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にぎやかな筋肉

ベンチプレスの選手だった頃、とにかく持ち上げるバーベルの重量が増えていくのが嬉しかった。
トレーニングの翌日からは筋肉痛になり、それが収まるまで休養するのが筋トレの鉄則なのだ。(ボディビルの人は毎日痛くない部所の筋肉を鍛えるようだが)
扱える重量が100kgを超えた頃から、夜寝る時に不思議な声が聞こえるようになった。
曰く
「痛い痛い、いい加減にしてくれ」
「痛みがなくなったぞ、早く俺に負荷を与えろ」
「トレーニングしたのに痛くないぞ、これじゃ物足りない」
「痛い、もうベンチプレスはやめろ」
「そろそろ重量を増やしてくれ」
筋肉が指図するのだ。
三島由紀夫さんが著書で「筋肉の饒舌」という言葉を使っていたが、おそらくこの夜毎の声を聞いていたのだろう。
「太陽と鉄」というその著書は、スポーツマンには難解過ぎ、筋肉の言葉を聞いたことのない評論家にはデタラメと評価されなかった不幸な本だ。
しかし、経験から言えば筋肉は間違いなくしゃべるのだ。
おそらく、今夜も…

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