[書評] 台湾侵攻1
大石 英司『台湾侵攻1—最後通牒』(中央公論新社、2022)
一旦緩急あれば、を冷静にシミュレートするために
近未来小説。とはいえ、いつ起こるか分らない現代の情勢を描く小説とも言える。
一見すると、軍事オタクが書いた戦争小説にも見えるが、実際、軍事の細部はくわしく描かれるが、日台中が置かれた一触即発の現状をざっと知っておくには恰好の作品だ。
戦争の各側面の様子がよく分ることも参考になるが、一般読者にとっては、いざ台湾侵攻が起こった時に、日本人の日常にどんな変化が訪れ、どう対処すればよいかについて、リアルに実感することができるのが、いちばん大きい。
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中国が台湾に侵攻する際に日本が巻込まれたケースが本書では扱われる。この作品のシリーズは現在も継続中で、執筆時点(2022年10月2日)で第6巻まで刊行されている。
驚かされるのが、東京のインフラが攻撃を受け、停電し、インターネットも止まったときに、まず活躍するのが、コンビニだということだ。
もちろん、首相官邸では対策本部が作戦を練っている。だが、一般の民衆の助けになるのは、街で唯一の明かりがあるコンビニなのだ。
街の隅々にあるコンビニは独自の連絡網や配送ネットワークを持っており、人々に必要な物資を届ける基礎力がある。
物語の主人公の一人である小町 南は女子大生で、世田谷のおんぼろアパートに住んでいる。そこへ多摩川沿いのタワマンの住人が訪ねてくる。乳飲み子を連れた女性だ。
赤ちゃんのミルクを作る湯を求めて来たのだ。なんでもタワマンでは電気もガスも止まっているが、天体望遠鏡で下界の庶民の暮らしを見たときに、いまどきプロパンガスのボンベが置いてあるアパートを見つけていたのだ。
南は困っている母子に、コンロとカセットボンベを二本わたす。外には高級外車に乗る旦那がいて、ペコリと頭を下げた。
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南はバイト先のコンビニへ向かい、世田谷の住民の生活を助けるための活動をする。
そんな活動をしている最中に、弾道ミサイルが世田谷の住宅街に着弾する。河川敷を狙ったのが「誤射」になったと中国側は詫びるが、作戦かもしれない。
こんな現実が本当に起こるのかと、読者は度肝を抜かれるが、あり得ないことではないと、本書を読み進むうちに思わされる。
日台中のそれぞれで何が起きているかを同時進行の形で語り、物語は緊迫のうちに進んでゆく。
世界情勢の進展如何では本当に本書のような事態が招来されるかもしれず、頭の中でシミュレートするためだけでも、または心構えを作っておくためだけでも、本書は参考になるだろう。
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