見出し画像

今日は5/27の書評『ペスト』カミュ

*たぶんそんなにネタバレはありませんが、一部引用があります。

・有名な古典作品です。まだぎりぎり著作権の切れてない翻訳小説ですね。ヨーロッパとかだと切れてるんだろうか。

・ドストエフスキーとか、ニーチェとか、トルストイとかサルトルとか、著作権が向こうだと切れてるけどこっちだと切れてないぎりぎりの世代のひとりだと思います。作品によって切れてる切れてないはあると思いますが。

・まあ日本語訳は古くなればなるほど翻訳が堅苦しくて、老人の話を聞いてるみたいになるし、定期的に刷新されて新しくなりますので、切れたところでなんだという話ではありますけどね。

・そしてこの話は全然関係ないしどうでもいいので先に進みます。

・『ペスト』は近代古典の中でもとりわけて有名で、昨今の情勢もありめちゃくちゃ知られているから、あえて概略を説明する必要もない気はしますが、とある街が突如としてネズミの大量発生と大量死に襲われ、ペストがそれと知られずに流行して、世界から本当の意味で完全に隔絶される物語です。

・このペストの流行は実際の事件かというとそうではなく、完全なフィクションとのことです。しかしカミュは考証に相当苦労したそうですね。

・この上記した「それと知られずに流行する」というのがまあなかなか癖があって注目すべきポイントかなと思うわけです。ペストなんか完全に滅んだと思われていたから初動が遅れたし、判断も遅れて、対応もしっちゃかめっちゃかになって、ペストだと分かった時には手遅れ、という、やるせない展開を迎えます。

・前の記事で「ポストアポカリプス」の話をして、そこでは我々の道徳や倫理の継続が行われるみたいなことを言いましたが、そういう意味ではかなりポストアポカリプスに近しい設定かもしれません。

・第一部は事件の始まりが医師の主観的に描かれた上で、第二部以降は徹底して街の混乱と人々の困惑、事態の悪化とそれに伴う様々な現象が、客観的に描かれているのがこの作品でした。

・この迫ってくる凄まじいリアリティが圧倒的で、文章も堅苦しくて重々しい作品なのに「一気読み」ができるという特殊な体験ができます。ただペストに行われる街を描いているだけなのに、「続きが気になる」のはズルい。ドストエフスキーは一気読みできませんからね。

・ああ、なんか、指名手配犯を捕まえるまでのドキュメンタリとかあるじゃないですか。新聞とかテレビとかで。あれを見ている感覚に近しかったです。ていうか、エンタメとして得る感覚はそのものかもしれない。それを小説でやってるのってすごいんですけど、まあいいとして。

・この作品の優れている点はそういった構成の面を離れても存在していて、私はそれをいわば「事件の普遍性」かなと思うわけです。

・解釈的には、ナチス・ドイツの圧政を喩えてるというのが一般的だそうですが、私にはこれが事実そうなのか分かりません。そうだと言われればそうだし、違うと言われれば違う。何が言いたいかというと、いまこの小説がはじめて書かれてはじめて発表されたら、これは「コロナ」を喩えた小説になるからです。

・スターリンの時期に書かれたら「共産主義」の話になるし、ポル・ポトの時代に書かれてもトランプの時代に書かれても、あるいは、ということになります。

・「事件の普遍性」とはそういうことです。伝わりますか?

・時代を超えて、世間を大きく巻き込んだ物事に対しては、どう足掻いても当てはめることが可能だという点が、このカミュの『ペスト』の著しく優れた点です。「凄まじいリアリティ」もそういう意味で言いました。

・私は当然のようにこの作品を、現状世界を襲っているパンデミックの話として捉えることができたし、五十年後に読んだ時には、五十年後に起きている事件の比喩だと思って読むと思います。

・作品の意義深さは伝わってくれたでしょうか。ここからはおまけという名の本編です。

ここから先は

1,652字
1ヶ月分の毎日の日記、エッセイ、随筆、評論などが2点ほど読めるようにします。

2022年5月3日から、6月3日までの購読用マガジン。1ヶ月分の毎日の日記、エッセイ、随筆、評論などが2点ほど読めるようにします。

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,460件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?