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不意打ちのキスが無い世の中なんて

不意打ちのキスほど心を揺さぶるものはない。

きっかけは単なる夢の話なのだけど。


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場面は何故かエレベーターのなか。いつも使っているオフィスのやつ。

行き先の階数ボタンを押した手が、同じフロアを行き先にしていた彼の手と触れる。

どういうわけか触れた手は触れたまま、優しく包み込むように引き寄せられる。

振り返ると目が合う。

いつもと違う熱を帯びたかのようなとろんとした目。

少し背の高い彼の顔が近づいてくる。

とても自然に、当たり前のように。

高層階でもないわが社のフロアに着くまでの時間なんて微々たるもので、夢の時間はすぐに終わりを告げる。

その間、手の甲には彼の体温を感じたまま。

たった一瞬とでも呼べるほどの時間だったけど、確かに興奮をした。

何食わぬ顔をして開いたエレベーターの扉から同じフロアに二人連なり入る。


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ちなみに断じて今現在、現実世界ではオフィフラブとはほど遠い環境である。なんなら、登場した彼は誰か分からない。たぶん現実にはいないか、遠い知り合い程度の人。

という私にとっては現実離れした夢ではあったけれど、なんかいいなあと思ってしまった。

ふとした瞬間にキス。

まあ、現実問題そうそうあるもんじゃないのだけれども。

酔った勢いでも、顔が近くにあったからでも、とにかく目が合ったからでも。理由はなんだっていい。恋愛対象として見ていなかった人からの不意打ち。

あ、もちろんそもそもある程度人間としての好意は抱いている前提になるかと思うけれど。

いや、もうそんな時代も終わったと言うべき年齢としてはまだ29は早いと思う。

何があってもおかしくない年齢のはず。既婚という倫理的問題はあったとしても。

さて、ただ残念なことにマスク生活が余儀なくされる今、きっとアクシデント的キスは存在しなくなったと思う。

マスク無しで近づくこと自体、恋人か家族でしかほぼないし。微妙な距離感のふたりがいたとして、ふとキスをしたくなっても、それぞれがマスクをはずす時間はとても邪魔だ。かといって、はずしてあげるのもなんか違う。

不意打ちのキスに大事な“不意打ちさ“が消える。

そして、ナチュラルさがなくなる。

マスクをはずすなんて、今からキスするよと宣言するようなもんで、なんというか、残念。

マスク越しというのも全然違う。

ああ、コロナはこんなところにも影響を及ぼしているのか…なんて。

不意打ちのキスが存在する世の中になりますように。

実際にするかどうかはまた別問題で、夢にみれる遊び心くらい持っていたい。

大人になっても、いや大人になったからこそ、そんなときめきをいつまでも感じていたい。


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