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『コールドケース』ノート

ジェリー・ブラッカイマー製作総指揮
 
 アメリカのテレビドラマのシリーズである。通勤電車で読む本を鞄に入れ忘れたので、Amazonのプライムビデオを開いてたまたま見つけた。私としては久しぶりにドラマにはまってしまった。ファーストシーズンからファイナルシーズンまで7シーズン156本のエピソードからなる。ひとつのエピソードが約45分で完結するテンポが早いドラマだ。
 フィラデルフィア市警の殺人課のジョン・スティルマン警部補と主役のリリー・ラッシュ刑事を含め個性豊かな刑事たちが未解決(迷宮入り)事件に取り組むという筋書きである。仲間の刑事たちは人種も多様で、個性も強く際立っている。

 ドラマの流れを追うと、はじめにその未解決事件の発端となるシーンから始まり、そこに映る誰かが遺体や遺骨となっているところがクローズアップされて、その事件の捜査資料が未解決事件の棚に保管されるシーンで導入部が終わる。
 次にオープニングクレジットとして、不安を次第に煽るような打楽器と弦楽器の旋律と音量とが次第に高まり、その音楽を背景に刑事を演じる俳優の名前と役の名前が紹介される。
 
 本編に入り、その未解決事件の解決の糸口となる目撃者や真相を知っているという人物が殺人課を訪ねてきたり、証拠物などが出てきて、殺人課の刑事たちが、事件発生当時は解明できなかった解決の手がかりを、現代の科学分析技術やデータベースを駆使して再捜査に着手する。
 目撃者の話で、最初に犯人ではないかという人物が浮かび上がるが、その人物から次々に怪しいと思われる容疑者がさらに複数人浮上する。それらを刑事たちは次々と追及しながら、意外な真犯人をあぶり出すというパターンである。

 映像として面白いのは、関係者の過去の姿と今の姿を場面転換やフラッシュバックで重ね合わせ、その人が誰か分かるようにするという手法だ。事件から数年から十数年、あるいはそれ以上の時が経っているので、関係者は当然歳をとる。それを現在の容姿と過去の容姿とを重ねて見せるカメラワークが面白い。事件当時に子どもだったら、同じ俳優が演じるのは無理だが、過去と現在を同じ俳優がメーキャップを変えて演じていると見まがうほど、よく似ている。この顔が年を経ればこうなるのだなと妙に納得できるのだ。鼻や顎の形で明らかに同じ俳優だと分かることもあるが、似ている俳優を選んでいるのかどうかは私には分からない。
 最後は、逮捕されて真犯人が連行されていく場面や、捜査資料の箱に「CLOSED(解決)」と書かれて、棚に戻される場面で、遺族や関係者、捜査に当たった刑事たちの視線の先に被害者が現れ、「真相を暴いてくれてありがとう」、「真犯人を捕まえてくれてありがとう」という表情で、幻のように現れて消えていくのも、一見陳腐な手法のように思えるが、幻想的でカタルシスを覚える。

 テーマは建国時から現在に続くアメリカが抱える数多くの問題――銃の所持、貧困層の問題、人種差別、麻薬の蔓延など、根が深いテーマが多い。そういう問題を隠さず取り上げるのもまたアメリカのドラマらしい。
 
 さらにそのメインプロットの合間に、刑事個々人が抱える親との確執やパートナーとのトラブル、はては恋愛沙汰や離婚などがサイドストーリーとして挟まれており、それがいくつかのエピソードをまたいで描かれているので、それも単なる刑事物ではない陰翳を与えてドラマに厚みを増している。
 
 そのほか印象的なのは、場面が切り替わるときの電子楽器だと思うが、チャイムのような音の単純なメロディーがとてもいい。さらにドラマの挿入歌やエンディングで流れる音楽も特筆すべきだ。事件が起きた当時の楽曲――60年代から70年代のカントリーやスタンダード、英国やアメリカの多様なポップやロック音楽など――例えばプロコルハルムの「青い影」やクリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(CCR)の「雨を見たかい」、アバの「ダンシングクイーン」、ドゥービー・ブラザーズの「チャイナグローブ」、ボブ・ディラン、ジョン・レノンなど私の年代にとっては懐かしい曲ばかりである。
 それにしても、ジョン・スティルマン警部補があらゆる意味でかっこいい。

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