[書評] ディランの最も崇高な歌
来日が迫るボブ・ディランの直近のダブリン公演の曲目を中心に、参考になる本を取上げる。
2022年11月7日の ダブリン公演 の曲目リストの最後は、'Every Grain of Sand' だ。アルバム 'Shot of Love' (1981年) に収められた歌である。
U2 の Bono は本歌について次のように発言している。
It's like one of the great Psalms of David.
この歌はダビデ王の偉大な詩篇の一篇のようだ。
これほどの傑作なので、多くの研究者が注目しているが、ここでは、著名なディラン伝記作家ヘイリン(Clinton Heylin)の、改訂を重ねている伝記 'Behind the Shades' (Faber, 2011) を見てみる。
本書で、ヘイリンは 'Every Grain of Sand' について、〈おそらくディランがこれまでに生みだした最も崇高な作品〉(perhaps his most sublime work to date)と断じている。
ヘイリンによれば、この歌は、キリストによる罪の贖いの約束がディラン個人に何を意味するか表現しようとしてきた数多くの試みの総括にあたる。
その意味で、きわめて個人的な歌でありながら、同時にディランの最も普遍的な歌でもあると、ヘイリンは指摘する。
この歌は、福音的なソングライターとしての時期の結論と言える歌であるとヘイリンは言う。
その位置づけは、この歌がアルバム 'Shot of Love' の最後に置かれたことで、暗黙のうちに示されていると、ヘイリンは指摘する。と同時に、直近のコンサートでもこの歌が最後に置かれていることで、その意味合いは示されていると言えるのかもしれない。
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なお、この歌のタイトル 'Every Grain of Sand'(すべての砂粒)は、一般に英詩人 William Blake (1757-1827) の詩 'Auguries of Innocence'「無垢の兆し」(c. 1800-03) の詩行に由来する句といわれる。
ヘイリンは、ブレイクの別の詩('Milton' と 'Jerusalem, the Emanation of the Giant Albion')の影響を唱えている。
ディラン自身は、英詩人 John Keats (1795-1821) の名を挙げているのは、興味深い。
ディランがこの歌を書いているとき、誰も踏み込んだことのない領域にいたと言われるが、それはどういう領域かとインタビューアに訊かれ、「キーツがいる領域」だと答えている。
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