kaname takahashi

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最近の記事

濃霧

 思いの外(ほか)早めに起床した午前五時。訳もなく散歩をしていた。四月も下旬に差し掛かるこの時期になってようやく、朝の冷たさを心地よく感じることができる。道順は決まって同じ。自宅から最寄りのコンビニを経由し長い階段を上がって団地を抜ける。緩やかな坂を登ると見晴らしの良い公園が見えてくる。往路は全て上り坂なので登山と形容するほうが相応しいかもしれない。見慣れた道、お決まりの運動靴。寝ている間についた凝りを解(ほぐ)しながら歩を進めていく。  階段を上がり、途中で振り返ると、家

    • 【1話完結】「持てる者と持たざる者」

       職場のある金融街から電車を乗り継いで三駅、閑静な住宅街と形容するに相応しいこの町の夜に一人、男は帰路につこうとしていた。片山亨(とおる)は大手証券会社に勤務していた。身に余るほどの報酬を得、大学時代に口説いた妻と教科書通りの思春期に突入した中二の娘と三人で暮らしている。特段大きな挫折も、人生のピンチも訪れず−父親と同じ洗濯機で衣服を洗わないで欲しいと云われた時以外は−、ここまでやってきたのだ、と彼はそう考えていた。革靴のカツカツと鳴る音が、二一時のアスファルトに刻まれていっ

      • 『下手なりに君と踊りたい』

        #1 自分について  昔から性格に難があることは自覚していた。具体的に何処が、と訊かれると困るが、総じて人として大事な何かが欠落しているという感覚だけはもっていた。思春期特有の、自分が他とは違う存在なのだと思いたいあれかと思っていたが、どうやら”本物”なのだということに気づくことに、多くの時間を必要とはしなかった。やたらと独りを好み、集団で何かを成すことを馴れ合いだと云って馬鹿にしていた。彼の冷ややかな眼差しは、集団の枠組みそれ自体だけでなくその内部の人間たちにも向けられた