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UMassでの一年

メールの通知音が鳴り、さきの部屋の緊張した静けさを破った。震える指で画面をタップし、大学の一年生を形作る言葉を読み上げた。「Wheeler Hall, Room 011」 さきは知らずに息を吐き出した。Wheeler – 噂に聞くパーティー寮ではなく、静かな一年生の居住区だった。良いスタートだと小さく微笑んだ。

Wheeler Hall: 新たな生活の始まり

三週間後、さきはWheeler Hallの前に立っていた。遅い夏の太陽が背中を温める中、レンガ造りの建物を見上げた。周りには、話し声や笑い声、スーツケースがコンクリートに擦れる音が響いていた。親たちは誇らしげで心配そうな声で子供たちを抱きしめ、目を輝かせた新入生たちは、道に迷いながらも興奮と恐怖が混ざった表情で動き回っていた。さきは深呼吸し、背筋をのばした。「やれるよ」と日本語で自分に囁いた。見知らぬ言語の海の中で、馴染みのある言葉が心地よかった。決意を胸に、スーツケースを引きずりながら新しい生活へと足を踏み入れた。

引越し当日、さきは荷物を全て運び終え、何をすべきか寮内をうろうろと歩いていた。寮の共有スペースにいた学生に勇気を出して声をかけた。「すみません」と彼女は、スマホを見つめていた女子学生に声をかけた。「Wi-Fiの接続方法を知っていますか?」その女子学生は顔を上げ、笑顔を見せた。「ちょうどWi-Fiの接続方法を教えてもらったところだよ!教えてあげるね。」そう言って彼女は手助けしながら自己紹介した。
最初の数日は、オリエンテーションイベントやぎこちない自己紹介で過ぎていった。新しい部屋での生活は新鮮だったが、ルームメイトとの関係に少し緊張もあった。三人部屋での共同生活は、プライバシーが少ない分、自然と相手の生活リズムに合わせる必要があった。授業のある建物に近く、食堂のすぐ隣に位置するWheelerは便利で、夜遅くまで勉強する習慣を持つさきには最適だった。その後もゆったりと時間を過ごしていたそんな中、新入生向けの交流の場に積極的に出向き、友人を作ろうと奮闘していた。授業が始まり、同じ専攻の学生との交流の場に先日新しくできた友人とその友人と出かけることになった。待ち合わせ場所には、一日目に声をかけたあの学生もいた。

話すとその学生はマーサといい、ウクライナから高校二年生の時にアメリカに来て、高校時代はクロスカントリーと陸上をやっていて、二歳下に弟がいるという。また、Pre-Medで同じ専攻であり、さきと同じく夜更かしだった。共通点が多く、また授業がたまたま二つ被っていて、寮も同じなのでその後も共に行動する様になった。友人ができるかとても案じ、無理してルームメイトと話したりしていたさきだが、偶然かそれとも運命か、大学に来て一日目一番初めに話しかけたマーサが一番仲が良い友人の一人であり、来年のルームメイトである。

Worcester Dining: 食の楽しみ

Worcester Dining(通称 Woo)は全米で一番美味しい大学食堂だと言われている。その評価にふさわしく、食堂のメニューは多岐にわたり、ハンバーガーからピザ、パスタ、さらには日替わりで日本食や、韓国料理、中華料理、インド料理、メキシカン料理まで揃っていた。さきのお気に入りはオレンジチキンで、その甘辛い味は故郷を思い出させ、新しいアメリカの生活を象徴していた。

試験前になると、深夜0時まで開いている Woo は夜遅くまで勉強するさきの避難所となった。Wooの充電のある席で、コーヒーとフレンチフライをつまみながら、騒がしい中で、集中して勉強するのが彼女のルーティーンだった。また、友人たちと一緒に食堂で時間を過ごし、食堂の閉店間際には一時的に電気が消される、ユニークな風習も、季節限定の料理を楽しむこも、日常の一部となっていた。ハロウィーンに一人一尾ロブスターが振る舞われた時にはとても驚いていた。

Japanese Language Lounge: 文化交流の場

UMassには、日本語を学ぶ学生や日本からの留学生が集まるJapanese Language Loungeがあり、さきにとっては心の拠り所となった。このラウンジでは、おにぎりアクションやお茶会、競技かるたの講演会など、日本文化に触れるイベントが定期的に行われた。
さきは、日本語を教えるだけでなく、自分自身も新たな視点から日本文化を再発見する機会を得た。彼女は日本語を話すこと自体には困難を感じなかったが、実際に質問を受けて説明しようとすると文法などに戸惑うことが多かった。ラウンジには日本語を学び、話せるようになった学生が多く、彼らの助けを借りて説明をすることもあった。彼らが自信を持って学んだ内容をさきに試してくれるのがとても嬉しかった。これを通じて、さきは自分が見たことのない角度から日本文化を理解し、自分の知らない日本の側面についてもっと学びたいと思うようになった。
他の日本人のチューターの中にはアニメや漫画についてあまり知らない人もいたが、アニメや漫画をきっかけに日本の文化や言葉に興味を持つ学生が多かった。さきも以前はアニメや漫画に興味がなかったが、コロナの休みをきっかけにアニメを見始め、様々なテーマが文学と言えるほど深く描かれていることに気づいた。アニメや漫画を好きではない日本人もいるかもしれないが、好きなものを好きと言っている人を馬鹿にする態度は良くないと感じた。自分の好きではないものでも他の人が好きなものかもしれないということを心に留めて人と接するようにしようと決意した。

ある日、さきはサナという交換留学生と出会った。サナは社会学とジェンダーを専攻しており、自身の作品を展示するイベントで多くの新しい友人を紹介してくれた。サナはこの学校に来て二ヶ月ほどですでにたくさんの友達を作り、積極的に交流の場を広げていた。彼女はパレスチナ問題などで行われたwalkやencampusmentについても詳しく教えてくれた。その時、警察が動員されるほどの騒動だったが、サナのおかげでさきは何が起きているのかを理解することができた。さらに、期末試験期間中は一緒に夜中まで開いている建物で課題をして励まし合うことができた。多くの課題や期末試験、インターンなど山ほどのやることがある中で、たくさんのことに挑戦するサナはとてもかっこ良く見えた。

サナは日本に帰る前にさきにコーヒーを奢ってくれた。サナはアメリカで大学院に行きたいと話し、再会した時にはさきがコーヒーを奢る約束をした。夢に向かってひたすら走っていくサナはさきにとって大きな刺激となり、彼女の夢が実現するように心から祈った。また、自分の夢も実現するように、ただひたすらできることを続けていこうと決意を新たにした。

また、さきはJapanese Language Loungeで、みかという友人とも出会った。みかは日本人だがアメリカで生まれ育った。彼女もpre-medの学生であり、同じく医療の道を目指している。図書館でよく一緒に勉強し、彼女のどこでも友達を作る才能を尊敬していた。どんな場所に行っても躊躇せずに会話し、友達を作る彼女は、さきにとって大きなインスピレーションだった。
みかと第一印象について話した際、みかは「さきととても仲良くなりたかった」と言っていた。すぐに友人を作ることができる彼女が、なぜ自分と友人になりたかったのか不思議に思ったが、彼女はさきのことを多くの人と仲良くする中心的な存在と見ていたという。みかもサナと同様に色々なことに挑戦する学生であり、さきにとって大きな刺激となった。自分がまだ力不足だと感じることがあっても、みかのように自分を信じてくれる友人がいることが力になると感じた。自信を失いそうになった時、みかの言葉を思い出し、頑張っていくことを決意した。また、すごいと思った時は思っているだけでなく、伝えていくことで少しでも他人の力になるように心掛けることにした。

Mu Epsilon Delta(MED): 新しい挑戦

Biology の授業中、さきの一年は予期せぬ方向へと進んだ。ある日、ある学生が講義室の前に立ち、「皆さんこんにちは、新しいフラタニティ、Mu Epsilon Deltaについてお話しします」と声をかけた。さきとマーサは困惑した顔を見合わせたが、好奇心が勝り、イベントに参加してみることにした。知らないうちに、彼女たちはMEDの世界に深く入り込み、イベントに参加し、地域奉仕活動を行い、友情を築いていった。MEDは、同じようなキャリアを夢見る学生がともに高めあうProfessional Fraternity と呼ばれ、Pre-healthの学生が集うフラタニティだった。

加入後、さきは様々なイベントに参加し、多くの知識とスキルを得た。特に楽しかったのは、suturing clinicで、実際に縫合の技術を学ぶことができた。また、Suicide Prevention Walkなどのイベントにも参加し、仲間たちと共に社会貢献活動に取り組んだ。さらに、さきはMu Epsilon DeltaのSocial Media Chairとして活動し、SNSの投稿やイベントの広報を担当することとなった。


勉強スポットと試験期間

中間試験が迫る中、さきは自分の聖域となる勉強スポットを見つけた。ISB(Integrated Science Building)は試験前になると学生が出入り口のドアが閉まらないように石を挟んでおいていたり、実際に友達なわけではないが、勉強したい学生が協力しあって24時間体制で学ぶ場所だった。一晩ぶっ続けで課題をするのにもってこいの集中できる建物である。そして、図書館の21階、静寂の中で短い仮眠をとり、課題に取り組むのである。このフロアは日本語の小説が置かれており、雑談OKのフロアであるため、リラックスしながら勉強するのに最適だった。図書館のProcrastination Stationと言うカフェでカフェラテを買いそれを飲みながら課題に取り組むのがさきのルーティーンとなっていた。また、寮に近いIsenbergは深夜に鍵を忘れても避難できる場所となり、仲間たちと共に過ごすことができた。来年ももっとたくさんニッチなお気に入りスポットを見つけていくのが楽しみである。

さきはノートをまとめることが好きで、教授のプレゼンテーションや教科書を基に自分だけのノートを作成していた。また、暗記したい内容は何度もホワイトボードに書き写し、友人に教えることで理解を深めていた。Biology の試験では1回目の試験で100点、2回目でも95点を取ることができ、難しいと言われていた授業でもうまく対策ができた。

課外活動と将来の計画

二学期の終わりが近づく頃、さきはPallas LabというNeuroscience関係の研究室での夏の研究インターンに応募した。面接では教授と雑談を交えながら研究内容について話を聞き、自分の知識不足を痛感した。しかし、その経験はさきにとって大きな学びとなり、さらに頑張ろうという意欲を掻き立てた。
また、さきは大学生活の中で多くの課外活動にも挑戦した。Civictech Challenge Cup U-22やDots to Codeといったハッカソンに参加し、FlutterやUnityについて学びながらプロジェクトを進めた。さらに、夏休みにはオンラインのAI関連企業でインターンを行い、実践的なスキルを身につけるている。
さきはこの夏EMT(Emergency Medical Technician)の授業を受講し、医療現場での実務経験を積むことを目指している。将来的には神経科学の分野で活躍する外科医を目指し、Pallas Labでの研究に参加することを計画している。来たる秋学期にIntro to Neuroscienceの授業を履修し、春学期には面接を行った教授が教えるAdcanced Neuroscienceをとりもう一度Pallas Labに挑戦しようと計画している。


季節は初夏へと移り変わり、キャンパスには新緑が広がっていた。さきはWheeler寮の前にある落書きされた階段を見つめながら、そこに描かれたメッセージや絵に思いを馳せていた。社会問題についての意見や感情が色鮮やかに表現されたその階段は、学生たちの声が詰まった場所だった。

ある日、UMassでは今日は日食がみられる日だと、盛り上がっていた、教授によっては日食をみんなに見逃して欲しくないと、授業をキャンセルしていた。さきは日食を見るためのソーラーグラスをもらい、友人たちと一緒に外で楽しんだ。日食は多様な学生や教授が一緒になって楽しんだイベントで、普段関わらないような人たちが集まり、太陽に注目する光景が広がった。パーティーに参加してばかりの学生とハッカソンに積極的に参加する学生が一緒に楽しめるこんなイベントがもっとあればいいなと思った。
さきは図書館での勉強を終えた後、Wooへ向かった。夜9時を過ぎると提供されるオレンジチキンが食べたくて、足早に食堂へ向かったのだ。友人たちと一緒にテーブルを囲み、美味しい食事と共に楽しい会話が弾んだ。その時間は、さきにとって何よりも大切なひとときだった。試験前になると、さきはISBやIsenbergで夜遅くまで勉強することが増えた。偶然なのかどうかはわからないが、さきの友人たちのほとんどは驚くほど夜更かしをしている。ある日、ある友人がふざけてこう言った。「さきがみんなに夜更かしを広めているんじゃないの?」その言葉が頭から離れない。さきは、「もしかすると、私には人々を夜更かしさせる不思議な力があるのだろうか」と考え始めた。そう思い始めると、いつも彼女の周りには夜更かしの仲間がいるのが妙に納得できてしまう。星空の下、静かな夜が彼女たちの時間を吸い込み、心地よい夜の静けさに包まれて、また今日も夜更かしの勉強会が続く。同じ目標を持つ仲間たちと共に過ごす時間は、彼女にとって大きなモチベーションとなった。夜の静寂の中で、彼女たちは互いに励まし合いながら、一歩一歩目標に向かって進んでいった。



一年の総括と成長

一年が終わり、さきは夏休みの準備をしていた。最後のJapanese Language Loungeで撮った写真を見て、一年でどれだけ成長したかに驚いていた。キャンパスに足を踏み入れたばかりの不安な新入生は、今では自信を持ち、適応力を身につけ、世界に対する好奇心がさらに増した。
大学生活を通じて、さきは新しい環境で新しいことに挑戦する機会を得た。高校時代は、英語が話せずモジモジしていたため、自分についたステレオタイプから抜け出せずにいた。しかし、大学では自分のなりたい自分をイメージしながら人と関わることで、意外とできないと思っていたことができるようになり、新しい友達も作ることができた。自分の上限を自分で決めず、新しい自分を出せる環境を探しながら、交流の場に出向こうと決意した。

また、この一年で大学での勉強の仕方も分かり始めた。高校より難しくなっているはずの授業や課題にも、忙しさに振り落とされずに地に足をつけて向き合うことができた。計画的に進めることで、来年度も確実に後悔しないように進んでいくつもりだ。

さらに、今後のキャリアや人生のビジョンも明確になった。さきは当初から医者、特に外科医を目指していたが、この一年を通じて神経科学関連の医学分野で活躍したいと考えるようになった。UMassに入学した当初はBiochemistry and Molecular Biologyのみを専攻していたが、一学期にIntro to Psychologyのクラスを受け、脳、特に脳の解剖学に興味を持ち、PsychologyのNeuroscienceトラックをダブルメジャーにすることを決めた。さらに、二学期には高校時代に学んでいた中国語の授業やComputer Scienceの授業を取り、課外活動でハッカソンなどに参加していたこともあり、Computer Scienceも専攻することに決めた。将来的には、American Sign Languageの授業も受けてみたいと考えている。これは、以前図書館で課題をしていた時に、向かいに座っていた学生がオンラインミーティングを手話で行っているのを見て、自分もできるようになりたいと思ったことがきっかけだった。恥ずかしくて話しかける勇気はなかったが、次に同じようなことをしている人がいたら話しかけてみたいと思っている。
さきは微笑み、写真を大切に包んでスーツケースに入れた。来年の目標は明確だ:成績を維持し、研究に没頭し(Pallas Labに狙いを定めて)、自分の快適ゾーンを超えて人脈を広げること。脳神経外科医への道はまだ遠いが、この一年で得た友情や経験、知識がその道を照らしている。

寮のドアを最後に閉める時、さきは新しい冒険への期待で胸を膨らませた。UMassはただの学校ではなく、彼女の家であり、コミュニティであり、夢の出発点となった。最初の一年が終わり、次の章が始まるのが待ちきれない。



-  あとがき  -

この一年間の大学生活に関するレポートを書く機会を通して、自分の一年間を思い出しながら、良かったことも悪かったことも振り返ることができたと思います。何ができるようになって、どんな経験をしたのか、そして来年どう成長していきたいか、来年へのビジョンがはっきりとしました。レポートを書くにあたって、楽しんで読んでもらえるように小説風に書いてみました。楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。

Mia


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