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[カレリア民話] リスとミトンと針のお話(ORAVA, KINNAŠ TA NIEKLA)

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リスとミトンと針のお話

昔、リスとミトンと針の3兄弟がいました。彼らは森に出かけました。3本の分かれ道にあたると、いちばん年上のリスが言いました。
-それぞれ別々の道を進んで、何か見つけものをした者が大きな声で呼ぶことにしよう。

針は途中で切り株を見つけると、大きな声で呼びました。
 - はやく はやく ミトン兄さん
  リス兄さんも ほら急いで!
  チビッ子針が 見つけたよ
  とっても良いもの 探しあてたんだ!

ミトンとリスが走ってきました。
- ぼく、こんな切り株を見つけんだ。
針が言いました。
- これが良いものだって、森の中は切り株だらけじゃないか!
そうして針は叩かれてしまいました。そして再び、別々の道に進みました。針はランピと呼ばれる森の池を見つけ、大声で叫びました。
 - はやく はやく ミトン兄さん
  リス兄さんも ほら急いで!
  チビッ子針が 見つけたよ
  とっても良いもの 探しあてたんだ!

ミトンとリスが走ってきました。
- 何を見つけたんだい?
針が言いました。
- ほら、森のランピを見つけたよ。
針はこっぴどくこらしめられました。
- 何が良いものだ、ただのランピじゃないか!

そして再び,別々の道へと分かれていきました。
針は沼のほとりへやって来ると、トナカイが草を食べているのを見つけました。針はいちばん大きなトナカイにこっそり近づくと、目の前の小高い草むらに身をかくしました。大きなトナカイは草といっしょに針もお腹に入れてしまいました。針がチクリ、チクリとお腹の中からシカを刺したので、トナカイは死んでしまいました。針はお腹からぴょこんと出てくると、再び大きな声で兄たちを呼びました。

 - はやく はやく ミトン兄さん
  リス兄さんも ほら急いで!
  チビッ子針が 見つけたよ
  とっても良いもの 探しあてたんだ!

しかしミトンとリスは言いました。
- 今度は行かないよ、どうせ針がまた嘘をついてるんだ。きっとまた切り株でも見つけたんだろうよ。
針はもう一度、2回目の呼びかけをしました。

 - はやく はやく ミトン兄さん
  リス兄さんも ほら急いで!
  チビッ子針が 見つけたよ
  とっても良いもの 探しあてたんだ!

ミトンとリスは言いました。
- 行くもんか、針はまた嘘をついてるんだ、どうせまたランピでも見つけたんだろうよ。
針はもう一度、3回目の呼びかけをしました。

 - はやく はやく ミトン兄さん
  リス兄さんも ほら急いで!
  チビッ子針が 見つけたよ
  とっても良いもの 探しあてたんだ!

ミトンとリスが、針のところにやって来ました。
- それで,どんな見つけものだって?
針は言いました。
- トナカイを倒したんだ。
たしかに、沼のほとりの小高いところに、死んだトナカイが横たわっています。ミトンとリスは、針の頭をなでました。
- こんな素敵な見つけものをするなんて、お前は良い弟だ!
トナカイを切り分けることにしました。
- さて、煮こむにも、お鍋がないじゃないか。
針がリスに言いました。
- 兄さんには鋭いツメがあるよね、白樺の皮をはぎとってくれないかな、僕らが皮から鍋をつくるから。そうしてお肉を煮ようよ。
針は白樺の樹皮を縫い合わせて、鍋代わりの小さな容器ができました。
- でも、お水がないね。どこから水を手にいれられるってんだ?
針は言いました。
- ほら、ランピを見つけたじゃないか。そこに水があるよ。
ミトンが水を汲んできました。
- でも、薪がないね、どうやってお肉を煮るってんだい?
針は言いました。
- ほら、切り株を見つけたじゃないか。

針が切り株のところへ走っていき、ぐつぐつと煮込みはじめました。そうしてお肉が煮上がると、お腹いっぱい食べ、残ったお肉は家へと持ってかえりました。きっと今でもまだ、お肉を食べていることでしょう、たくわえが尽きていなければね。

単語

orava [名] リス
kinnaš [名] ミトン
niekla [名] 針
velleš [名] 兄弟, 兄, 弟
tiehuara [名] 道の分岐点, 交差点
eri [形] 異なる, 別々の
sualis [名] 入手, 獲得, 戦利品, 獲得物
huhuta [動] 叫ぶ, 大声を出す
löytyä [動] 見つける
tervaškanto [名] 樹脂の切り株
kiijättyä [動] 速やかに運ぶ, 疾走する, 全速力で走らせる
(oijota [動] 急いで出かける, 急ぐ, 走る)
rukka [名] かわいそうな人, 不幸な人
löytö [名] 見つけること, 発見, 見つけもの, 掘り出し物
lyyvvä [動] 打つ, ぶつ, たたく
lampi [名] 池
pieksyä [動] なぐる, 殴打する
šuo [名] 沼, 湿原, ぬかるみ
laita [名] 端, はずれ, すそ
petra [名] 野生のトナカイ, 鹿
karja [名] 動物の群れ
korteh [名] トクサ属の植物
mätäs [名] (草などに覆われた)小丘, でこぼこ
pistäytyö [動] 駆け込む, 走って隠れる
šiämeh [副] 中へ, 内部へ
mara [名] 腹, 腹部, 胃腸
pissellä [動] ちくちく刺す, 針で刺す
kuolla [動] 死ぬ, 亡くなる
karjuo [動] 叫ぶ, 大きい声を出す
velli [名] 兄弟, 兄, 弟
lietä [動] (可能法で用いて)~かもしれない
ampuo [動] 撃つ, 射撃する, 射る, 仕留める
venyö [動] 横たわる
(kellottoa [動] 横になる, 寝そべる)
silittyä [動] なでる, さする, アイロンをかける
veikko [名] 兄弟, 兄, 弟
nylkie [動] 取り外す, 分解する, 皮をはぐ
keittyä [動] 煮る, 煮て作る, 沸かす
kattila [名] 鍋
terävä [形] 鋭い, 鋭利な
kynsi [名] 爪
kis kuo [動] 破る, 引き裂く, ちぎる, 皮をはぐ
tuohi [名] 白樺の表皮
liha [名] 肉
ommella [動] 縫う, 縫ってつくる
ropehut [名] 白樺の皮からできた小さな容器
loppuni [形] 最後の, 終わりの
loppuo [動] 終わる

出典

所蔵:ロシア科学アカデミー カレリア学術研究所(KarRC RAS)
採取地:ペトロザボーツク(ただし話し手はカレヴァラ地区出身)
採取年:1947年
AT 90

上述のKarRC RASの他、フィンランドのSKS(フィンランド文学協会)口承文芸保存局にもいくつかのバリエーションが収蔵されていますが、その出自はカレヴァラ地区(ヴィエナ・カレリア)に限定されていると見られています。

日本語出版物

・「子どもに語る 北欧の昔話」, 福井信子/湯沢朱実編訳, 2001, こぐま社
 └『りすとてぶくろと針』

つぶやき

カレリア民話の中でも、好きなお話の一つです。
同じような呼びかけが繰り返されるのは、(カレリア)民話の特徴ですね。こうした呼びかけは大抵、韻を踏んでいます。残念ながら訳ではそこまで表現できなかったのですが…。

また Niekla-rukka を「チビっ子針」と訳しましたが、正確には「哀れな針」で、いじめられっ子であることが伺える言い回しです。
それにしても、面白い組合せの兄弟ですね。

ちなみにロシア語に訳されると、リス(Белка)、ミトン( Рукавица)、針(Иголка)はすべて女性名詞なので3姉妹になってしまいます。

>> KARJALAN RAHVAHAN SUARNAT(カレリア民話)- もくじ

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