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[書評] 新約聖書 (2) 基本テクスト+辞典

ギリシア語本文+辞典の使いやすい本で或ることに気づ

新約聖書のマタイ22章37節(「を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい。」)の日本語訳について書くために、考える前提となる本の個人的まとめシリーズの2回めです。

1回めに扱った新約聖書翻訳の基本書である ネストレ=アーラント・ギリシア語新約聖書第26版 と同じ本文をそなえ、基本語の辞典を付けた使いやすい本を次に見ます。

Aland, Karavidopoulos, Martini, and Metzger 'The Greek New Testament' (Deutsche Bibelgesellschaft / UBS, 1983)

'The Greek New Testament', 4th rev. ed. (1983)

UBS改訂第4版です。これの後の第5版(下)が新約聖書に関する現行の最新版ということになります。

'The Greek New Testament', 5th rev. ed. (2014)

この書(改訂第4版)では、マタイ22章37節は次のように記されています。

ὁ δὲ ἔφη αὐτῶ, ἀγαπήσεις κύριον τὸν θεόν σου ἐν ὅλῃ τῇ καρδίᾳ σου καὶ ἐν ὅλῃ τῇ ψυχῇ σου καὶ ἐν ὅλῃ τῇ διανοίᾳ σου·

1回めのネストレ=アーラント・ギリシア語新約聖書第26版と基本的に同じ本文ですが、1回めでは5語め以降が斜体だったのに対し、こちらUBS改訂第4版では5語め以降、途中(σου)までが太字になっています。

本書UBS改訂第4版では、太字は旧約聖書からの直接の引用を示します。

本書は本文に小見出しが付くなど、読者にとって読みやすい工夫がしてあるのですが、何といっても巻末にギリシア語小辞典が附属するのが大きい。このタイプの巻末辞典付きの本は、むずかしいテクストを学ぶ人に大いに助けになります。

その小辞典には、「精神」と新共同訳で訳されたギリシア語「プシュケー」(魂)はどう書かれているのでしょうか。早速みてみましょう。

ψυχή, ῆς f  self, inner life, one's inmost being; (physical) life; that which has life, living creature, person, human being

こう書いてあります。これだけ見れば、ギリシア語辞典が手許になくても、大略〈単数主格形、単数属格形、女性名詞、意味は自己、内的生、内奥、(身体的)生命、生命を持つもの、生き物、人、人間〉といったことが分ります。

このあと、本格的な聖書ギリシア語辞典に進む予定ですが、その前の簡易的情報が本書で得られます。それにしても、上記を見るかぎり、「精神」の訳がどうして生まれるのか、分りません。

上で〈太字は旧約聖書からの直接の引用を示す〉ことにふれましたが、本書には巻末の辞典の手前に、旧約聖書の引用一覧のリストが付いています。本当に使いやすい本です。

それを見ると、マタイ22章37節は申命記6章5節の引用であることが分ります。

念のため、新共同訳でその箇所がどう訳されているか見てみると

あなたは心を尽くし、魂を尽くし、力を尽くして、あなたの神、主を愛しなさい。

となっています。したがって、もしマタイ22章37節が旧約聖書の引用であることをはっきり示したいなら、「魂を尽くし」と訳せばよいのではないでしょうか。ギリシア語は、申命記のヘブライ語をそのまま訳しただけではないのでしょうか。

これは、どうやら、ヘブライ語のレベルに遡って調べなければならないようです。

#書評 #ギリシア語 #聖書

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