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[カレリア民話] 皇帝の宴(ČAARIN BAALU)

皇帝の宴

皇帝のもとでは宴が予定されています。あらゆる人々が宴に招待されました。そして、ある男が宴へと出かけました。彼はひと壺のキーセリ(※1)を持っていきました。ひと壺のキーセリを持っていくと、1カッパ升(※2)の金を(報酬として)もらいました。男は上機嫌で帰路につきました。馬の背に乗った男が、向かいからやって来ました。
ーじいさん、どこからやって来たんだい?
ー皇帝の宴にいたんだ、ひと壺のキーセリを持って行ってね、そしたら金を賜ったんだ。今は家に帰るところさ、今や何でも買えるんだ!
ー金をくれないか、その代わりに私の馬を連れていくといい。交換しようじゃないか。
男は金を渡すと、馬を受け取りました。
ー少なくとも、馬で畑を耕すことができるだろうさね。
 
男は上機嫌で馬の背に上がりました。少し進むと、雌牛を綱引いた女が向かい側からやって来て、尋ねました。
ーじいさん、どこからやって来たんだい?
ー皇帝の宴にいたんだ、ひと壺のキーセリを持って行って、そしたら金を賜ったんだ。そして今、それを馬に交換したところなのさ。馬で自分の畑を耕すことができるんだよ。
ー雌牛と交換しないかね。
ーいいとも。少なくともばあさんと一緒に乳製品を食べることができるぞ。
 
少し進むと、子豚を連れた女に出くわしました。
ーじいさん、どこからやって来たんだい?
ー皇帝の宴にいたんだ、ひと壺のキーセリを持って行ってね、そしたら金を賜って、それを馬に交換して、今馬を雌牛に交換したところなのさ。今やばあさんと一緒に乳製品を食べることができるのさ。
ー私の子豚と交換しないかね?
ーいいとも。少なくとも家に帰ってそれを絞めたら、ばあさんと肉を食うことができるさね。
 
さらに少し進むと、羊を連れた女がやって来ました。
ーじいさん、どこからやって来たのさ?
ー皇帝の宴にいたんだ、ひと壺のキーセリを持って行って、金を賜ったのさ。金を馬に換えて、馬を雌牛に交えて、雌牛を子豚に変えたところなのさ。これから家に帰ってそいつをと殺して、ばあさんと肉を食べるのさ。
ー羊と交換しておくれよ。
ーいいとも。少なくともウールが手に入るからな。ミトンの手袋とくつ下を作ることができるぞ。
 
さらに少し進むと、鶏を連れた女がやって来ました。
ーじいさん、どこからやって来たの?
ー皇帝の宴にいたんだ、ひと壺のキーセリを持って行って、金を賜ったのさ。金を馬に換えて、馬を雌牛に交えて、雌牛を子豚に変えて、子豚を羊に変えたところなのさ。今やウールが手に入ったんだ。ミトンの手袋とくつ下を作ることができるのさ。
ー私の連れてる鶏と交換しないかね。
ーいいとも。鶏は卵を産むからな。卵は食べることも、売ることもできるさね。少なくともばあさんと一緒に卵を食べれるぞ。
 
さらに少し進むと、胸元に針を刺した女がやって来ました。
ーおじいさん、どこからやって来たの?
ー皇帝の宴にいたんだ、ひと壺のキーセリを持って行って、金を賜ったのさ。金を馬に換えて、馬を雌牛に交えて、雌牛を子豚に変えて、子豚を羊に変えて、羊を鶏に変えたところなのさ。家に帰ったら、これからはばあさんと卵を食べられるのさ。
ーおじいさん、私の針と交換しないかしら。
ーいいとも、美しいお嬢さん、いいとも。家に帰ったら、少なくともボロを繕うことができるさ。
 
さらに進んで行き、(家の)生け垣を超えようとしたところで、草むらに針を落としてしまいました。探しても、探しても(針は)見つかりません。男は(自分を)打ち叩き、何を皇帝に持っていったかを忘れてしまいました。さらに打ったり叩いたりして、泥まみれになってしまいました。それからふと思い出しました。「キーセリを持って行ったんだったな」。男は泣く泣く手ぶらで帰りました。ひと壺のキーセリは消えさり、見返りは何もありませんでしたとさ。
 
※1)キーセリ:ベリーや果物を煮てとろみをつけ,ピューレ状にした甘いスープ。
※2)カッパ: 木の容器、升。容積をはかる単位として用いられた。

出典

所蔵:ロシア科学アカデミー カレリア学術研究所(KarRC RAS)
採取地:オロネツ(アウヌス)地区のソルボラ村
採取年:1936年
AT1415
 A.Galaktionovaによって、Maria Bogojevaより採取。

つぶやき

グリム童話でおなじみ『幸せハンス』と同型のお話です。すべてを無くしても幸福を感じるハンスと異なり、このお話では空手に終わるだけ。ただ損をしただけのお話で、なんとも哀れです。

この採録話が収められた民話本『カレリア民話(南カレリア)/ Карельские народные сказки (Южная Карелия)』(издательства "Наука", 1967)は、データ版がカレリア共和国図書館やカレリア学術研究所によって公開されているのですが、昨年、なんと日本の古書店で書籍を発見して迷わず購入。ぼちぼちなお値段でしたが、私が買わずして誰が買う、と。

単語の記載を省略してしまいました。リッヴィ方言は勉強不足であることと、話し手さんの方言もかなり曲者で辞書形を探すのに時間がかかりそうだったため。勉強が進んだ後に、ふり返って確認する機会を持てれば良いのですが。

>> KARJALAN RAHVAHAN SUARNAT(カレリア民話)- もくじ

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