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バッドエンドでハッピーエンドな、映画「鑑定士と顔のない依頼人」を観て

2013年公開のイタリア映画。といっても、会話は英語。
中年というより初老に見えるヴァージルは一流のオークショニアであり、凄腕の美術鑑定士。
彼は、短気で、尊大で、潔癖(自宅には手袋用の棚があり、大量の手袋を所有)、裏では長年、価値の高い肖像画(女性のみ)を相棒の、元画家志望のビリーに本来の価値より低い価格設定を自分がし、それを落札させ、自分の秘密の部屋に飾って鑑賞していた。実は女性が苦手で、誰とも交際したことがない。

ある日、電話を通じて鑑定依頼が来るが、依頼人の女性が現れない。それが2度も続き頭にきて断るが、また連絡が来て、ついに彼女の亡くなった両親が収集していた美術品を見て、鑑定することにする。その女性はクレアといって、不在を装っていたが、実はその大きな屋敷の隠し部屋に暮していて、作家として生計を立てているというが、何年も引きこもりで、広場恐怖症だから出てこれないという。

一方、クレアの屋敷で見つけた価値があるかもしれない機械のような美術品を、機械系の美術品修復者のロバートに見せ、組み立ててもらいつつ、クレアに興味を持ったヴァージルは、彼に恋の相談ものってもらう。

徐々に彼女の信頼を得て、ふたりは接近し、なんと恋人として付き合いが始まる。ヴァージルは彼女との付き合いで、人生最高の幸せを感じる。
ある日、大雨が降る中クレアの屋敷へ向かっている途中、門の手前で数人の男らに突然襲われる。血まみれで倒れた彼は、スマホでクレアに連絡すると、窓から門の外に倒れている彼を見つけたクレアは外に飛び出し、助けを求め、病院に運ばれる彼に付き添う。
ついに外へ出れるようになった彼女は、ヴァージルの自宅に招待され、彼の秘密の部屋の肖像画を観て感動し、「たとえ何が起きようと、あなたを愛している」と言った。

クレアが心配でこれまで出張を控えていたヴァージルは、結婚を機にオークショニアを引退する決意をし、最後の仕事をするため出張する。最後のオークションが終わると、会場の客から祝福され、ビリーも祝いに絵を送ったという。ヴァージルはビリーの絵の才能は認めていなかったけど、「その絵は焼かない」と冗談を言って笑う。最初の頃のヴァージルは、人に対して厳しめの接し方だったけど、柔和になってきているのがわかる。

家に帰ると、クレアがいない。
クレアの母親の肖像画が残されていて、それを持って秘密の部屋に行き、愕然とする。肖像画がひとつもない。ロバートが組み立てたと思われる機械人形だけ置いてあり、同じ言葉を繰り返す。

ロバートとクレアの屋敷はもぬけの殻。クレアの母親の肖像画の裏にはビリーからのメッセージがある。どうやら全てビリーのたくらみ?
警察の手前まで行くも、中には入らず。クレアの存在が絵画の価値を超えた!?
すっかり老け込んだヴァージルは、入院して、後にリハビリ?
その後、妄想か現実か、クレアが話した街プラハへ移り住み、同じく彼女が話した飲食店へ向かい、待ち合わせだと言い、食事をするシーンでおわる。

監督曰く、この映画はバッドエンドではないらしい。
が、映画の4分の3くらいで主人公が精神的にも肉体的にも満たされて、最高に幸せな状況だったので、きっと何かが起こると思ったらまさかのコレクションの盗難と裏切り。とはいえ、残りの数分で何らかの解決策があるのだろうと思っていたら、そんなことはなく。シニアが受ける仕打ちにしてはあまりにひどすぎる。が、ある意味無味乾燥の日々に潤いを得たのも事実。せつない結果だけど。
今後彼は、前よりは人間らしく生きていけそうな点がハッピーエンド的なのか。以前のトゲトゲしさははもうない。

それとも、元同僚が渡した郵便物の中に彼女からのメッセージがあって、ほんとの待ち合わせなのか。
映画では詳細は描かれない。

ヴァージルの秘密の部屋の肖像画の中では、ルノアールの作品の女性がいちばん印象的。なんだか幸せオーラが出ていて。アート好きな人は、あの部屋のシーンだけでも結構楽しめそう。




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