見出し画像

[書評] これをマイノリティの文学と捉えた和嶋慎治のセンスには脱帽するしかない

江戸川乱歩「人間椅子」(1925)

江戸川乱歩「人間椅子」

これをマイノリティの文学と捉えた和嶋慎治のセンスには脱帽するしかない

江戸川乱歩の作家デビュー百周年を記念するTVドラマ(「探偵ロマンス」)が放映されている2023年に、この短篇小説を読めたことは何かの縁か。

この小説については、そのあらすじを書くことは即ネタバレになり、初読者の興を削ぐことおびただしいので、できない。

代わりに、作中の言葉を用いて、〈世にも奇怪な喜び〉を描いた驚くべき小説とだけ言っておくことにする。

しかし、ある者の喜びは、べつの者の恐怖にもなり得るわけで、そのあたりのスリラー的要素は乱歩ならではだ。

このような要素は、評者には、ポー的なものと感じられる。

問題は、その喜びを感じる者の感性が特殊なことだ。常人のセンスではわからぬ。

その特殊性を和嶋慎治氏は〈マイノリティ〉の言葉でみごとに掬い取った。

じじつ、彼の作ったバンド「人間椅子」のハードロック〈針の山〉などを聴きながらこれを読むとぴったりではないか。和嶋氏の SG が唸るその曲の感覚は、彼がバンドを「人間椅子」と名づけたことに、どこかつながる。

なんでも、和嶋氏は高校生のとき、自室で UFO と遭遇したことにより、精神が変容するほどの影響を受けたという。雑誌「ムー」を愛読するというから、評者などには、この〈ハードロックと乱歩のマッチング〉はピンとくるものがある。

また、ポーを引合いに出すと、ポーは膨張宇宙論('Eureka')を書いたほどの人物である。ポー的な文学的感性と UFO などへの関心とは、おそらく両立するというか、むしろ親和性がある。しかし、この世の大多数の人びとにとっては、そのような世の不思議を感得する神経は少数派に映るらしい。

最低限の登場人物を紹介すると、主人公は、夫が外務省につとめる夫人、佳子(よしこ)で、美しい閨秀作家。未知の読者から原稿を送ってくることもよくある。

ある朝、〈かさ高い原稿らしい一通〉が届く。開封してみると、表題も署名もなく、とつぜん「奥様」の言葉で始まっている。手紙かと思って佳子は読み進んでゆく。

差出人は家具職人の男で、〈世にも不思議な罪悪〉を告白したいという。

佳子ならずとも、これでは読むのをやめられない。

#書評 #江戸川乱歩 #ポー #人間椅子

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?