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『万葉と沙羅』ノート

中江有里著
文藝春秋刊
 
 主人公の一橋沙羅と近藤万葉の家は隣同士で、二人は同じ保育園に通っていた幼なじみで、家族ぐるみの付き合いをしていた。小学校に上がるときに、万葉は父親の転勤で引っ越してしまった。
 
 沙羅は小学校の友達と学区が違ったせいで、皆と違う中学校に進学したのだが、友人もできず、近寄ってきた同級生たちからいろんなモノを持ってくるように言われ、言われるがままにいろんなモノを同級生に届けた。そしてある時、お金を持ってくるように言われ、沙羅は母親の財布からお金を抜き取るようになり、そのうち母親に見つかってしまい、親になぜそのようなことをしたのかと問い詰められ、事情を説明しても両親は納得せず、学校に訴えてもその同級生たちは否定するだけで、証拠もないので学校側も何もできず、沙羅が母親の財布からお金を抜き取った事実だけが残ってしまった。それがショックで、部屋から出られなくなり、沙羅は学校へ行けなくなってしまったのだ。
 
 沙羅は一年遅れで通信制の高校に進学した。そこで、彼女は万葉と再会する。万葉は小学校にあがるときに両親は離婚し、彼は母親に引き取られたが、そのうち母親から「父親と暮らすように」といわれ、理由も言ってもらえず母親から裏切られたような気分のまま、下北沢にある父の実家に引っ越した。そのうち、母親が肺がんで亡くなり、あとで、死を悟った母親が自分を手放したのだと気づく。
 
 万葉の父親は再婚し、ドイツに海外赴任することになり、万葉は日本に残って、父親は自分の実家を腹違いの弟に譲り、弟は古本屋を始め、万葉もそこで暮らすことになり、通信制の大学に進学する。
 万葉は読書好きで、沙羅は読者が苦手。しかし思春期に蹉跌を味わった二人は、読書を通して心が通じ合う。この作品は恋ともいえない二人の互いの思慕を軽いタッチで描いた青春小説だ。
 
 この作品のそこかしこに本が出てくるが、それらの本を並べてみると、『失われた時を求めて』(プルースト)、『新美南吉童話集』(知多半島出身の童話作家で、『ごん狐』の作者)、『山月記』(中島敦)、『TUGUMI』(吉本ばなな)、『クリスマス・キャロル』(ディケンズ)、『僕は勉強ができない』(山田詠美)、『翼はいつまでも』(川上健一)、『永遠の出口』(森絵都)、『わたしとあそんで』(マリー・ホール・エッツ)、『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)、『青が散る』(宮本輝)、『点と線』(松本清張)、『ハーモニー』(伊藤計劃)、『草の花』、『廃市』(ともに福永武彦)、『綠の校庭』(芹沢光治良)、『猿の手』(ジェイコブズ)、『三四郎』(夏目漱石)、『心の処方箋』(河合隼雄)、『砂の城』(遠藤周作)、『おれのおばさん』(佐川光晴)、『若き詩人への手紙、若き女性への手紙』(リルケ)、『14歳からの哲学』(池田晶子)。
 
 万葉の叔父さんがとあることで突然店を休み、家出(?)をした先が、久留米で、父親に叔父を久留米に行くよう頼まれて行く。そこでまたいろいろと物語が展開する。
 本というのは人との出会いの機会を作り、読書によって心を通わせ、また人との共感や、逆に感受性の違いを知るいい機会であるし、いろんな世界を知ることができる。
 先ほどこの作品に出てくる本を並べたが、私が読んだ本もあり、興味深く読んだ。
 
 ちなみに、昨年の10月にある若い友人からこのnoteのことを教えてもらい、書評のような原稿の投稿を始めてこの原稿で87本目(とりあえず100本目標!)だが、そのうち16本がこの若い友人が教えてくれた本である。
 私もかなり本を読む方だが、紹介してくれた本は、本屋では自分で決して手に取らないものばかりで、noteという媒体を教えてくれたことと合わせて、私の読書の世界を広げていただいたことに心から感謝をしている次第である。
 
 

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