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『文読む月日』(上・下巻)ノート

レフ・ニコラエヴィチ・トルストイ編著
北御門二郎訳
地の塩書房刊
各巻3,500円(発刊当時の価格)

 この本は、1983年11月7日初版の函入り上製本である。厚さはそれぞれ約3センチで、上・下巻合わせて1000ページ近くある大著である。
 私は1987年に購入して一年をかけてまず通読した。当時付けた紙の付箋も色褪せ、線引きしたマーカーも退色している。

 レフ・トルストイが古今東西の宗教家、哲学者、思想家、作家、詩人などの名言・箴言や著作の抜粋や、仏陀やイエス、孔子や老子、イスラム、ユダヤなどの聖典の一節など、トルストイ自身の思想の核となり、響き合った言葉を、1月1日から一日ごとに分けて、閏年も考慮して366日に分けて書き留めている。
 原著の巻末に付されているリストによれば引用している人は192人で、この数には仏陀やイエスなどはカウントされていない。
 そのほか、トルストイ自身の考え方などを書いた随筆なども収録されているので、単なる箴言集ではなく、トルストイの思想の集大成とも言えるものである。

 この著作について、原著の編者であるビリューコフによれば、原著第一版が刊行されたとき、トルストイは大変喜んで、「自分の著述は時が経つにつれて忘れられるであろうが、この書物だけはきっと人々の記憶に残るにちがいない」と言っていたという。〔訳者・北御門二郎のまえがき〕

 内容の構成は、例えば、1月1日から7日の後に〈一週間の読み物〉という欄があり、トルストイ自身が他の作家などの著作を元に、口述した内容をまとめたり、聖書から引用したり、その週の内容をより敷衍して自分の考え方を書き加えている。この欄は52(1年間は52週)あり、その後に12月30日の項では聖書などを引用して、〝人類愛〟(この言葉自体は書かれてはいないが)について述べ、31日では、〝過去・現在・未来〟と〝時間〟について述べて一年が終わる。

 訳者の北御門のあとがきによれば、原題を直訳すれば、『読書の環』とでもすべきと書いてあるが、訳者の思いきった意訳で、『文読む月日』としたという。いま同書はちくま文庫(上・中・下巻)で読める。

 因みに訳者の北御門二郎(きたみかど じろう1913年2月16日~2004年7月17日)はレフ・トルストイ専門の在野の翻訳家で、旧制高校時代にトルストイの平和思想に傾倒し、戦後、農業を営みながら翻訳作業にいそしんだ。戦前、良心的兵役拒否をしたことでも知られている。
 この本のほか、『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』、『復活』などを訳出し、第16回の日本翻訳文化賞も受賞している。

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