【映画鑑賞】『PERFECT DAYS』#5 素人でも楽しめる映像美

引き続き、一度しか観ていないのにずっと考えているシリーズです。
今回は映像について。
(約1100字)

この作品の監督はヴィム・ヴェンダースと知って、評判高い『ベルリン・天使の詩』を手掛けた監督だと思い当たるが、まだ観ていなかった。
ナスターシャ・キンスキーが出演した『パリテキサス』も彼の作品と知るも、これまた観ていなかった。
しだいに募る罪悪感。積読(つんどく)の罪悪感に似ている。

いやいや、監督の過去の作品を観ていなくても、まったく問題はない。
最初に観たヴェンダース監督作品が『PERFECT DAYS』であっても全然OKなのだ。難しいことを知らなくても、うんちくを語れない素人でも、良さが伝わってくる。
それに、古い映画を観ていないほうが若い人みたいでいいじゃないか。

と開き直ったところで作品中の特に印象に残った映像場面を振り返る。

夜明け

主人公平山の目覚めから朝のルーティンの描写が黙々と流れていくなかで、一気に視座(見ている位置)が天空にうつり、まだ薄暗い東京の市街地全体をジオラマのように広い視野でとらえたあと、向かい側正面に朝日が昇る。

この視座は東京スカイツリーのてっぺんだと思ったが、合っているだろうか。ハイテクを象徴するこの塔はここでは視野に入っていなかったと記憶しているが、作品中で何度も映されて、平山の古いアパートや周辺の下町と対照的な存在だった。

この夜明けの描写は『2001年宇宙の旅』で見たワンシーンのような神々しさがある。東京スカイツリーからでなくても、「神みたいな何か」が人間たちの営みを見ているようだった。2回繰り返されれば、2日が過ぎたんだなとわからせてくれる。言葉はいらない。

樹々、木漏れ日

#1で書いた、簡単な昼食をとる鎮守の森で、あるいは#2に書いたとおり、仕事が中断されたときに、平山は大木の枝葉のそよぎを仰ぎ、眼下の木漏れ日に目を留め、フィルムカメラにおさめる。

この美しさもわかりやすい。多くの人の共感を呼ぶ。

もしかしてこれって、神宮外苑の再開発に伴う伐採への静かな抵抗ではないだろうか。少なくとも、観た人は「こんな癒しを与えてくれる樹々は大切だよな~」と感じるだろう。都民でなくても、身近にある公園や並木に思いを馳せるのではないか。伐採への反対を表明されていた故坂本龍一さんの遺志が引き継がれているように思えた。

伐採作業は昨年9月に延期が決定され、再開は今年1月以降の予定となっている。

この作品がますます多くの人に受け入れられるにつれ、再開発で失われるのは単に樹々だけではないという理解が広まるような気がする。
言葉で伝えない、言葉で争わないという映像の強みさえ感じた。

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長くなってきたので2回に分けることにいたします。




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