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貴方がいるから、お店に立つ楽しさってこれなのかもしれない。

「あなたのこと覚えてる、あなたがいるからこのお店にきたの。」

雨の降る日曜日、お店にきてくれたとあるお客さんが私にかけてくれた言葉。

その言葉は私が抱えていた悩みも不安も、週末にかけて溜まっていた疲労もなにもかもを軽く吹っ飛ばしてくれた。

素直にうれしかった、そんな小さな喜びの出来事をここに綴っておこう。いつかつらくなってしまったとき、お店で働くことの楽しさを再び思い出せるように。

***

いまの花屋で働くと決めたとき、中国語を話す機会はまずないだろうと思っていた。でもいまの私はそれで構わなかった、中国語を仕事で使いたい!と意気込んで就職活動をしていた時期もあったけれど、その気持ちはいまではだいぶ薄れている。

好きで勉強している、中国語を話す時間が楽しくて好き。自分にとっての中国語に対する温度感はそんなもんだ。話せるのにもったいない、そう今でも言われることはあるけれどもう気にならなくなった。

けれど、それはただの思い込みでしかなかったらしい。いまの花屋で働きはじめてもうじき一年、思わぬところで中国語が役に立っているのだから。

冒頭の言葉は日本語で書いたけれど、実際は中国語だ。そして、とあるお客さんは中国人ご夫婦であり、その奥さん。

旦那さんは日本語が話せるけれど、奥さんはまったく話せない。だから普段の買い物では旦那さんの後ろにいて、お店の人と会話することはほぼないそうだ。

だから初めてお店にきてくれたときも奥さんは旦那さんを介して花のことやお店のあれこれを質問をしてきた。綺麗で物静かな人、そんなクールな印象。

向こうはザ・日本人な見た目をしている私が中国語を話せるなんてこれっぽっちも思っていなかっただろう。私がその質問に中国語で答えると「え、中国語話せるの!」と驚いた表情をみせた。

するとそれまで静かに黙っていた奥さんがぱあっと笑顔になり、楽しそうに店内の花をみては「これ素敵」「この色好き」と私に話しかけてくるように。その様子をみた旦那さんは「あなたが中国語を話せると知って彼女は安心したみたい。」と声をかけてくれた。

そして二人は「春節が終わって日本に戻ってきたら、花を買いにまたお店にきますね。」と言葉を残してお店を後にした。

あれから数週間、ほんとうにご夫婦はまたお店に足を運んでくれたのだ。

私はすぐに気づき「あ!春節が終わって、日本に戻ってきたんですね。」と中国語で話しかける。そして彼女がかけてくれたのが冒頭の言葉。

「あなたのこと覚えてる、あなたがいるからこのお店にきたの。」

二人は私が束ねた花束と、奥さんが気に入った白のアルストロメリアを買っていった。

そして「また来ます」と言葉を残し、お店を去っていった。

二人が帰っていった後、私の心は外の凍えるような寒さとは比べ物にならないくらいぽかぽかと温まっていた。ただただ嬉しかった、自分はまだまだと落ち込む日の方がいまは多いけれどそんなことないよと彼女の言葉が私の背中を押してくれたから。

***

何がどこで役立つのかなんて、分からないものだ。

彼女にとって、ここが安心して過ごせる場所になってくれたのであればそれほど嬉しいことはない。私はただの一スタッフ、社員として働きはじめてまだ一年経っていない見習いフローリスト。けれどもお客さんからしたら、私はそのお店の人であり、そんな肩書きは知る由もない。

そういえば事務職をしていたとき、パソコンの文字だけの会話がつまらなく感じて、感謝の言葉を直接顔を見て言い合えるような働き方ができたらいいのに、だなんて言っていたものだ。それがいまちゃんと実現したんだね。

お店で働くということ、その楽しさを改めて気づかされた。

またあの夫婦とお話しできたらいいな、そのときは何をおすすめしようか。花の名前を中国語で言えるようになれたら楽しいんだろうな。

もっとスキルを磨いて、日本語でも中国語でもお客さんとの会話をもっと楽しめるようになりたい。そう思わされた日曜日のこと。






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