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おかざき真里 『&』 を読む

どこかのテレビ番組で、類人猿の研究者が、「わかる」ということは、想定と本質が矛盾しないことですと説明してたけど、それがまさしくテーマであった、『&』。
タイトル通り、登場人物たちはみんな二つのものを同時に抱えており、それがダブルワークだったり、過去や今、好きな人や好かれている人、責任持たなきゃいけない人間と救いをくれる人間、反発と献身、などなど、&のバラエティは豊かなのです。
その、抱えている二つの項目の間を彷徨き回ることによって自分が相対化されて、自分が何者かという、その輪郭がわかってくる、だがしかしわかってしまったらもう二つ持ってる意味は無いんだという終わり。みんな何かを選ばされるあたりは、平等で良い。全部持ち切れるなんておこがましいよね。
キャラクターの抱えている&の本質を、セックス描写(確かにセックスは、互の身体の&の間で、自分の境目をなぞる行為だわな)によって比喩化しているのは、漫画家さん上手だなあと。頭で考えて言葉になるという入り口と、身体で感じて言葉になるという入り口が二つあると言う意味でも&かな。
自分で自分の輪郭が分からなくても、答えが出ないうちに相手におしまいにされたり、自分が片方持っていたものが尽きたりして、結果的に一つになっていくという、そんな、分かり方もあるわけで、そんな結論の出し方をした、主人公の恋人のおっさん矢飼先生ですが。

救われたいおっさん矢飼先生は、まあ確かにいい男ではあるが途中から「おっさんはどこまでも自分に甘いな、おしまいにされておしまい!!!」と読みながらイライラしてしまい、逆に主人公に一途に恋し続けておること幾星霜の年下男、シロちゃんが確実にいい男になって行くのがなんともよかった。シロちゃんガキやったけど、要所要所で主人公の薫ちゃんに大切なことをガツンと直球で言うので(オッさんは自分に甘いから言わない)、そのあたりからオッさんの雲浮ゆきが怪しくなる。
それにしても、相手から言われたことに対する小さな違和感が膨らんで弾けるみたいな本で、今の自分の気分に合っていたのだろう。
いいな、年下。
作者のおかざきさん、上田の亀齢の蔵元のお嬢さんだったのか。飲みたくなったなあ。むしろ飲みながら読むべきだった。

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