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作品のピントを合わせて読みやすくする

お久しぶりです、Studio ZOONの村松です。

作品リリースに向けて沢山のWebtoon作品を準備しているのですが、制作も佳境を迎えつつあってかなり多忙で、noteの更新めっちゃ空きました。

さて、先日の話ですが編集部の後輩に
「どうやったらネームのピントを合わせられるんですか?」
という質問をされて答えていました。

「ネームのピントを合わせる」というのは僕がよく使う表現で、
漫画のネーム(絵コンテ)を読んで
「うーむ…これは全然違ってるな…やり直そう」という時の「ボツ」と、「面白い!ちょっと気になるところを修正すればOK!」という時の「微修正」、その中間くらいの修正をする時の考え方です。

「なんか今ひとつ盛り上がらないな」
「面白くないことはないはずなんだけど、予想より面白くならないな」
「なんとなくタルく感じてしまうな」
という時は「ネームのピントがズレている」ことが多いです。

というわけで今日は「ネームのピントの合わせ方」について後輩に話した内容を、話したままの順序&語り口調で書いていきます。


「ピントを合わせる」ことの重要性に気づいた日

昔、TSUTAYAで洋画を2つレンタルしてきて続けて観たんだけど、一つは製作費100億円くらいの有名俳優が出てるアクション映画で、もう一つ製作費1億円くらいの無名俳優しか出てないホラー映画。そしたら100億円の映画の方が安っぽく、1億円の映画の方が高級感を感じたことがあった。

「なんでだ?」と思って比べたんだけど、安いホラー映画の方がやろうとしていることに対して無駄がなかったし、「なんでそこでそうなる!?」みたいなズレがなかった。高いアクション映画の方は派手な絵があって俳優さんもかっこいいんだけど、緊迫感ある場面で変なギャグが入って台無しにしたりで、やろうとしてることに対してズレ・無駄・不足が沢山あった。そんな感じで「やろうとしていることに対してズレていない(=ピントが合っている)と高級感を感じるんだ〜」という発見をしたわけです。

「緊迫感ある場面での変なギャグ」みたいな無駄なものが入ってくると物語に対して冷めてししまう。この「冷める」って感覚が製作費の高いアクション映画を観た時に感じた「安っぽさ」の正体だと思う。逆に、冷めることなく物語に集中している状態は言わば「陶酔」しているわけで、陶酔っていうのはゴージャスなものを見た時に感じる感覚でもあるから、安いホラー映画に「高級感」を感じたんだと思う。

「ピントが合っていない」と「読みづらい」

映画の場合は「高級感」「安っぽい」という言葉になるんだけど、これをマンガに当てはめると「読みやすい」「読みにくい」という表現になると思う。つまり、ピントが合っていないマンガは読みづらい

話は逸れるけど、入社してマンガ編集者を始めたばかりの頃、多くの先輩編集者が作品を評価する際に「読みやすさ」を重視していて新人の自分には違和感があった。「読みやすかろうが面白くない漫画は面白くないし、読みづらくても面白い漫画は面白いんとちゃうんかい!」という違和感なんだけど、今は「読みやすさ」をめちゃくちゃ重視してる。

「読みやすい」「読みづらい」というのはコマ割り、絵の入れ方、フキダシの置き方、セリフの文字量等の「画面構成」だけの問題と思われがちだし、新人時代の自分もそう思っていたから違和感があった。だけど「読みやすさ」「読みづらさ」というのはもう少し深いところから来ていて、先の話から引用すると
・読みづらい=読者が冷める
・読みやすい=読者が陶酔する

と定義できるものだと思う。画面構成に全く問題がなくても読みづらいネームというのは存在する。当然、画面構成に問題があって読みづらいということもある。画面構成は「読者が冷める or 陶酔する要因の一つ」に過ぎないということだ。

ネームのピントを合わせる方法

とにかく、ピントが合っていない(=やろうとしていることに対してズレ・無駄・不足がある)ネームは、読む側を冷めさせてしまう。じゃあ、ピントを合わせるにはどうしたらいいか。それはピントが合っていない時の逆で「やろうとしていることは何か」を掴んで、そこに対しての無駄を削り、ズレを修正し、不足を加えればいい。

「やろうとしていることは何か」さえ掴めれば「ここが無駄」「ここがズレてる」「こういう要素が足りない」ということを指摘するのはそこまで難しくない。更に一歩踏み込んで「このズレをこう直しましょう」「こういう場面を入れましょう」という具体的で確度の高い提案まで出来ればベターだけど、相応の経験とライブラリが必要だし「編集者たる者、必須でできなきゃいけない!」とまでは思わない。そこまで必要としない作家さんもいるし。

が、「やろうとしていることは何か」を作家さんと言葉にして掴んでいくことは必須だと思う。それができて作家さんと目線を揃えることができれば、具体的な提案をバンバンせずとも、打ち合わせの中でズレ・無駄・不足は討ち取れていって、結果 ネームのピントが合う。つまり、読みやすくなる。

「やろうとしていること」=テーマの言語化

「このネームでやろうとしていることは何か?」という問いは「このネームはどんな話か?」とも言い換えられる。そして、この問いに答えるにはちょっとしたコツがいる。

例えば「星飛雄馬が渾身のストレートでライバルの花形満に勝負を挑む」というストーリーの、今ひとつ読みづらいネームがあったとする。このネームを読みやすくするために「このネームはどんな話か?」を言語化して掴みたい。さて、このネームはどんな話だろうか?

「星飛雄馬が渾身のストレートでライバルの花形満に勝負を挑む」話、ではない。これはこのネームで起こった具体的で表面的な出来事=あらすじだ。ズレ・無駄・不足は導き出すには各キャラクターの生き様や事物の意味を抽象的に言語化する必要がある。

この例で言うと
・星飛雄馬=貧しい中、父・星一徹の厳しい指導のもと野球だけに取り組まされてきた少年
・渾身のストレート=そんな星親子の汗と涙の結晶
・花形満=お金持ちの不良で野球も気まぐれでやっている少年
みたいな感じだと思う。

親子二人三脚で貧しい中ただただ野球のみに取り組んできた星飛雄馬。その渾身のストレートが金持ちで片手間に野球をやっている花形満に打たれてしまったら、星親子のこれまで野球に懸けてきた日々そのものが否定されてしまう。そう考えるとこの話は「父子で歩んだ道が間違いでないことを証明しようとする話」と表現することができる。これが「このネームでやろうとしていること」=この話のテーマだ。

これを念頭に置いてネームを読んでみると、そのテーマを阻んでいる部分が見えてくると思う。
・この表情をもっとクローズアップしないとな〜
・映す必要がない場面があるな〜
・こっちの場面はゆっくり見せたいな〜、こっちは手早く処理したいな〜
・描いておくべき感情が抜けているな〜
・必要なセリフ、不要なセリフがあるな〜
・立ち位置をこう変えた方が二人の立場が伝わりやすいな〜
などなど。

作家さんと「このネームでやろうとしていること」=この話のテーマを確認しながら、これらの修正をネームに反映させていく。これがネームのピントを合わせていく作業になります。

テーマはどの単位にも存在する

以上を簡潔にまとめると「その話のテーマを見出して過不足ないよう調整すればピントがあって読みやすくなる」ということなんだけど、今回のように1話分のネームについてだけでなく、どの単位でも当てはめることができる。

例えばコマ。そのコマが必要と判断されて描かれている限り「そのコマでやろうとしていること」=テーマは必ず存在する。そのコマが持つテーマを意識すれば、どういう大きさでどういう絵を入れればいいかも見えてくるし、やっぱり読みやすい漫画は全コマに意図がある。なんでそう描かれているかが説明できる。読みづらい漫画は「なんとなく」になっていることが多いが、一つ一つコマの意図を確認してピントを合わせていけば必ず読みやすくなる。

もちろん、作品自体にもテーマがあり、読みやすくする方法もある。が、作品のテーマを言語化することは(必要なんだけど)かなり難しい。半ば作家さんの人間観に関わってくる話でもあるし、テーマを言語化しようとする編集者側の人間観も関わってくる。

『ドラえもん』のテーマを「科学は素晴らしい」「科学は発展しても人間の愚かさは変わらない」「想像力が人生を楽しくする」とどのようにでも表現できるが、それは言語化する人の人間観の違いだと思う。だから「どんな作品を作っていくのか?」「これはどんな作品なのか?」という連載立ち上げ期の打ち合わせは、お互いの人間観の晒し合いみたいになったりする。自分の人間観を晒すのも、作家さんの人間観を晒してもらうのも難しいし、更にピントを合わせていく時も「この作品でやりたいことを考えると、このキャラクターいらないかもですね」くらいドラスティックになっていくので、提案の難易度も高い。

単位が小さいほどテーマが客観的かつピントの合わせ方もテクニカルだが、単位が大きいほどテーマが主観的になりピントの合わせ方も難しくなる。だから新人編集は普通 小さい範囲の意見しか言えないところから始まって、経験を積むにつれ大きい目線で作品を語れるようになってくる。コマ単位のピント合わせは今すぐできると思うし、まずは話単位でピントが合わせられるようにがんばっていきましょう!以上!

質問募集します

ということで、編集部の後輩に語った内容をそのまま再現してみました。この書き方だったら労力かからんかな?と思ったら、別にあんまり変わらなかったです。

ただ、こういう質問をもらえると自分の頭の整理にもなりnoteのネタにもなるのでありがたいな…というわけで、Mondに登録してみました。何かご質問ありましたら以下よりどうぞ!
https://mond.how/ja/yogoharu5535

そして、こんな感じでSTUDIO ZOON編集部では日々 喧々諤々と議論しながらWebtoon作ってますんで、ご興味ある漫画家さんはこちらからご連絡ください!

ではでは、引き続きよろしくお願いします。

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