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[カレリア民話] ツルと行き遅れの婆さん(KURKI TA VANHAPIIKA)

ツルと行き遅れの婆さん

むかし、あるところにツルと年を取った未婚の婆さんがいました。婆さんは薪から自分のための小さな小屋を建てました。そうして小屋に暖炉を設置しました。1匹のツルが、婆さんの婚約者になるべくやって来ました。婆さんは尋ねます。
―何のためにやって来たんだい?
ツルは言います。
―お前さんの婚約者としてだよ、ワシの妻になっておくれ。
婆さんは言います。
―お前さんの家はどこだい?
ツルは言います。
―ワシの家はあの小さな丘の上だよ。
婆さんは言います。
―いいや、行かないね。長いこと未婚でいたからね、独りでいるさ。
ツルは沼へと(帰って)行きました。

婆さんは考えました:「どうしてツルのところへ嫁がなかったんだろう。そうだ、(私から)頼みに行こう。」
婆さんは樹皮でこしらえた靴を履き、頭にストールを巻きました。ツルのところへ行き、言いました。
―お前さんがあたしをめとってくれるってんなら、嫁ごうじゃないか。
ツルは言います。
―いいや、めとらないよ。ワシが尋ねたときに来なかったからね。もうめとらないさ。
婆さんは嫌な気分で沼から歩き去りました。前かがみになってノロノロと歩きました。雪が降ってきて、吹き荒れました。ひどくずぶ濡れになりました。家に帰ると、服を脱ぎ、ストールを干して乾かし、樹皮の靴を脱ぎすて、足の充て布を干しました。そしてこんな風に罵りました:「なんてバカだったんだ、(ツルのために)出かけていって、服まですっかり濡らしてしまうなんて。」

ツルは沼地の丘で考えました:「なんでワシはめとらなかったんだろう、待てよ、もう一度頼みに行こう!」
そうして婆さんの(家の)ドアへとやって来て、ノックしました。婆さんは尋ねました。
―ドアの向こうにいるのは誰だい?
ツルは言います。
―ワシだよ、お前さんを婚約者として迎えに来たんだ、一緒に行こう。
婆さんは言います。
―いいや、行かないし、ドアも開けてやるもんかい、一度断ったんだからね。ストールはずぶ濡れ、樹皮の靴だってまだ乾いてないんだ。さっさと帰りな!
ツルは沼へと(帰って)行きました。

婆さんは考えました:「どうしてツルのところへ嫁がなかったんだろう。そうだわ、頼みに行こう。」
ふたたび同じ服に着替え、ツルのところへ訪ねていきました。やって来て、言いました。
―今度こそ嫁ごうと思うんだよ、めとってくれるならね。
ツルは言います。
―いいや、めとらないよ。ワシが行ったときに来なかったんだからね、さあ帰っておくれ。
婆さんは、あたしが頼みに来てやったのにと文句を言いながら、ふたたび沼地を歩いていきました。家に帰ると暖炉に上がりました。

ツルは考えました:「なんだってワシは彼女をめとらなかったんだ、あんなに良い服を着てきてくれていたのに。そうだ求婚に行こう、今じゃなかったらいつ行くっていうんだ?」
ツルは婆さんのところへ行き、言いました。
―お前さんを婚約者として迎えに来たよ。
婆さんは言います。
―お前さんは断ったんだろ、あたしゃ行かないよ。

こうしてツルはふたたび追い出され、彼らは延々と互いに求婚しあったのでした。

単語

piika [名] 未婚の女性
kekäleh [名] 薪, 木片
pikkaraini [形] 小さな
kutuo [動] 石やレンガなどを積んで設置する
mätäs [名] 塚, 小丘
neičysteä [動] 未婚でいること
yksinäini [形] 孤独な, 独りの
virsu [名] 樹皮でつくられた靴
sviitka [名] 巻物, ストール
röntösteä [動] のろのろと歩く
kastuo [動] 濡れる
pahanpäiväni [形] ひどい, ひどく悪い
hattara [名] 足に巻く充て布
kiroutuo [動] 悪態をつく, ののしる
huima [名] バカ, きちがい
möčätä [動] 罵る
loppumatoin [形] 果てしない, 無限の, 際限のない

出典

所蔵:ロシア科学アカデミー カレリア学術研究所(KarRC RAS)
採取地:カレヴァラ地区のウフトゥア(カレヴァラ)村
採取年:1947年
AT 244A*

古いインドの説話集『パンチャタントラ』にも類似話が載っているほど、世界で語られているお話です。
物語の語り手、創作物語話者として著名なマリア・イヴァノヴナ・ミハエヴァ(Maria Ivanova Mihaeeva)が語ったお話として有名で、民話というよりは、彼女がどこかで耳にしたお話にアレンジを加えて話したものだろうと言われています。

日本語出版物

何かにありそうですが、未確認。

つぶやき

カレリアに昔から伝わるお話ではない・・・と分かっていたので掲載をためらっていたのですが、ちょうど良い分量のお話が尽きてきたこともありまして。

子どもたちを笑わせるよう、ツルや婆さんをより滑稽にみせるような語りは見事です。婆さんの意固地な心理描写もなかなかですね。

残り13話!

>> KARJALAN RAHVAHAN SUARNAT(カレリア民話)- もくじ

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