見出し画像

官民協働提案事業は、ステージを数段上げる必要がある。

お恥ずかしながら、三菱地所がベンチャーのアクセラレータープログラムをやっていること、知りませんでした。

『スタートアップとの実証実験に取り組もうとするも、思いの外連携できるパターンがない』という、アクセラレータープログラムにありがちな失敗を回避するために、地所の各部署が抱える課題を起点とし、それらの部署との協業を前提とした選定が行われる、という点は実に学びが大きいです。

以下のコメント(リンク先より引用)にもあるように、実証実験の場を提供したり、部署の課題を解決する協業先として採択されたり、現場を持っているからこその強みですね。

三菱地所が提供できるアセットは、丸の内や横浜といったエリアやホテルや商業施設などの施設タイプにおいて非常に多岐に渡っています。多くのスタートアップに実証実験の可能性があることが、大きな魅力のひとつです。
ーーー
事業部を横断できるスタートアップがアクセラレータープログラムに採択された場合は、まずは課題感の強い事業部にお繋ぎし、協業のかたちができ次第他の事業部にも展開していくかたちとなります。

※応募期限は2020年10月末日で、すでに締め切りは終わっています

三菱地所のアクセラレータープログラムの3年間の軌跡を官民協働提案事業に置き換えてみると、学ぶべき点が数多く見えてきます。以下、4つの観点から学びを整理してみたいと思います。

1.課題をしっかりと提示し、ミスマッチが起きないよう工夫

協業を通じて何を実現したいのか、考えを具体的に伝えることが重視されています。ここがあいまいだと、両者が「そんなこと期待していない」「こんなはずじゃなかった」のオンパレードで、選定された後で両者が不幸になるだけです。

三菱地所側も、最初はテーマを具体的に設けず公募したところ、シードフェーズの企業含めた240社から提案があり、選定に非常に苦労したとのこと。その経験から、あらかじめ解決したい課題や協業でやりたいことを具体的に提示し、それを実現できるスタートアップを募集するようになったそうです。

【三菱地所アクセラレータープログラム:実現したい3つの方向性】

画像1

2.公共側が提供できるメリットを積極的に示すこと

民間のプログラムでは主催者が積極的に魅力的な提案をし、革新的なベンチャーと協業を進める一方、行政のプログラムでは単に「担当部署とつなぎます」「施設を無料で使えます」「広報します」など受け身な印象がぬぐえず、世の中を変えるような革新的な仕組みやアイディアは登場しづらい印象です。

また、地域のNPOや地元スタートアップの参加を期待する場合は、協業を通じて民間側の育成も図る必要があり、メンター支援や資金支援などのメニューを取り揃えることも重要です。

最近ではいくつかの自治体でふるさと納税を活用した資金提供をうたう官民協働事業が見られますが、事業化に向けたメンタリングの他、施設以外の自治体アセット(データ等)の活用など、より踏み込んだ支援が求められているのではないでしょうか。

 【三菱地所アクセラレータープログラム:採択された後の支援メニュー】

画像2

3.トップの関与と現場部署の巻き込み

官民協働提案は自治体職員の仕事を増やすだけと受け止められると、現場の反発を招き、本来期待した成果につながらないだけでなく事業が全く進まなくなる可能性もあります。民間提案事業は自治体内のセクションを横断するテーマであることも多く、相談したくても部署間をたらいまわしにされたという話も聞きます。

セクション横断的な協業体制を構築するには、トップの関与と現場の当事者意識が必要不可欠。地所の事例では、プログラムの早い段階から事業部のキーマンを巻き込んだり、要所要所で社長を登場させてメッセージを伝えるなど、工夫をしていました。

官民協働提案で市長が説明会に登場したり、選定にかかわる自治体はないのではないかと思いますが、それができれば全庁一丸となって民間との協働に臨めるのではないでしょうか。

小林:弊社でも他社と組んで新しいことを始めることに、最初から事業部が積極的に関わる仕組みが作れたわけではありませんでした。しかし、プログラムの早い段階から、スタートアップとの面談に事業部のキーマンを入れることで、事業部がより当事者意識を持って取り組むことができるようになったのです。
この時、誰をキーマンにするかが重要です。どの事業部にも新しいものが好きで、社外との協業に積極的な人間が一人はいるものです。そのような人間をキーマンにして橋渡し役にすることで、比較的スムーズに事業部の協力を得られたと思います。
ーーー
小林:プログラムを開始するタイミングで、トップのコミットメントがとても重要です。私たちの場合は、プログラムの初回は社長に最終審査をしてもらいました。最初にトップから大きなメッセージをもらうことで、格段に社内を巻き込みやすくなるはずです。
また、はじめから完璧なプログラムは目指すのではなく、段階的に社内に浸透させていくことが重要です。私たちも回を重ねるごとにブラッシュアップしてきて今があります。いきなり事業部全体との取り組みを始めるのではなく、まずは協力的な人を探すことから始めるといいと思います。

↓↓以下のインタビューがとても参考になるので、ぜひ↓↓

実は自治体でも成功事例があった

官民協働提案が花盛りな反面、うまく軌道に乗せ切れている自治体は多くないのではない中、実は先進事例として2010年から10年にわたって地域課題解決型ソーシャルビジネスコンテストを開催している自治体があります。

島根県江津市です。

江津市は、人口減少や伝統産業の衰退、若者の流出などの課題を抱えており、2010年、それらについて具体的なソリューションを求めるビジネスコンテスト「Go-Con」を開催したのです。

なんといっても画期的なのは、支援機関によるビジネスプランのブラッシュアップや、選定された後も資金面や地元企業とのネットワークなど、市が主導して幅広い支援メニューが用意されている点です。

画像4

画像5

審査委員も、自治体案件でよくある「有識者」や「庁内部門長」などではなく、「企業経営者」です。私がかかわっていた2010年には、ソーシャルビジネスの専門家や産業支援にかかわる公的機関の方に交じって、地元企業の社長さん複数名など、およそ自治体の委員会にはありえないメンバーがそろっていました。

また、市長のコミットメントも素晴らしく、最終プレゼンには市長が登壇して自らの思いをしっかりと伝えています。選考課程も市民に公開され、毎回100人規模の市民が集まる一大イベントに成長しているようです。

その経済効果も素晴らしく、新たな移住者の獲得、雇用創出、まちづくり事業の推進など、様々な効果をもたらしています。成果が評価され、平成28年には「第5回地域再生大賞」の大賞を受賞したり、総務省過疎地域自立活性化優良事例表彰(平成25年度)に選定されたりしています。

こうした年1回のコンテストの開催によって自分で生業を作り出せる人を積極的に募集する定住対策への転換に成功し、50名以上の移住者を生み出すことに成功。江津市の人口は、2014年には初の社会増を記録しました。高い高齢化率のため自然減は今なお続くものの、人口減少にも一定の歯止めがかかった感があります。2010~2017年度までの取り組みによって生み出された経済効果は、2017年度の試算で約3億5000万円。これまでに生まれた雇用は、受賞者本人を除いて39人にのぼっています。
 これに合わせ市の上層部も奮起し、1980年代から何度も再生計画が持ち上がっては頓挫していた駅前の再開発事業も30年越しでようやく計画が承認され、駅前複合施設「パレットごうつ」が完成しました。自習室に困っていた地元中高生のたまり場になり、予想外の賑わいにもなっています。地元経済界の尽力で新しいビジネスホテルも完成し、廃墟同然であった街は見違えるほどに再生しました。各地からの視察受け入れも絶えない状態です。
(出典:http://dp03010337.lolipop.jp/wp3/go-con/)

このイベントのすごさについては、以下の記事に詳しいので譲りますね。


いずれにしても、民間のノウハウを積極的に社会課題解決に取り入れていくためには、受入側の自治体の意識変革だけでなく、今の公募・選定の仕組みそのものが変わっていく必要があります。

なかでも、行政側が答えを持っていない社会課題について民間からの提案事業が果たす役割は大きく、現在の官民協働提案事業の成果を高めていくことがとても大切です。そのためには、今の公募選定の仕組みを数段ブラッシュアップしていくことが求められます。

民間が提案し、行政とともに地域の課題解決に取り組むスキームについては、継続的に考えていきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?