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たった数分の立ち話に、こんなにも勇気づけられるだなんて。

ふとした会話や出来事、誰かの言葉に救われることってある。

勇気づけようとか励まそうとか、そんな意図なんてない。ぽんとその場でその人の口から出てきた言葉。きっと当の本人はそんなこと言ったのかなってくらいの温度感なんだろうけど、言葉をもらった相手にとっては忘れられない出来事となるんだろう。

この人に話してよかった、そう思えるからこそ「お時間いただきありがとうございました。」と感謝の言葉が自然とでてくる。

とりあえず言っておこうかな。そんな軽々しさではなく、優しく温かい、ほっこりとした温度感。

その日の日記にはそんな出来事について言葉が綴られている。数日経ったいまでも、思い出すと心がぽっと温かくなる。

それはたった数分の立ち話、だけど私にとっては優しい時間だった。いまの気持ちを覚えておきたくて、そっとnoteに思い出を残すかのように綴っておこうと思う。


気づいたら最終出社日まで残り一週間となっていた。在宅勤務の日もあるから、出社するのは片手で数えるほど。

話すタイミングがあったら会えた人にだけ直接伝えようかな、そんな気持ちでこの一ヶ月は過ごしていた。そして先日、たまたまそんなタイミングが訪れた。

相手は隣の課の課長さん。私のお母さん世代の優しく可愛らしい女性。

課は違うけれど、同じ支店内にいるので頻繁に顔は合わす。昨年からその課の事務業務をこっちで引き受けることになってしまったので業務的な関わりもあった。

この書類お渡ししてもいいですか、支店内を歩いていたらそう声をかけられた。もちろんです、と返事をして書類を受け取る。そのままいつも通り変わらぬ顔で席に戻ることもできたのだけど、その日はちょっと違った。

「実は今月末が最終出社日で、来月に退社するんです。」ちょっとした告白めいた言い方で、私はそう話を切り出した。

急にこんな話してしまってすみません、気まずそうに言葉を続けた私と「知らなかった、わー、もうすぐじゃん!」といつもは丁寧な言葉を並べるのにこのときばかりは近所のお姉さんのようだった彼女。

そっか辞めちゃうんだね、寂しいねと言葉を続けながらふと思い立ったように「どうして辞めようと思ったの?」と私に聞いてきた。

実はやりたいことがあって、そうぼそっと答えた私。やりたいことがあるから、その理由を口に出すのは会社の人を目の前にするとなぜだか気恥ずかしい。だから、興味なかったらそれ以上は深堀りしなくても大丈夫ですからねという意味合いも込めて小さな声でつぶやくように言ってみた。

すると彼女は「え!素敵!やりたいことってなんだろう。それって聞いてもいいのかな?」とわくわくした様子で会話を続ける。

そう聞かれても私自身まったく嫌な気がしなかった。相手や状況によっては濁してしまうときもあるから、なんとも不思議だ。会社の人に話したところで、そんな冷めた気持ちでいたけれどこのときばかりは彼女なら大丈夫かもしれないと思えてしまった。

実は花の世界に飛び込もうと思っていて、最近フラワーアレンジメントの教室にも通いはじめたんです。新しいことを始めるならいまの年齢かなと、そう思ってこのタイミングでの退社となりました。

私はちょっともじもじしながら素直にいまの気持ちを言葉にした。

やりたいことがあるって素敵なことだよ。いまはやりたいことがない、見つからないって人の方が大半なんじゃないのかな。将来的にやりたいことがあるなら、それに近づける環境で働くのがいいよ。

この人なら大丈夫かもしれない、ふと芽生えた気持ちは間違っていなかったようだ。そして次のように言葉は続く。

実はね、娘がまだ小さかった頃は花屋さんでパートをしていたの。でも花束のセンスが壊滅的で、それで挫折しちゃったんだ。花はいいよね、花屋で働きはじめたら教えてね。買いにいきたいな。

花とはまったくもって相容れない業界でいまは課長を務めている彼女、その過去を知って私はほんの少し勇気をもらったような感覚になった。

26歳だなんてまだまだ若いよ。だから大丈夫。この会社を辞めちゃうのは寂しいことだけど、あなたのこれからが楽しみ。残り少ないけれど、よろしくね!

彼女は私にそんな言葉を残し、手渡された書類を抱えながらの立ち話は終わった。

たった数分の出来事、意図して話す時間をつくったわけではない。それなのに私の心は優しさと温かさで包まれていた。そして席に戻りいつも通りパソコンに向き合いながらも、私の脳内は業務のことなんかそっちのけで話せてよかったという安堵感と、よし頑張ろうというわくわくで表情からは笑みがこぼれていた。


彼女は私の直属の上司ではない。でもたまにこの人が私の上司だったらなと思うことはあった。

歳の差ふたまわりはあるだろう、そんな私に対してもいつも丁寧な言葉で接してくれる。優しいだけじゃない、頼りになる女性、それが私の中での彼女の印象だった。

こんな女性になりたい、自分の立場が上になったらこんな上司になりたい、理想の大人、その言葉で思い浮かぶ人たちは何人かいる。でもいまの会社の人は男女ともに誰一人いなかった、いれようともしていなかったという解釈が正しいのかもしれないけれど。

でもこの日の出来事を通じて、こうなりたいと思える人がこの会社にも、そしてこんな近くにいたんだなと気づかされた。優しいだけじゃない、頼りになる女性。まだまだ遠い未来になりそうだけれど、そうなれるようにこれから私は一つ一つの経験を積み重ねていくんだ。


冒頭に書いた言葉は彼女との出来事を思い返していたとき、ふと感じたことにすぎない。

ふとした会話や出来事、誰かの言葉に救われることってある。

でも、日々の暮らしにおいて大事な要素でもあると私は思う。

ふとしたときに掛けられた言葉や誰かのちょっとした行動に勇気づけられたり、励まされたり、心優しくなれたり、押し付けじゃないからこそ受け取った側の記憶にそっと残って支え続けてくれるのかもしれない。

私はその日、たった数分の立ち話に予期せずこんなにも元気をもらってしまった。あのとき話してよかった、ちゃんと自分の口から伝えられてよかった。いまはそう思える。

最終出社日まで残り一週間、そういう機会を少しでも多くつくれたらいいね。

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