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[書評] 日本最古の祝詞のひとつを聴きながら学ぶ

葉室賴昭『大祓 知恵のことば』(春秋社、2004)

葉室賴昭『大祓 知恵のことば』(2004)

春日大社宮司であり、形成外科医である著者が、日本最古の祝詞のひとつである大祓(おおはらい)について解説した本。春日大社の神職による大祓奏上の録音がCDの形で附属するCDブック。

大祓が実際にはどう奏上されるのか聴いてみたいひとにはうってつけのCDブックだ。

大祓の全文(大祓詞[おおはらえことば])が掲載されているので、見ながら聴くこともできるし、一緒に唱えることもできる。ただし、評者には、どこで息継ぎをしてよいかわからないほど息の長い言葉がつづき、唱える際の呼吸のしかたについて知りたいと思った。

CDと一緒に唱えていると、神職の方々は一音一音の母音をはっきり発音していることがわかる。例えば、大祓詞の結びちかくの〈はらへたまひきよめたまふことを〉は、音を書くと〈ハ・ラ・エ・タ・マ・イ・キ・ヨ・メ・タ・モ・ウ・コ・ト・ヲ〉と、ひとつづつ同じテンポで唱えられる。だから、意味をとってふつうに発音する(例えば、〈祓えたまい清めたもうことを〉をふつうに読むように発音する場合など)よりも相当ゆっくりであり、評者などはなかなか息がつづかない。

だが、著者によると、この一音一音はっきり発音することがポイントのようだ。そうでなければ、唱えることですべての罪・穢れが祓われるという、この大祓詞の原点の大和言葉の読み方にならないと著者は考える。

だから、〈祓えたまい清めたもうことを〉のような漢字交じり文を見て意味を理解しながら唱えるのでなく、そういう理屈ぬきで、ただこの音を素直に無我になって、神さまのお言葉として感謝して、ゆっくり一言づつ唱えなければならない。ゆえに、本書では、大祓詞全文は平仮名で書かれている。

なぜ、こうなるのか。

それは日本語の性質に関る。

著者によれば、神さまの知恵を表すことができるのは、〈肌で感じたことをそのまま言葉として語ることができる〉のは、〈まったく理屈なく語っている〉、いわゆる「大和言葉」しかない(7頁)。知識が増えた現代の日本人の多くは、〈知恵のない理屈だけの言葉〉を喋っているという(6頁)。

大和言葉の基本は、「あ、い、う、え、お」の一言づつに意味があること、原則として〈あまり単語を作らないで物事を表現しようという言葉〉であることであると著者は主張する(18頁)。

これらの点は、表音文字であるアルファベットを用い、単語で文章が成り立つ英語とは違う。

英語では例えば日本に Japan という単語を宛てる。しかし、大和言葉では昔は「にほん」とは言わなかった。

確かに、大祓詞の中で日本を表すのは、ひとつは「とよあしはらのみずほのくに」(豊葦原瑞穂国)であり、いまひとつは「ひだかみのくに」(日高見国)である。後者は田中秀道くらいしか言わないので、前者についてみると、〈アシが茂って、お米がよくできる国〉ということだ。特別な単語でなく、こういう言葉で日本の国を表現する。

最後に、大祓詞の最も大切なところ(最要)だけをよんだ祓詞が春日大社に伝わる。それを引用しておこう(90頁)。

最要祓(さいようはらい)

高天原爾神留里坐須
皇賀親神漏岐神漏美命以知氐
天都祝詞乃太祝詞事乎宣礼
此久宣良婆罪登云布罪
咎登云咎波在良自登
祓給比清給布事乃由乎
八百萬神等諸共爾
左男鹿乃八乃耳乎振立伝氐
聞食世登白須

これを本書の流儀にしたがって、平仮名にしてみる。

たかまのはらにかむづまります
すめらがむつかむろぎかむろみのみこともちて
あまつのりとのふとのりとごとをのれ
かくのらばつみといふつみ
とがといふとがはあらじと
はらへたまひきよめたまふことのよしを
やほよろづのかみたちもろともに
さをしかのやつのみみをふりたてて
きこしめせとまをす

#書評 #大祓 #祝詞 #春日大社 #葉室賴昭

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