短歌たち(逐次更新）

幸せが疎まれてしまう世の中じゃパンケーキすら上手に焼けない

快楽を求める弱い僕たちはライブハウスにてスーツを躍らせ

哲学を想う時にどうしても脳裏に過る貴方が苦しい

辛いからと酒を飲む癖を治さねば　想起し泣くは喧騒の飲み会

あまりにも自信に満ちた君だから「私なんて」が目立ってしまうな

法律に背中を向けて飛び越えろ片道二百円のハードル

唐突に話題を変えて話す君　三オクターブの跳躍で遊ぶ

君のことうまく短歌に詠みたくて「好き」の類義語検索してみる

「今日くらい俺が作るよ晩御飯」卵の上に牛乳仕舞うな

雨だから寒すぎるから春だから　布団を拠点に生活を休止

舞う毛先沈むは我の気と身体「私と詩と死と」と雨は降りつつ

斜め前、椅子の真下に届けたい　消しゴム投げるの上手になあれ

君曰く、「ケーキでお腹を満たすのが今世の目標」じゃあ僕、からあげ

壁の模様布団のシーツ反射光　白いお化けはだいたい偽物

「はんぶんこ」胃の中身までおそろいにしたい私の魂胆隠して

息抜きに海を見に行くだけなのに　往復の方が少し安いのに

だらしなく口の開いた雛鳥を子と間違えて貴方は口付け

人生の主役は他人でいいけれど脚本は俺に任せておくれよ

貴方との思い出の歌で泣いてしまう　そんな私はもういないのよ

「俺だけのせいにしてくれていいからさ」共犯者にすらなれない私は

エメラインみたいに無視を決め込もう青い珊瑚は二人の世界に

知りたくない　貴方にとっての僕の価値　どうか僕より先に死んでくれ

僕たちのチープな恋を誤魔化そう　少し高いや、シャンパンマドラー

真っすぐに生きられない僕に似ている曲がった胡瓜が今日も安いな

バスの窓　額を当てて振動を脳に伝える治すべき癖

「安定」の二文字を過剰に求めても安定なんてするはずもなく

初恋を知ったばかりの心臓は少し苦くてクセになる味

被害者のうちは命を絶ちません　加害者となれば殺してください

十周忌　あなたの声が聞こえても声変わりして気付けないよね

常套句貴方の声で聴きたくて興味もない満ち欠けを調べる

スプラッタ映画を選んで観る君の愛する私は刺激的ですか

裏返したら幸福になってくれそうなそういう素材ばかりを集めて

やぁ、社会。空腹はもう満ちたのかい？　美味しい葉ほど穴が開いている

満月は幼少期の僕に似ている　ただ欠けていくばかりの完全

保守的な性格に似合うその色が私の瞳を緑に染める

味の無い白米を噛んで飲み込めば両の手首を染める蕁麻疹

ねぇあたし、何を恐れて隠れてるの？ちがうよ、金縛りに遭ってるだけ

静けさと呼ばれる「無いもの」の名詞を捕まえたくてサイレンと追う

納税と同じ感覚で読む本に心臓はただ正しく動く

大量の憂鬱に穴を複数個 災害時にはシャワーとしても

ガラス張りの狭い部屋に集められた緩やかな自殺志願者よ

開いた本を伏せる。私にミニスカートを履かせたあなたが怒る。

中指は少し歪になったけど 隣の指でここから逃げよう

あなたにはお気に入りがふたつあるからひとつ消えても平気そうだね

大人には百害あって一利ない穢れた空気が要るときもある

僕なんていない方が上手くいく君の恋を応援できない

父親の下手な躾の痕跡を「綺麗」と言うから嫌いになれない

オーロラは地球の端っこで見られる 私の右のふくらはぎなど

この先に訪れるはずの春ですら溶かせない雪が積もるる二人

青い目が夢の中で告ぐ近付くな大きな耳は災いを呼ぶ

苛立ちも大事な僕だ抱きしめてすくすく育てよ誰も傷つけず

落ち葉すら見つけられないこの季節コトノハはどこへ行ってしまったの

月に住む兎も笑わぬ恋模様 実る季節はもう過ぎました

被害者の面を被った加害者に私もなるのね あぁ十三夜

邪魔だなと思われつつここに居るのは私なりの仕返しだったり

補色のみで仕上げたコーディネートは第一印象をミスリード

テキーラを飲み干す君にもあるのかな死にたい夜がだったらいいな

また誰かが死んだ 頬の黒子が増える もう誰も死ななくていい

昨晩は不機嫌になってごめんなさい 人の不幸のフレンチトースト

昨日よりみっつ少ないはずの薬袋 とお多い胃袋と比較

本人が意図していないものを探る研究 テクノロジーが進まない研究

首を吊る スペース 業務用の縄 こころのダイヤル 10円/20秒

雨降れば陰謀論の音がする卯の花くたしの早さを睨んで

死ぬための一張羅と二時間の化粧三途の川で悪目立ちしよう

起き抜けにホクロを数えて前日と変化がないかグラフで管理

濡れているタイルでシャワーを浴びること もういくつ寝ると正念場

｢人殺し｣君がそう呼ばれる前に僕から離れて良かったね、ほんと。

よく当たる肩と肩が指と指になり、舌と舌になり「帰るか」と逃げる

奪われているまたは与えられている叶わない呼吸よりも大切な