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100年先からやってきた天才詩人

エミリ・ディキンスンという米国詩人は時代より100年進んでいた。

彼女が生きた19世紀という時代には有名な男性詩人がたくさんいた。

「アメリカ詩の父」と讃えられたフィリップ・フリノー、絶大な人気を誇ったヘンリ・ワズワース・ロングフェロー、19世紀アメリカの知の座標軸ラフル・ウォルドー・エマスン。自由詩の父と謳われるウォルト・ホィットマン。クェーカー詩人のジョン・グリーンリーフ・ホィッティア。などなど。

しかし、今日、現代詩なみの熱心なエネルギーでなおも読みつがれている詩人となると、どうだろうか。ホィットマンは人気があるが、現代詩人としてではない。エマスンは一部の批評家(ブルームなど)が注目するにすぎない。

20世紀が生み出した先鋭的なアメリカ詩人たち(T・S・エリオット、エズラ・パウンド、ハート・クレーン、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズ、チャールズ・オルスン、アレン・ギンズバーグ、E・E・カミングズ、シルヴィア・プラス、マリアン・ムア、ジョン・アシュベリら)に伍して今この瞬間も熱烈に解読がすすめられている19世紀のアメリカ詩人といえば、エミリ・ディキンスンをおいて他にない。

彼女の存命時には、あまりにも先進的な詩のスタイルゆえに、わずか数篇しか出版されていない。出版されたときも、当時のスタイルに合わせて手直しされたほどだ。まともに彼女本来の詩行を目にすることができるようになったのは、20世紀も半ばを過ぎてからのことだ。

なんでこんなすごい女性詩人が19世紀アメリカに存在しえたのか。それはアメリカ文学史の最大の謎のひとつと言っていい。いわば、突然変異のように、彼女はその時空に出現したのだ。

客観的にみれば、100年先から飛来した隕石のような詩人だ。当時の人の理解を超えていたとしても無理はない。

#アメリカ詩 #コラム

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