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【Jazz小説】Tea for two -2人でお茶を

皆さん、こんにちは!
星<star>になる可能性を秘めた女の子っ!未星です!

今日はバレンタインデーですね。
私のバレンタインの思い出は友だちとお菓子の物々交換したことですね😅
私は材料入れて焼くだけの簡単なチョコレートケーキを作ってましたが、
友達の1人はクッキーを作ってくれました!
お菓子作れる人って凄いですよね🤩 尊敬です...。

そんなわけでjazz小説1回目は、そんなバレンタインにちなんで、
甘〜いお話を。

【Tea for two】

という曲をご紹介いたします。
日本語でいうと あなたとお茶を という題名になります。

この曲は・・・

内容としては、もう超絶スーパーお花畑songです💕💕
なので全力で甘々に書いてみました!😂

Tea for two 歌詞と和訳(未星的)

Picture you upon my knee,
Just tea for two and two for me,
Just me for you,And you for me alone

Nobody near us to see us or hear us
No friends or relations on weekend vacations
We won’t have it known,That we own a telephone,dear

Day will Break and you’ll awake And start to bake a suger cake
For me to take for all the boys to see

We will raise a family, a boy for a girl for me.
Oh,can’t you see how happy we would be?

未星’s 解釈

ねぇ、あなた。私の膝の上にいるのを考えてみて!
今2人で紅茶を飲むの。
私はあなたのものだし、あなただって私のものなのよ!

週末のお休みに友達や知人はここにはいないの
だから2人でいるところを見られることも話を聞かれることもないわ。
電話なんて取りたくないわ!あなたもそう思わない?
夜が明けるとあなたは起きて、私を見に来た男の子達のために
甘いケーキを作ってくれるのよね

そして私たちは男の子と女の子を育てるの。
男の子はあなた似で女の子は私に似てるかしら?
私たちとっても幸せになれるわ!!


小説はPixivさんでも載せております。↓↓↓

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14669416

読みやすい方で読んでいただければ幸いです😆⭐️


Tea for two 小説本編

「パパママ!結婚20周年おめでとー!!」
2人の男女は、言葉と共に向かいに座る2人に向けてクラッカーを鳴らした。
クラッカーの先にいた夫婦は「ありがとう」と少し照れたように笑った。

食後、キッチンで兄妹は皿洗いをしていた。皿を布きんで拭きながら横で皿を洗う兄に話を始めた。
「喜んでくれてよかったね!お兄ちゃん。パパ苦笑いだったけど。」
「そうだな。母さんも喜んでくれてたし、父さんのあれは・・慣れてないだけだろ。祝われるの。」
「そうだね。でもさ、私思うんだよね。何でママパパと結婚したんだろう。」
「ん?好きだからじゃねぇの?」
「まぁそれはそうだけどさ。お父さんってあんまり話すタイプでもないし、顏だってどこにでもいそうな顔してしてるしさー」
「お前、親に対して顔が評価ひどいな」
「だって!あのママだよ!おじいちゃんち行ったら、モテた話しか聞かないし、一緒に歩いてても人目は引くし、未だに指輪してるのにナンパされたりちょっかいかけられたりすんだよ!!疑問に思うじゃん!!」
「まぁ、俺も面談とか授業参観の時に散々言われまくったしな。分からんでもない」
「パパももちろん大好きだけどさ、なんというかあのママの容姿ならもっと他の人でもよかったんじゃないのかなと。なんでパパだったんだろう・・・・」

兄妹がキッチンで頭を悩ましていると、リビングの扉が開き、
「お風呂あがったわよー。後片付けありがとうね。後は私がやっておくからどっちかお風呂入っちゃいなさい」と母親が頭をタオルで拭きながら2人に言った。2人はとりあえず切りのいいところまで片づけ、リビングを後にした。

「じゃ、おやすみー」
「お休み。ちゃんと休むのよー。」
風呂を入り終えた2人は、そういって部屋に入って行った。
母親はソファーに座っていると、マグカップを2つ持って男が横に腰掛けた。
男はマグカップを差し出すと、「ありがとう、あなた」と女が笑顔で受け取った。
「あなた、20年ありがとう」そう言って2人はマグカップをチンと鳴らして乾杯し、同じタイミングで口に含んだ。マグカップから口を離した女はフフフと笑い始めた。
「ん?どうした。何かあったのか?」男がメガネを曇らせながら、女の顔を見た。
「さっきね、子供たちが『なんでママはパパを選んだのか』って話してるの聞いちゃって。」
「そんな話してたのかあいつら。」男は前を向いて苦笑した。
「私にとってあなた以上に一緒にいたいと思う人いないのにね」
「・・・・・・」男はマグカップを口につけた。
女はマグカップの中身をぼんやり見つめながら、追憶した。

――

「谷山ってさ、美人だよな」
「それな、しかもすげぇ胸でけぇし。やべぇよな、あいつ」
廊下を歩いていると、廊下の端で男子たちの会話が聞こえた。
私は小さくため息をついてしまった。

好きでこの体に生まれたわけではない。顏も体も生まれ持ってそうなってしまった。それなのに、勝手にミスコン1位をさせられて、好奇な目で見られ、男の人から声を掛けられることも多い。おかげで女の子の友達は少ないどころがむしろ避けられてたり睨まれたりして、仲のいい子と言えば、隣でブツブツ「恵理花のこと変な目で見やがってぇ」と嫌そうな顔をしている和花とあとほんの数人だけだ。 
もっと静かに生活したい。目立たず、素の私で人と関わりたい。
叶うことがない私の願いは、いつから願っていたかももう思い出せない。

歩いていても近郊の高校まで噂は広がっている。“胸のでかい超絶美人が北校にいる”。私のプライバシーも何もない。歩いていても人の目は引くし、最悪声だって掛けられる。もっと静かに生活したい。そう思いながら、バスの中で大きくため息をついてしまった。
気が付くと寝てしまっていて、慌てて飛び降りたら、そこは高校からも40-50分離れた駅だった。帰りのバスの時間を確認すると、今から1時間弱後だった。親を呼ぶにしても2人とも仕事で、今の時間じゃ来てくれてもバスの時間よりそんなに変わらなくなってしまう。私は途方に暮れて、時間をつぶせる場所を探して歩いた。
すると、駅の近くに喫茶店を見つけた。とりあえず、外も寒いし、バスも見える距離にあるので入って温まることにした。中に入ると、外と比べて人が多く、サラリーマンやおばさんなどみんな会話をしたりパソコンを前に仕事をしていた。私はカップの飲み物を片手に空いてる席を探した。すると、窓側に1席だけ空いているところを見つけた。

しかし、
「うわっ、うちの制服。こんな離れたところにまでうちの生徒いるの?」と思った。
空席の隣には恵理花と同じ学校の制服を着た男の子がイヤホンで音楽を聴きながら教科書を開き、ノートにペンを走らせていた。座りたくはなかったがそこしか空いてないこと、外は寒くて出られないこともあり、仕方ないとため息をつき男子生徒の隣に腰を掛けた。
恵理花は男子生徒を横目で見ながら、両手でカップを持ち口に含んだ。
男子生徒は全く何も変わらなかった。隣に座ると微妙にイヤホンから音漏れがしていたが、喫茶店内の騒音で何の曲かは聞き取れなかった。恵理花は少し男子生徒に興味を持った。
男子生徒の教科書やノートをチラ見とのぞき見した。男子生徒の書く字は綺麗で、とても読みやすい字だった。教科書にもポイント等が細かに分かりやすく明記されていて、勉強ができる人であることが分かった。恵理花がじーとみていると、
「あの、そんなに凝視されると勉強しにくいんですけど」と男子生徒が顔を上げ、恵理花のほうを見て言った。
恵理花は顔を赤くてして「ごめんなさい。」と謝った。そして
「つい。教科書とかノートの字が綺麗だった物で気になっちゃって」と話をした。
内心、何言ってるんだ私!と本音を口にしたことに焦っていた。
男子学生は不思議そうな顔をしていたが、少しの沈黙の後「ありがとう」と真顔で言って、また顔をノートに戻して字を書き始めた。
恵理花にとってその行為はとても新鮮だった。自分を普通の人として扱ってくれている。好奇な目や声を掛けてこない。その男子学生に興味を持った。

「やぁ、また会ったわね。」
その後恵理花は学校からかなり離れたその喫茶店に通うようになった。
ここは知っている人がいない、高校も近くにないから学生もいない。だから自然に溶け込めるし、静かで居心地がいい。そして、
「・・・・・・」男子生徒は眉を顰めながらメガネのふちを触った。
彼の名前は知らない。学校で見かけたこともないし、彼も私に話しかけてきたことはない。だから、私は彼のことを何も知らない。知っているのは、彼が私と同じ高校で、ここの喫茶店で勉強をよくしているということともう一つ。
「横に座ってもいいかしら?」私が言うと、「今日結構席空いてるけど」と彼は間髪入れずに返してきた。
「そ、そう?気のせいじゃない?」私はしらばっくれた。彼はそうすると諦めて「好きにすれば」と返してくれた。
彼のことは本当によく分からない。私に話しかけてこないし、私のことを聞いてこない。ただただそこにいる人として扱ってくる。とても居心地がいいとともに、私は彼のことが気になって仕方なかった。ただ、話す勇気もなければ、声の掛け方すらも分からない。自分の人生を少し反省しつつ、自分のノートを開いて勉強を始めた。すると分からない問題ができてきた。うーんと思いながら首をかしげていると、
「教科書36P。」
「へ?」
「教科書36Pの問題の応用。これをこうすれば答えは出るから」
男子生徒が私のノートにシャーペンで指を指した。
「あ・・ありがとう。」私はお礼を言うと
「隣でうーんうーんうるさいんだよ。分かんないんなら聞いてくれればいいから。」男子生徒は少し照れたように言葉を返した。
彼と少し話ができた。寝る前のベッドの上でその時のことを思い出して、バタバタしていたら下からお母さんに怒られてしまった。

それから2人でよく勉強をするようになった。相変わらず彼のことは良く知らないし、彼も私のことを知ろうとしない。お互い必要最低限の会話だけをする日々が続いていた。
そんなある日、彼は鞄にノート類をしまい始めた。私もそろそろバスの時間も近かったので片づけ始め、2人で外へ出た。すると、彼は「はいこれ」と徐に紙袋を私に突き出してきた。
「え・・なにこれ・・・。茶葉?」中身は紅茶の茶葉が袋に入っていた。
「この間のシャーペンの芯と消しゴムのお礼。君、紅茶好きでしょ?ここ、コーヒーが有名な店なのに初めて会った時からずっと紅茶飲んでるし。僕紅茶好きなんだよね、でも周りに紅茶好きな人あんまりいなくて。これ僕の好きな紅茶の一つ。フルーティで女の子が好きそうな味だと思って。良かったら飲んでほしいなって」
彼は毎回、紅茶を飲んでいた。ある時はアールグレイ、ある時はダージリン。ある時はよく分からないから多分ブレンドティーだと思う。その店はコーヒーが有名なお店で、大半の人間がコーヒーを飲むか、テイクアウトでコーヒー豆を買って帰るお客さんが多かった。
少なくともその店で紅茶を飲んでいるのは彼と私くらいだった。
彼からのプレゼントに私は飛び跳ねそうになったが、気持ちを抑えて
「ありがとう。ぜひ飲ませてもらうね!」と言った。彼は少しほっとしたのか、真顔のまま少し息を吐いた。

家に帰り、リビングでもらった紅茶を飲んでみると確かにとてもフルーティで程よく甘かった。蜂蜜を入れたらもっと美味しくなるかもしれない。明日の楽しみができた。すると、「何?すごいいいにおいするじゃない?新しい紅茶?」母親が来て、私の飲みかけを少し飲んだ。
「うん。今日、友達にもらって。」“友達”というフレーズに少し恥ずかしさを感じたが、他に表現方法がなかったので友達と言った。
「あら、美味しい。ちょっと上品な味ね。これきっと高いんじゃない?しかもちゃんとしたお店のやつっぽいし。いい人なのね、お友達さん」
母親のその言葉に少し胸が温かくなった気がした。

「やぁ、また会ったね」
「・・・もういいよそのくだり、どうせ座るんでしょ。さっさと座りなよ」
「うん、ありがとう」

名前の知らない彼との関係は続いていた。紅茶のお礼を言うと、「あっそ、それは良かった」と不愛想に返されたが、数ヶ月付き合ってくると少し彼の感情が分かるようになってきて、その時の彼は少し口が緩んでいたから多分嬉しかったんだと思う。
席についてノートを出そうとすると、いつもとは違う香りに気が付いた。
「ねぇ、それ新しい味?」
彼が今日飲んでいる紅茶はいつもと違う初めてかぐ香りだった。
彼は私の方を見ると、
「うん。そう。奥さんがね、バイヤーさんにもらったらしくて今日初めて出したらしい。そんで俺にも飲んでほしいからって淹れてくれた。」と言って一口含んだ。
すると私は
「私も1口飲みたい」と言った。彼はぽかんとした顔をした。彼のその顔を見て私は自分が今何を発言したのかを思い出した。
「いや!ごめん間違えた!!なに言ってんだろうね!ごめんごめん冗談冗談!!ハハハ」
私の心の中では やばい!!!つい和花と一緒にいる時みたいなこと言ってしまったぁ!!普通に考えて仲良くもない人から1口ちょうだいとかないよね! と頭を抱えていた。
私が頭の中が恥ずかしさでぐちゃぐちゃの脳内会議が開かれている中、彼はすっと自分の紅茶を持って席を立った。“あー、変なこと言っちゃったから。別の席に移るのかなぁ。何であんな変なこと言っちゃったんだろうか・・” 私が少し落ち込んでいると、
「はい。」彼は私の前に何かを差し出した。
「へ?」私が顔を上げると、彼が小さなコップを私に差し出していた。
中には彼がさっき飲んでいたものと同じ色をした液体が入っていた。
「これは・・」私がコップを受け取ると、
「さすがに、好きでもない男の飲んだコップで飲むのは嫌でしょ?奥さんに聞いたけど、俺の入れたポットに紅茶残ってないし。俺が飲んでたやつ分けたやつでよければだけど。・・・なんかあっても知らないけどね!!!」と彼はかなり顔を赤くして、恥ずかしさからかいつもの2倍速くらいのスピードで話して席についた。私はもらった紅茶を1口含むと、「うん、美味しい。ありがとう」と笑顔で返した。彼は「あっそ。それは良かったね」と窓の外を睨みながら答えた。

和花とはクラスが違う。その日は放課後和花と買い物に行く約束をしていて、和花の教室に行くことになっていた。しかし、そういう時に限って先生に手伝いを頼まれ、和花の教室に行けたのは約束の時間の15分後だった。電気もついておらず、扉も閉めてあったため、私は教室の扉を勢いよく開いた。
「ごめーん、和花。遅れちゃって。買い物行こっ」
すると教室には和花はおらず、教室の奥の窓側で1人男子学生だけがノートを開いて勉強をしていた。彼だった。
私が呆然としていると後ろの扉から和花が入ってきた。
「あっ、恵理花。ごめーん。トイレ行ってた。さ、買い物行こ―。じゃあね、紀田くーん。明日またー」
和花は鞄を持つと私の手を引いて教室を出た。“紀田君”と呼ばれた男の子は「んー。」と顔を上げず返事をした。

「ねぇ和花さっきの人って」
私はクレープを食べながら和花に聞いた。
「さっきのって紀田くん?」
「彼ってどんな人?」
和花はクレープを食べ、噛みながら上を向いた。
「うーん、普通の人?特に目立つタイプでもないし、人とあんまりつるんでるタイプでもないし、でも言えばやることはやってくれるし。あっ、あとかなり頭いいかな?ほら、うちも恵理花も特進じゃん?特進の中でもかなり上位に入るくらいの人だよ。本人あんま興味ないみたいだけどね。紀田君がどうかしたの?」
「ううん。何でもないの。何でもない!」
私はごまかすようにクレープを食べた。

「紀田君ってC組だったんだね。知らなかった」
紅茶の湯気でメガネを曇らせた彼が私の方を見た。
「この間、C組行ったときに紀田君見かけて。関和花って知ってる?」
「関和花・・・。あぁそんな人いたかも」
「覚えてないの?」
「あんまり人に興味ないのと、人の名前あんまり覚えられないから」
「そう・・」私は紅茶を口に含んだ。
彼とこうして2人で勉強し始めて早数ヶ月。彼の名前を知り、少し彼と近づけた気がした。
「紀田君ってなんで北高通ってるの?ここからだいぶ遠くない?」私は彼に聞いてみた。
「元からここに住んでたわけじゃないからね。」
「え?」
「元々中学までは高校の近く住んでたんだけど、高校上がるちょっと前に祖母が体調崩した影響で祖母の家に引っ越すことになって。まぁ通えない距離でもなかったし。いっかって。」
「なるほど・・・」
「君は何であそこに?」初めて彼が私に質問をしてきた。
「私?私はその・・・友達がそこ受けたから・・・」
「?友達が行くから君も行くことにしたの?」
「うん。私人見知りだし、そんなに友達がいないから」
「なんで?」彼は心底理解できないという顔をした。
「その・・・街歩いてると男の人に声かけられたりとか、その影響で勝手に恨み買ってたりとかしてあんまり友達が昔からできなくて・・・」私はまた嫌なことを思いだし、下を向いてため息をついた。すると、彼は口を開いた。
「ふーん。何?喧嘩でも強いの?男に声かけられるって」
「へ?」私は彼の方を勢いよく見た。
「結構か弱そうなのにね。人は見かけによらないんだな」
「け・・喧嘩?」私は拍子抜けしたように言った。すると彼は本当に分からないようで
「え?喧嘩じゃないの?なら何?君がそんなに声かけられるって。悪いことしまくって恨み買ってんじゃないの?無意識に」と言った。

初めて言われた言葉に驚いて、私はまたしても彼のことを知りたくなった。

「紀田君はどこ行くの?大学」
季節は変わり、受験シーズンになった。私は家のこともあり、地元の4大に進学希望をしていた。高校付近には大学も多く、多くの学生が近隣の大学へ進学する。彼は1口紅茶を含むと「あぁ、僕、K大。1人暮らしするよ。」と言った。
「えっ・・・」
私は驚いた。紀田くんの学力なら私の希望大学とは違うものの近くの大学もあるし、家の事情もあり地元での進学をするものだと思っていたからだ。
「け・・県外行くんだ。へぇ。そうなんだ。てっきりS大でも行くのかと思ってたよ」
私は動揺を隠すように紅茶を飲んだ。
「S大?あぁ、あそこでも良かったけど、K大の方が図書館大きいし、やりたい学部あるしね。親も好きにしろって言ってるし」
「そ・・そうなんだ。じゃぁ、もうここで勉強する機会も少なくなるね」
「うーん、まぁそうだね。そういうことになるね」
「S大とか・・地元の大学候補にないの?」
「S大?うーん、今んとこないけど、何どうしたの?急に」
「いや・・・その・・・遠くにいちゃうと・・一緒に紅茶飲めないなぁ・・なんて」
私は混乱していて自分でも何を言っているのか分からずに話していた。なんで彼が遠くに行くことに動揺しているのか、なぜ彼の顔が見れないのか、なぜこんなに胸が苦しいのか、なぜ泣きそうになっているのか。
頭がパニック状態の私に彼の言葉が耳に入った。
「僕の進路にどうして君が関係するの?」
「!」
「確かに君とはよく紅茶を飲んだりしてるけど、なんでそれだけの理由で僕の進路に関係してくるの?」
彼の言葉は私の思考を停止させ、視界を真っ白にさせるには十分だった。そして、その瞬間私はすべてを悟った。
私はふらっとしながら「もうバスくるから帰るね」といい、鞄に荷物を入れた。彼は「大丈夫?なんか心配だから見送るよ」と言って、2人で店を出た。
バスが来るまでも彼は「大丈夫?顔色悪くない?」と声を掛けてくれたが全く耳には入ってこなかった。そして、バスが来た。一瞬乗り込もうとしたが、降りて私は彼の方を向いた。
「紀田くん、私ね」
「ん?何?早くしないとバス出ちゃうよ」
「私ね、紀田君のことが好きなの」
「・・・・・・え?」
「でも、もうここ来れないや。じゃあね」
そう言って彼の顔も見ずにバスへ飛び乗った。
席に着いた後はずっと下を向いて、下唇を噛み続けてたから、バス停に残された彼がどんな顔をしていたのかなんて分からなかった。

受験が終わり、卒業ムードになった。登校日数も少なく、人によっては卒業旅行の計画をしている学生も多くいた。
私はあの時のことを少し後悔していた。勢いに任せて行ってしまって大切な友達を失った。
紀田君の言いたいことは合っている。たかが一緒に紅茶を飲んでいた人のことを考えて進路を考えるやつはいない。しかも彼は私のことを何も知らない。名前を呼ばれたこともないし、むしろ、私がただただ隣に座っていただけで彼は何も思っていなかったのではないのか。そんな脳内反省会を毎日やっている。でも、あの時間が楽しいと思っていたのは私だけじゃないと信じたかった。1人ため息をついていると、目の前の下駄箱でぶすっとした和花が立っていた。
「和花、どうしたの?そんな顔してなんかあったの?」
「恵理花、紀田君となんかあった?」
久しぶりに聞いたその名前にドキッとした。
「え、何で?」私がいうと、和花は徐に鞄の中を漁り、「はい」と言って私に1通の手紙を差し出した。
「何これ・・」私が手紙を受け取ると、和花はまた腕を組みなおし、話をした。
「知らないよ。今日急に紀田君が私のところに来て、『恵理花に渡してくれ』て言われたから」
「え・・・」私は驚いた。
「正直意味が分からなくて、自分で渡せばいいじゃん。ていうかどういう関係?て聞いたら、話したくても恵理花の周り男の人が多くて近づけない。だから、友達である私に託けたいって。変なことは書いてないし、中身をみたら恵理花は分かるって。だから渡してほしい。って頭下げられたからさ。紀田君、人とめったに関わろうとしないタイプだし、お願いされることもなかったからまぁ渡すだけならと思って。もし恵理花を傷つけることがあったらぶん殴るけどね!!」和花はフンと頬を膨らませて頭を横に向けた。私は手紙の中を見た。すると、彼の綺麗な字で『お話があります。いつものあの場所で待っています。 紀田憲彰』と書かれていた、
和花とお茶をしていても、私の頭の中はその手紙でいっぱいだった。

卒業式まで残り僅かになったある日、私は腹を決め、あの喫茶店へ向かった。
すると私服の彼がいつも場所で本を読んでいた。合わない間に髪の毛を切ったのか、雰囲気が少し大人びたように感じた。話だけ聞いて帰ろうと思い、紅茶を持たず彼の席に向かった。私の気配に気づくと彼はイヤホンを外し、こちらを見上げた。
「久しぶり。今日は何も飲まないの?」彼は穏やかに言った。
「えぇ。このあと予定もあるし、話だけ聞こうかと思って。話って何?」私は心臓の焦りを隠すように早口で言った。彼は少し息を吐くと「ここじゃなんだし、外で話そうか」と言って外に出ることになった。

「元気してた?受験真っ盛りで全然見かけなかったけど」彼は紅茶を飲みながら話した。
「まぁそれなりに。紀田君はあれだよね。結局K大に行くんだよね。おめでとう、先生たちも噂してたよ。紀田君が決めたーって」私は彼の顔を見ることができず下を向いて話した。
「噂されるほどすごいことしたわけでもないんだけどなぁ。まぁいいか。そういう君はA大でしょ?関さんもA大だし、なんか言ってたの聞こえた。」
「そう。家から通える範囲でね。それで話って何?」
すると、彼と私の間の空気が止まった。私は俯きながら、彼の言葉を待つしかなかった。
「あー、えーと。君と最後に会った日のことね、あの後僕なりに色々考えてさ。それであの時の返事をしようと思って」
私は何も言わずただただ下を向いていた。そして彼が口を開いた。
「谷山さんは遠距離だけど大丈夫なの?」
私は顔を上げて彼の顔を見た。
「へ?」
「谷山さんが遠距離でも大丈夫なら、僕は君とのこの関係を続けたいと思ってるんだけど。あれ?意味違った?」
「え・・・今なんて?谷山さんって・・・」私は放心状態になった。
「好きって言われて、どういう意味なんだろうかと考えたけど。まぁ普通に考えて、恋愛的なあれかなぁと仮定して。そんで考えたんだけど、そういう意味で好きかどうかは置いておくにしても大切な紅茶仲間も失うのも僕もヤダし、君が僕といるこの時間をそう言いたいのならそれでもいいのかなぁって。それを言おうかと思って君に近づこうとしたら男子が周りにすごいいて近づけなくて。そういやそんなこと言ってたなぁて。それでも何とかして伝えたかったから、君の友達にお願いして手紙渡してもらったんだよね。最初すごい嫌そうな顔されたけど、何とか渡してくれてよかったよ。谷山さん、大丈夫?具合悪い?さっきから話してないけど。」
頭の中がオーバーヒートしていた。状況を整理するためにも私は少しずつ話をしだした。
「つまり・・・私のこと・・・好きになってくれるってこと・・・?」
「好きかどうかは分かんないけど、これからも一緒に紅茶を飲みたいくらいには好きだよ。谷山さんのこと」彼は少し照れくさそうに言った。
私は彼にそのまま抱きついた。彼は少し驚いた顔をしていた。
私を振り回した罰だ、いい気味だと思った。


「お邪魔します。」
「どうぞお入りください」

卒業後、彼は県外で1人暮らしを始めた。私たちは2ヶ月に一回彼の家に泊まりに行くという関係性をしていた。彼の実家の部屋に行ったことはないが、彼の家を見る限り彼らしい簡素化されたシンプルな家だった。ただそんなシンプルな家に私用のマグカップがあったり、私用のひざ掛けが開いてあったりするのは少し嬉しい。そんなことを思いながら、私は彼の入れる紅茶を待っていた。
「はいどうぞ」
「ありがとう。うん、美味しい。」
「そう?ごめんね。今茶葉切らしててパックしかなかった。後で買いに行くよ」
「行きつけの店だよね?前言ってた。私も行きたいな」
「うん、そのつもり。なら後で一緒に行こうか。君の好みの味も知りたいし」
人の名前を覚えるのが苦手で人に興味を持てない彼の中に、私という存在がある。それだけで少し胸がポカポカするのは飲んでいる紅茶のせいだけではないだろう。

私は紅茶を飲みながら雑誌を見ていると急に肩に重みを感じた。
横を見ると、彼がうつらうつらと眠そうに頭を振っていた。そういえば今日は会った時からかなり眠そうで、聞けば昨日徹夜で課題のレポートを仕上げていたとのことだった。お疲れのところ無理やり押し入ったしなぁ、ゆっくり休ませてあげたい。そう思った瞬間、ある考えが私の中で芽生えた。私はほぼ寝かけている彼に話しかけた。
「きっ・・紀田くーん。眠いなら寝たらぁ?」
「う・・・うん。寝る・・・寝る・・・・」
「あのさ・・枕持ってくるの大変だし、このままだと私も肩痛めちゃうからさ・・・膝枕とかどうだろうか!」
私は心臓をバクバクさせながら言った。すると、彼は数拍置くと「・・・・うん」といってそのまま私の膝で寝息を立て始めた。
「うぉー。寝たぁ!すごーい」私は少し感動した。彼は出会ってから全く隙が無い。私が眠そうにしていると、毛布を掛けてくれるし、歩いていても道路側に自然に立っていて私が人とぶつからないようにしてくれていたりと、一切の隙がない。普段の彼なら、眉を顰めメガネのふちを触り「いや、べつに。というか君の膝痛くなるからいいよ。」と言うに決まっているが、よほどの疲労なのか頭が回っておらず、そのまま私の言うとおりになった。
メガネを付けていては寝にくいだろうと思い、彼の顔からメガネを外した。メガネを外した彼はいつもより少し幼くて、そういや初めて見たなと思った。初めて見る彼の素顔に、ちょっとドキッとしたと共に、これは私だけの特権なんだと思うとちょっとした優越感を感じた。机の上には同じ紅茶の入った2つのマグカップ、私と彼以外に誰もいないし、隣の人も不在なのかとても静かだ。この時間を邪魔されたくない。電話とか掛かってきませんように。そう強く願いながら幸せを噛みしめるように彼を見つめた。
「ん・・・・今何時だ。てか僕いつの間に寝て・・・」
紀田が目を覚ますと外は暗く、夜9時を回っていた。紀田は手探りでメガネを探し、掛けて上を見ると恵理花の顔が至近距離であった。
「!?なんで谷山さんの顔が上に。上に?え?」紀田はそこでようやく自分の状況を把握して、飛び起きた。
「???谷山さんに紅茶を入れてそのあと横で本を読んでいたのまでは覚えてる。が、そのあとの記憶がない?僕寝たの?ていうか、谷山さんの膝・・・・・」
紀田は少し顔を赤く染めながら咳ばらいを1つした。そして眠る恵理花の顔を覗き込んだ。
「こんな華奢なのに僕の頭支えてたなんて・・・さぞ重かっただろうに。それに、僕も疲れてたとはいえ、彼女もちょっとした旅だもんな。毎回ここまで来るの。ちょっと休ませてあげないと。」紀田はそう思うと、恵理花に声を掛けたが応答がなかった。少し悪い気もしたが恵理花の体を少し倒して持ち上げそのままベッドへと寝かしつけた。

恵理花が目を覚ましたのは、ほのかに香る甘い匂いがしたからだった。
匂いのする方へ歩いて行くと、キッチンに立つ紀田の背中が見えた。
物音に気が付いた紀田が後ろを向くと、「あ、起きた?おはよう」と言った。
恵理花が紀田の元へ向かうと、紀田は何かを作っていた。
「・・・・・ケーキ?」
紀田は生クリームのついた泡だて器を片手に持っていた。
キッチンの上にはとてもきれいなケーキができていた。

「そう。シュガーケーキ。友達が今度誕生日でその試作品。ちょうどいいや。味見がてら一緒に食べよう。紅茶入れるからテーブルで待ってて。」

紀田はそう言うと、やかんでお湯を沸かし始めた。
恵理花がテーブルに戻って待っていると、玄関の方からインターホンが鳴った。
玄関で紀田が誰かと話しているなと思っていたら、急にバタバタという音が聞こえ、急に扉が開いた。恵理花がビクッと扉の方を見ると息を切らした男がこちらを見ていた。そして

「嘘―!!!憲やん、彼女いるってホントだったんだ!!てかすげぇ美人じゃん!!嘘でしょ!?」と男が言った。すると、男の後ろからもう一人丸メガネをかけた細目の男が顔を出し、

「へぇ。すごいやん。憲彰。どこで見つけたん?」と言った。

突然の出来事に恵理花が困惑していると、細目の男の後ろから

「お前ら来るなら一声言えよ。てか勝手に家上がんな。困ってんだろ」と紀田の声がした。
紀田は2人の男をどかすとケーキと紅茶セットを乗せたトレイを恵理花の前に置いた。
すると、扉に掴まっていた男が口を開いた。
「憲やん。ひどいよ!彼女来てるなら何で言ってくれなかったの?てか紹介してよ!」
「というか、彼女のためにケーキ作るやなんてえらいぞっこんなんやなぁ。なんかこっちまでハズいわぁ。」
細目の男もニコニコと言った。

「達臣の誕生日ケーキの試作品だよ。お前らだろ、僕にケーキ作れとか難題言ってきたの。」
「だって、憲彰のケーキうめぇんだもん。しょうがねぇじゃん」
「前にたまたま作っても―たんが運の尽きやな。憲彰。期待してんで。来週」
「はぁ・・・」

紀田がため息をつきながら、ケーキを切っていると困惑した恵理花が目に入った。
「あっ・・・えーと。友達。さっき言ってた。ごめん。突然押しかけてきて。今彼女いるから帰れ。って言ったら入ってきちゃって。」
「あ、そうなんだね。えっと・・・良ければみなさんで食べませんか?ケーキ」
「は?」紀田が目を見開いた。
「紀田君の友達あんま見たことないから、知りたいよ!」恵理花がそういうと、
「あざっす!彼女ちゃん!」
「ほんならお言葉に甘えて―。」と言って、恵理花の前に座った。紀田はため息をつくとキッチンに戻り、2人分のマグカップとインスタントコーヒーを持って、恵理花の隣へ座った。

「こちら、谷山恵理花さん。高校の頃知り合った女の子。で、谷山さん。こっちのうるさい方が小山隆之介。こっちの関西弁の方が赤木瑞貴。2人ともゼミが一緒で、さっき言ってた達臣ってやつと4人でよくご飯食べたりしてる。」
「どうも!恵理花ちゃんっていうの?めっちゃ可愛いね!」小山が言った。
「ほんまやわー。というか、何で2人とも苗字呼びなん?付き合いたてなん?2人とも」
赤木が細目をもっと細くしながら言った。

恵理花は、確かに。と思った。
紀田は顔一つ変えず、ケーキを口に含みながら、答えた。
「まぁ、卒業してから付き合い始めたし。なんというか、出会った時から谷山さんだったし。特に変える理由もないし。」
「えらいドライやなぁ。自分」
「まぁ、結婚でもしたら変えざるを得ないんじゃない?さすがに」
「結婚!?」恵理花は大きな声を出した。
「え?何?びっくりした」紀田は恵理花の方を見た。
「結婚って。紀田君私とする気あったの?」恵理花は目を見開いて言った。
「えっ?まぁ、分かんないけど。この関係が長く続いたらそうなってもいいんじゃないかなって僕は思うけど。まぁ、谷山さん次第だね。・・・って谷山さん!?何で泣いてるの?僕、またなんか傷つけること言った??」
恵理花が、紀田が自分と結婚を視野に付き合ってくれていることに感動して涙を流した。そんな恵理花の涙を慌てながら紀田はティッシュで拭いた。
小山と紀田はコーヒーを飲みながら
「あんめぇな、このケーキ。っつーかこの空間?」
「せやなぁ。てか“また”て前科あるんかい。憲彰」と言いながら2人を見つめた。

――

「フフフ。懐かしいわね。あの時のあなたの慌てよう、面白かったわ」
その時のことを思いだし、恵理花はニコニコと笑った。すると、憲彰は苦笑いをしながら紅茶を含んだ。
「僕も人と付き合ったこともなかったし、女の子の友達もいたわけじゃなかったから、何が君を傷つけるのか分かんなかったんだよ。あいつらいたし」
「結婚式でも3人で漫才みたいな話をしてくれたものね、冷静なあなたが取り乱すから面白かったわ。いいお友達で私もとても安心したもの」
「未だにうるさいけどな。まぁ、いい奴らだよ。あ、そうだ忘れないうちに・・・」
そういうと、憲彰は席を立ち、自室へと向かった。そして紙袋を持って戻ってきた。
「はい。」そして紙袋を恵理花へと渡した。
「これは?」恵理花が受け取りながら言った。
「結婚20周年記念、開けてみて。」
恵理花が言われて、袋から箱を取り出し開封した。
「これは・・・」
「それ、君が欲しがってたイギリスの店のティーセット。新婚旅行の時に買いたかったけど、お金なくて買えなかったでしょ?あの店、今年で50周年らしくて限定品が出てたんだ。たまたまあっちに出張予定の人がいて、お願いして買ってきてもらったの。」
中は、陶器のポットと2つコップと皿、スプーンがついたティーセットだった。
「とっても素敵だわ。ありがとう!!」恵理花が憲彰の方を見てお礼を言うと、
「気に入ってくれてよかったよ。子供たちが大きくなったら、また2人でイギリスに旅行にでも行こうか。君の気に入る店がまた見つかるかもしれない」
恵理花は、もらったティーセットをぎゅっと胸に抱いた。
「憲彰さん、私ね。これまでいろんなものを食べてきたの。それこそ何万円もするワインだったり、お料理だったり。いろんな人といろんな良いものを口にしてきたわ。でも、私ね」

Tea for two

「あなたと飲む紅茶が世界で一番美味しいわ!」
恵理花はそう言うと憲彰の肩に頭を乗せた。
憲彰は微笑ましそうに、笑う恵理花を見ながらゆっくりと紅茶を口にした。


見出し: https://pixabay.com/ja/users/sweetlouise-3967705/  様

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