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自分のしたことに見返りを求めた時、心は苦しみを感じてしまう

環境汚染は、プラスティックゴミだけが原因ではない。洋服もこれだけの量が集まれば、環境を汚染する原因となっていく。

リサイクルしていると思っていたら、とんでもないことが起きていた。

この光景を見た時、20代の頃を思い出した。

母の影響で、私は子どもの頃から洋裁が好きだったこともあり、洋服のデザインをしたいなと、淡い夢を抱いて服飾専門学校に進んだ。

けれども、入学後は現実を突きつけられた。
同級生は皆、ライバル同然だった。
卒業を待たずに就職する子もいたし、社会人や大学生も通っていて、同じ生徒でも業界の知識や経験のある人も沢山いた。

負けられないという競争心が芽生えた。

洋服作りが好きで進んだ道が、いつしか

負けたくない
目立ちたい
有名になりたい
成功してお金持ちになりたい

それが私の目標にすり替わっていった。


夢が叶ってデザイナーとして大手アパレルに就職すると、この業界あるあるで、牛馬のごとく仕事をした(させられた)。
休日出勤、終電までの残業、有給休暇はたまる一方。でも、残業続きで寝坊した時は、遅刻扱いではなく、有給をそこで消化する謎のルールがあった。

そして、私は20代で既に人生終わったくらいに疲れ果てていた。

毎日へとへとになるまで働いても、お給料だけでは実家を出ることは出来なかった。
有名になることも、お金持ちになることも、
先輩たちを見ていると、それは叶わないよと言われているようだった。

私は、過労で食事が喉を通らなくなったり、
突発性難聴になったり、パニックを起こして通勤電車に乗れなくなったり、
気が付けば、毎日何かしらの薬を飲んでいるような状態になっていた。

その日も残業を終えて、裏口の通用門から社屋を後にした。
通用門を通る手前にゴミ置き場がある。
ゴミ置き場には、サンプルで取り寄せられていた生地たちが無造作に置かれていた。
この生地たちは、この後どうなってしまうのだろう。
たくさんの反物と、おびただしい生地の山が悲しい叫び声をあげているように見えて仕方なかった。それからというもの、通用口を通るたび、胸が苦しくなった。


当時、一つの商品が生まれるまでには、生地の色見本や柄見本、サンプル品を作って、打ち合わせや検討会、いくつも会議を経なければならなかった。そこで却下されたものは次々と処分されていった。
サンプルである以上、商品として売るわけにはいかない。そんなことを先輩から聞かされた。
(これは昭和のお話です)

自分の夢だった仕事は、一方でこんなことをしていただなんて。
胸をえぐられるような感覚だった。

体力も気力も限界を超えた頃、私はアパレル業界を離れ、着飾ることをしなくなった。
流行に合わせて毎日違う服を着て、靴もバッグもアクセサリーも完璧に整えて、街を闊歩することに魅力を感じなくなってしまったのだ。

そしてーー、
まるでリハビリをするかのように、
母親の洋服を縫うようになった。
ところが、それが本当に楽しかったのだ。

ブラウスを縫っても、ジャケットを縫っても
母は喜んで着てくれた。
「ありがと、ありがとう」と
何度も言われてなんだか照れくさかった。

だって、私はただ好きな事をやっていた
それだけだったから。

喜んでくれる姿を見ながら、次の一枚を縫い始めるのはとてもワクワクして、心が軽やかだった。

そこに金銭の受授がなくても
母の喜ぶ姿や、「ありがとう」の一言は
自分はひとの役に立てているという
実感を与えてくれた。


けれども、仕事の中でそうした感覚になったことはなかった。なぜだろう。


かつての私にとって、仕事は報酬をもらうことを意味していた。こんなに働いているのだから、もっとお給料をもらわないと割に合わない。そうやって、自分からストレスを溜めこんでいた。
もっとお金を稼いで、流行のファッションで身を包んで、注目されたい、素敵と言われたい。成功したと認められたい。そんな私利私欲に溢れていた。

今振り返って思うのは、本当に洋服が好きだったなら、仕事を諦めるのではなくて、何か改善策を考える方向に、思考を巡らすことはできなかったのだろうかと、ちょっぴり残念な思いもある。

職業に貴賎なしというように、どんな仕事でも誰かの役に立っているし、支えになっている。

”Pay Forward” 自分という一人の人間は、気づかないうちに誰かから支えてもらっている。
その感謝を自分ではない誰かのために手渡していく。そんな感謝の思いが人びとの間で循環していったとき、この世界は本来の素晴らしい姿を現していくに違いない。

ひとは、見返りを求めた時に苦しみを感じる。そして、自分ではない誰かのために、見返りを求めずに行動したときに、喜びと幸せというギフトがもたらされる。
これが私たちの生きている世界の法則なのだと、若かりし頃の経験が教えてくれた。

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