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[カレリア民話] ものぐさ娘(LAISKA TYTÄR)

ものぐさ娘

昔、おじいさんとおばあさんがいました。彼らには一人娘がいました。おじいさんが亡くなりました。娘はとても綺麗でしたが、どこへも仕事に出せないくらい、ものぐさでした。おばあさんは、彼女を養うために物乞いをしなければなりませんでした。ある日おばあさんが物乞いから帰ってくると、娘が何もかも嫌がり、水さえも運びたがらずただ暖炉の上で寝ていたので、おばあさんは怒声を上げました。

旅の途中の皇子が森から出たところ、ある家からわめき声が聞こえました。彼は何が起こっているのかを見に行きましたが、少女がただ暖炉の上で寝そべっているだけでした。皇子は言いました。
- ここでいったい何をわめき立てているんだ?
- わめいているもんかい、とおばあさんは言いました。
 娘があんまりにも働いてね、あたしが村から1袋分の麻を運ぶと、1日で紡いでしまうほど働くんだよ。きっと親になってからも、この力を発揮するだろうね。

数日後、なぜ働きたがらないのかと、おばあさんが再び娘を叱りはじめると、またしても皇子が通りかかりました。おばあさんは「あらゆる仕事をさせても手いっぱいになることがないからね、だから愚痴をこぼしてたのさ」とごまかしました。皇子は、こんなにも美しく働き者の娘の夫となろうと考えました。ありとあらゆる豪華な衣服を買い、そして娘を嫁に迎えました。うまく騙せたおばあさんは、満足気に家に残りました。

- まだだ、まだ結婚式はあげないよ、まずは他の祝宴があるから、その後に結婚式をあげよう。
さて他の人たちが宴に出かけると、娘の前には「他の人たちが宴に行っている間に紡ぐために」1袋分の麻が運ばれてきました。

娘は困ってしまいました。糸紡ぎなんて一切できないので、彼女は泣き出しました。すると、とても醜い顔の老婆がやって来て言いました。
- 結婚式に招待してくれるんなら、あんたのために紡いであげるよ。
娘が招待することを約束すると、老婆は麻を紡ぎ、糸を釘に巻いていきました。そうして老婆は去っていきました。

宴からもどった者たちは「とうとう我々も紡ぎ手を見つけたんだ」と驚きよろこびました。そして二日目も出かけていき、娘のもとには紡ぐために麻袋が運ばれました。するとさらに醜い2人目の老婆がやって来て「結婚式に招待してくれるなら、あたしが紡いであげるよ」と言いました。娘が「あなた方をどうやって招待したらいいの?」と尋ねると、老婆は言いました。
- 家畜のための道の入口に岩があるから、その岩をノックすればいい。そしたら、あたしたちは岩の下からやって来るよ。

そうして老婆は娘のために紡ぎました。宴帰りの人たちは今回も満足しました。三日目にも同じように、彼女のもとに紡ぐためのものが運ばれ、そして今までで一番醜い3人目の老婆が、娘のために紡ぎました。宴帰りの人たちは、仕事をしなくて済むことを喜びました。

そうしてとうとう結婚式が行われました。「もし招きたい人がいれば、お前も親戚を呼びなさい」そう言われると、娘は言いました。
- 結婚式に招待したい3人のおばがいるのですが、ただ、彼女たちはとても醜いのです。

それでも招待を許されたので、彼女は岩場へ行ってノックすると、(1人目の)老婆がさっと現れました。

老婆は小屋までやってくると「足が正しい向きになってないから、あたしゃ座れもしないし、歩くこともできないよ。」と言いました。そのせいで躓いてしまっています。
- 何があなたをそんな風にしてしまったのですか?
- あたしゃ生まれてこのかたずっと紡いでるからね、だからこんな風に踏みつぶしたような足になったんだよ。」
皇子は「ああ、足がこんなに悪くなるまで妻に糸紡ぎさせるのはやめよう」と思いました。

2人目の老婆が岩場からやって来ました。その手は激しく震えていて、指がカチカチと音がなるほど…。老婆は言いました。
- あたしは招待客には向かないよ、手が正しく収まらないからね。
- 何があなたをそんな風にしてしまったのですか?
- あたしゃ生まれてからずっと紡いでいるからね、そのせいでこんな風なんだよ。
皇子はまたしてもこんな回答を聞きました。

3人目の老婆がやって来ました。その舌はぶらぶら揺れて、なめまわすようにしています。老婆は言いました。
- 生まれてからずっと紡ぎながら糸をなめてきたからね、もう舌がもとの場所に戻らないんだよ。

「こんな風になってしまうのだったら、もうこれ以上、妻に糸紡ぎさせるのはやめよう」と皇子は思いました。そして今後いっさい娘には糸を紡がせないよう命じられたのでした。

単語

i [接] そして(ロシア語からの借用)
suattua [動] できる, しても良い
elättyä [動] 扶養する, 養う, 面倒をみる
haukkuo [動] 罵る
hirvie [形] 恐ろしい, こわい, ひどい, 痛ましい
hoti [副] せめて…でも, ~さえ, ~すら
kiukua [名] 炉 かまど, ストーブ
muata luhmottau ぐっすりと眠っている
čuari [名] 皇帝
matata [動] 旅行する, 旅をする
elämä [名] 騒音, 物音, 騒ぎ
öhötteä [動] 横になってぐうたらする, 寝そべる, のらくらする
papattua [動] 早口でまくしたてる, べらべらしゃべる
tiälä [副] ここで
liina [名] 麻
värčči [名] 袋, 1袋分
kesrätä [動] 紡ぐ
keritä [動] 上達する, 秀でてる, (時間内に)~してしまう
voima [名] 力
mänettyä [動] (時間・エネルギーを)使う, 費やす
elyä [動] 暮らす, 住む, 生きながらえる
tuaš [副] 再び
päivä [名] 日, 一日
ruveta [動] ~し始める
kehata [動] ~して欲しいと思う
šattuo [動] たまたま起きる, たまたま~する機会がある
kiäntyä [動] 向きを変える, 戻る, 掘り起こす, 翻訳する
(täytetys [形] いっぱいの, 満たされた, 充実した)
arvella [動] 思う, みなす, 予想する, 推定する
šulhani [名] 婚約者
ruataja [名] 従業員, 働き者
vuate [名] 衣類, 衣服
käyvvä [動] 行ってくる, 通う, もたらす, 手に入れる
jiähä [動] 残る, 留まる
hyvilläh [副] 満足して, 満足げに
hyvilläh [副] とても
ošata [動] (能力的に)~できる, 達成する
valehella [動] 嘘をつく
hiät [名][複] 結婚式
(piteä [動] 保持する, 維持する, 催す, 行う)
piiru [名] 宴会, 祝宴
enšin [副] まず, はじめに
šiitä jäleštä その後から
toini [序数] 第2の, 2番目の
toini [形] 別の, もう一つの
kantua [動] 運ぶ, 持っていく
eteh [副] こちらに向かって, 前方に
hätä [名] 困難, ピンチ
hätä käteh 困難を抱える
käsi [名] 手, 腕
itkie [動] 泣く, 嘆く
kun [接] ~の時, ~なので
yhtä [副] (否定文で)まったく~ない
oikein [副] とても
kauhie [形] おぞましい, 恐ろしい, 不気味な
näköni [形] ~の見た目の
luvata [動] 約束する, 請けおう
vyyhti [名] 糸を巻いたもの, 一巻き
nuakla [名] 釘
tulija [名] 訪問者, 来訪者
ihmetellä [動] 驚く
kesryäjä [名] 紡ぎ手
tuuvva [動] もって来る, もたらされる
neuvuo [動] 勧める, アドバイスする, 忠告する
kuja [名] 家畜のための脇道
šuu [名] 口
kallivo [名] 岩, 岩場, 岩壁
kopahuttua [動] 打って音を出す, ノックする
alta [副] 下から
šamoin [副] おなじように, ~もまた
olla mielissäh 喜ぶ, 嬉しい
minne [疑] どこへ
šuaha [動] 受ける, 得る, 稼ぐ(生活のために働く)
luatie [動] 行う, する, 作る
heimokunta [名] 親戚, 親族
täti [名] 叔母
kumminki [副] それでも, それにも関わらず, でもやはり
käškie [動] 頼む, 乞う, 求める, 命じる
viuhahtua[動] 急に現れる, 素早く動く
pirtti [名] 木造の百姓家
astuo [動] 歩く, 進む, またぐ
jalka [名] 足
praveša [名] 真実, 本当, 正確, 正しさ
potkie [動] 足で蹴る, こづく
ikäni [副] 永遠に, いつでも, ずっと, 全人生
polkie [動] 踏みつける, 履きつぶす
tämmöni [形] このような
enämpi [副] 今後, もはやこれ以上
piekšäytyö [動] 激しく震える
šormi [名] 指
primpettyä [動] カチカチと音が鳴る
vieras [名] 客, ゲスト
vueras [名] 見知らぬ人
pisyö [動] ある状態でいる, 滞在する
paikka [名] 場所, 席
nuolekšie [動] なめる, なめまわす, 舌なめずりする
pieksyä [動] 揺れる, 揺さぶる
nuolla [動] なめる
rihma [名] 糸
kieli [名] 舌, 言語
kieli [名] (弦楽器の)弦
tuommoni [形] あのような, そんなような

出典

所蔵:ロシア科学アカデミー カレリア学術研究所(KarRC RAS)
採取地:カレヴァラ地区のヴオッキニエミ(ヴォクナヴォロク)
採取年:1937年
AT 501

ドイツのグリム兄弟による物語集にも類似の話がありますが、カレリアのお話はより皮肉めいた色合いが強く出ています。フィンランド東部でも広く語られているお話で、アールネによると72ものバリエーションがあると記録されています。

日本語出版物

フィンランドの北ポホヨンマー地域から採取された類似話が、以下の昔話集に収められています。

・「フィンランドの昔話 民俗民芸双書60」, P.ラウスマー, 臼田甚五郎監修, 日本フィンランド文学協会訳, 1971, 岩崎美術社
 └『なまくら少女』
・「グラフィックカラー 世界の民話1 北ヨーロッパ」, 鄭仁和/高橋静男 他編訳, 1979, 研秀出版
 └『のらくら女』

>> KARJALAN RAHVAHAN SUARNAT(カレリア民話)- もくじ

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