は賀茂忠行と賀茂保憲に陰陽道を習い、賀茂家の系統の陰陽師になる

  • 陰と陽があっての陰陽師。陽は人を助ける、陰は人と争わなくてはいけない部分がある

  • 教科書だと戦いといえば武力が強調される。教科書に昔の呪術者の存在を描いてしまうと、今もそんな人たちが「いる」と肯定してしまうことになる。だから教科書には書かずに隠している

  • 〈国の仕組みというのは情報です。今も昔も変わりません。情報というものが人を支配する一番の道具〉

  • 〈今も昔もそうなのですが、文字や言葉よりも強いものはないのです。なので、結局武力がいくらあっても、意識には勝てない〉

第2章

  • 吉備真備から陰陽道を受継いだのが賀茂忠行。安倍晴明の師匠

  • もともと泰山府君から『簠簋 (ほき) 内伝』の原典となった巻物をもらったのは吉備真備が最初

  • 現代は、世界が見えない動きで回っていることを表に出す時代

  • 神社本庁という基盤を作ったのは GHQ[1945年の神道指令により1946年に設立]

  • 雑賀:〈あくまでも僕の推測ですけど、GHQ が物色した神社は神社本庁に管轄させて、また物色してない神社、まだ謎が眠っている神社は、神社本庁に管轄させるのじゃなくて、宗教法人としてやらせてるのじゃないか〉〈杵築大社や、伏見稲荷大社、靖國神社とかって神社本庁に管轄されていない〉〈神社本庁に管轄してある神社は米軍がもう調べ上げたのじゃないかなって。調べ上げているつもりになっているのかもしれないけれど〉

  • 保江:〈信じられない話だけど、神社本庁が管轄している神社って、公の場で「神さまはいる」って言っちゃいけない〉

  • 雑賀:〈保江先生の光の十字架が皇居にあるから、それを全世界が狙ってるんです〉

  • 保江:〈安倍晴明が星を観測していた阿部山 (岡山) で、鞍馬山で修行して阿闍梨になったおばあちゃんが、ずっと宗教法人で活動しています、ご本尊はサナート・クマラ、キリスト、そしてマリアさま〉[天眞如教苑]

  • 雑賀:〈一番これだけは守れって言われているのが、見えるモノだけがすべてじゃないし「見えないモノがすべてでもない」〉

第3章

  • 保江:京都に代々いる人たちが神社仏閣、パワースポットをどう思っているのかについて〈「仏ほっとけ」、「神かまうな」、「他人頼むな」、「身内うっちゃれ」。この四つに徹する。毎日、自分の生活を淡々とやっていく、それが人の道〉[中澤弘幸]

  • 保江:〈オタクって無条件の、そのモノに対する、その人に対する、それに対する信頼というか。心の向け方が無条件だから。オタクって、そこで天秤にかけてっていうことじゃないでしょ、無条件だから。それが愛なわけ〉

  • 保江:朝永振一郎の繰り込み理論について。〈(電子は) 周囲の物からの影響を受けた結果、この電気の量とこの重さになった〉〈オタクは、この宇宙の中に孤独だろうと、俺一人だろうと変わらない、特殊な存在〉〈物理でいえばニュートリノとか周囲と相互作用しないから。宇宙の中に自分一個だけでも、あるいは他のものがいっぱいあっても、ニュートリノの重さは変わらない〉〈それは僕も雑賀君もそうなの。でも今の世の中ではその存在が抹消されるわけ。ないことにしちゃう。それが繰り込み理論。つまり影響受けないヤツは、はなからこの宇宙に存在していないことにされる〉〈これがオタク繰り込み理論さ。これからは本当にオタクを作らなきゃいけないよ〉

#書評 #保江邦夫 #陰陽道

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