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十八歳のまま、時が止まっているような気がする。十八歳の時の対人関係が、十八歳の時の生活習慣が、十八歳の時の思考が、そのまま二年間続いただけの二十歳。私はもう少しで二十一歳になる。

十八歳の時の不登校癖は二十歳になっても治らない。十八歳の時の逃げ癖は二十歳になっても治らない。あまりに休みすぎてゼミの教授からLINEが来た。それを三か月間無視した。あまりに返信がないから親に電話が来たそうだ。それでも私は既読すらしなかった。あまりに反応がないからバイト先に教授が来た。それでも私は無視した。その日にもう一通LINEが来た。その返信を、まだ出来ずにいる。

来週、大学が始まる。私はどうやらまた大学に通うらしい。教授への返信も出来ていないのに、朝起きて、支度をして、荷物を持って、重いドアを開けて、自転車で急勾配の坂を上って、大学に行くことが出来るのだろうか。教授への返信も出来ていないのに。

大学は入りたくて入った。流されて入ったわけではない。高校の担任から狙えるんじゃないかと言われた大学には受験しなかった。実家から比較的近い大学だったけれど、そんなに遠い大学に私は通えない。通学に電車は使いたくない。だって途中でどうしても降りなきゃ苦しい時に、その駅から知り合いが乗ってくると余計に苦しいから。高校の三年間で思い知った。家から一番近い大学はあんまり賢くない大学だけど、選んだ学部は、選んだゼミは本当に興味のある分野だった。何かを専門的に突き詰めた人の話は面白い。私も彼らのように研究がしたい。結果は出なくてもいいわけじゃないけど、出なくたって面白そう。自分が何回人生を送っても手に入れられないであろう知識を、ここに居る限りは簡単に手に入れられる。現れた知識のオアシスに、喉の乾いた私の脳みそは喜んだ。きっとこの大学に通っている誰よりも貪欲で、知的好奇心があるのは私だ。だけれど、「通う」ことが出来ない。教授の話は聞きたいけれど教室に「居る」ことができない。オンラインなら良い、という訳ではない。自室でも、教室でも、脳みそに誰かの気配がして、誰かの視線を感じて、きっとこんなどこにでもいる人間を誰も噂していないのに被害妄想は膨らむ。不登校なんて続けていたら本当に噂されてしまうのに、顔を洗って、服を着替えて、あとはドアを開ければいいだけなのに、パソコンを開けばいいだけなのに、私はそれを出来ない。

26日に授業が始まるからといって25日まで夏休みが続くわけではない。夏休みはフェードアウトしていく。履修登録をあと二日でしなくてはならない。それを知って焦るくらいには大学に通う気があるらしい。スニーカーの汚れをそろそろ取らなくちゃ。教授への返信はまだできていない。

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