鏡のピエタ
――もしも 君がぼくで ぼくが君なら。
ぼくが君なら同じようにそれをいさぎよく選んでしまえたか?
ぼくはずるいから、迷いながらそれを選べないまま。
死しかその、
船底からじわじわと浸食する、
沈むのが決まっているような冷たい、
君自身の、
あるいは繰り返される輪廻のような苦しみを、
葬り去る手段はなかったか?
その水は掻き出せないだろうか、
別の船に移れないだろうか?
ぼくはまだ期待してしまうのだ、この期に及んで。
ぼくに、ぼくは、どこか。
決まっている運命はすでにあるのだとしても。
最期の時、
君は深く海の中にいて、
その息は暗い海に呑まれて消えた。
もう血の通った君はいない。
君の記憶は漂い、
あいまいなまま、
ぼくの中を貫いてぼくを震わせる。
もしも 君がぼくで ぼくが君なら――。
割れた鏡、その中に映るのは母親に抱き締められた君の亡骸。