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[カレリア民話] 主夫のじいさん(UKKO KOTIMIEHENÄ)

主夫のじいさん

むかし、おじいさんとおばあさんが住んでいました。彼らにはまだ小さな1人息子がいました。おじさんは森から帰るといつもおばあさんに「ワシが森で働いているというのに、お前はいつも家でぐうだらして」と冷たい態度でした。(ある日)ばあさんが言いました。
―それじゃあ、こんな風にしましょう、私が森へ行くから、お前さんは家に残りなさいな。もちろん私は森で働くから、お前さんは私がしているようにただ家の面倒をみれば良いさ。
―じゃあ、ワシは今日1日、家にいるとするか。お前は森へ行って、ワシは横になれるってもんだ。
 
ばあさんは、じいさんに家にいる間に何をしなければいけないかと、仕事の助言をしました。その日は土曜日でした。
―まず粉をひいて、バターを撹拌するんだよ。それから赤ん坊を洗ってやって、それからライ麦ビールを注いどいてくれ。水を汲みに行って、(放牧していた)雌牛が戻ってきたら、また出てってしまわないように、つかまえておいておくれ。夕方に差しかかったらサウナを暖まるように準備して、スープを煮ておくんだ。これが私が毎日やってることだよ。
 
じいさんは、こんなに仕事があるのなら、森に行く(方が良い)と乞おうとしましたが、ばあさんは許してくれませんでした。こうしてばあさんはオノを背中にしょって、森へと出かけていきました。じいさんは仕事に取りかかりました。
(じいさんは)バターの撹拌器具を白樺樹皮の袋に入れると、背おいました。それから粉をひきに行き、揺り椅子の足に縄を結びました。じいさんは、3つの仕事を同時にやろうと思ったのです。粉をひいている時に子どもを洗ってやらなければいけないことを思い出し、まずは洗うために、赤ちゃんを連れて水に浸しておいて、それから洗おうと考えました。地下(の貯蔵室)から上がると、服を着せた赤ちゃんを水の張った桶に浸からせておき、自分は地下へと降りていきました。粉をひき終わると、ふたたび家屋へと子どもを洗いに行きました。やって来てみると、赤ちゃんは桶の中でひっくり返ってうつ伏せになり、死んでしまっていました。じいさんは悔やみました。
―ああ、ワシは何てことをしてしまったんだ!
 
じいさんはそれから、ライ麦ビールを取りに行きました。背中にしょった撹拌器具をおろすと、手で撹拌し始めました。家屋のドアは(閉じ切っておらず)隙間がある状態でした。バターの撹拌器具を床に置くと、子ブタが中へ入ってきて、撹拌器具をひっくり返してしまいました。じいさんは、子ブタの上に乗ろう(制御しよう)と思いました。どうしようもなくなって、じいさんはライ麦ビールのツボの栓を取って、それでブタを打ちつけました。ブタは死んで、ライ麦ビールは地面を流れていきました。それでもじいさんは、床からクリーム(状のバター)をすくい取って撹拌器具に入れると、撹拌器具を白樺樹皮袋に入れ、袋を背おいました。それから、サウナを暖めに行きました。サウナを暖めておくのと同時に、水を汲みに行こうと考えたのです。サウナを暖めると、水を汲みはじめました。水を汲もうと身をかがめた時、(背中の袋に入った)クリームが耳もとから湖へ流れ出てしまいました。
 
家屋へ戻ると、雌牛もすでに戻ってきていました。じいさんは屋根に(あがる)はしごをかけると、森へ逃げていかないよう、雌牛を小屋の屋根に押し上げました。牛を追いやったところで、ばあさんが平たいパンを作っておくよう言っていたことを思い出しましたが、じいさんは「平たいパンじゃなくて、お粥を作ったって良いだろう」と考えました。そうしてお粥を火にかけました。それから「牛が屋根から落ちたりしないだろうな」と考えました。そうしてじいさんは、牛の首に縄を結ぶと、反対側の先を出窓をとおして(自分の)足に結びつけました。
 
ばあさんは森で、主夫はどんな塩梅かと考えました。帰路につくと、煙が上がっているのが見えました。ばあさんは、じいさんが家を燃やしてしまったか、あるいは子どもと一緒に火の中に陥ってしまったのだと思いました。家の近くへとやって来ました。牛がすべって屋根から落ちそうになり、じいさんの縄を天井へと引っ張り上げています。ばあさんは家に入ると、息絶え絶えに引っ張られているじいさんを目にしました。ばあさんが縄を切ると、牛は生き延び、じいさんは息を吹き返しました。ばあさんは、じいさんをこっぴどく叱りました。じいさんは心から祈り言いました。
―叱らんでくれ、ばあさん。もう二度と主夫になんてならんから。

単語

köllöttyä [動] 寝転ぶ, ぐうだらする
koittua [動] ~しようと努める
vuassa [名] 家庭でつくるライ麦アルコール酒
töpötellä [動] 小さな歩幅で進む
pyöhin [名] 撹拌機
kätyt [名] 揺り椅子
vesiallas [名] 桶, かいば桶
kumuallah [副] さかさまに
rako [名] 割れ目, 隙間, 穴
nasakka [名] 水差し, 蓋つきのツボ
tulppa [名] 栓
kolahtua [動] ぶつかる, ノックする
ammultua [動] (ある量を)汲み取る, すくい取る
painautuo [動] 広がる
rieska [形] 塩気のない, 新鮮な
rieska [名] 無酵母の平たいパン
reppänä [名] 引き戸のついた窓
polttua [動] 燃やす, 焼く
velluo [動] ころがる, すべる, 走りまわる
moliutuo [動] 祈る, 祈祷する, 十字を切る

出典

M. Remsu: Karjalais-Suomalaisia Kansansatuja, Petrozavodsk 1945
採取地:カレヴァラ地区
採取年:-
AT 1408

父からの遺産(PERINTÖ)』、『小鳥たちの予言(LINTUSIEN ENNUŠŠUŠ)』と同じく、マリア・オントロの娘・レムス(Maria Ontron tytär Remsu; 1861-1942)によるお話で、『カレリア・フィンランドの民話集(Karjalais-Suomalaisia Kansansatuja)』からの1話です。

日本語出版物

フィン・カレリア民話としての日本語での出版物は見当たりません。

つぶやき

亡くなった子どもがなんとも可哀そうなお話です。
カレリアでは男性優位の社会ですが、家の中ではかかあ天下、やはりお家のことはおかみさんには叶わないのです。
とはいえ、イクメンという言葉が飛び交うようになった昨今は、変わっているのかもしれませんが。

これでようやく40話です。
目標の50話には届きませんでしたが、今年1年よく訳しました。
来年はカレリア語独学記録の更新を優先するため、民話訳の紹介は少し減るかもしれませんが、引き続き紹介していきたいと思います。

今年も1年、さまざまな人のさまざまな文章を楽しませて頂きました。
ありがとうございました。
皆さま、どうぞお健やかに良いお年をお迎えください。

>> KARJALAN RAHVAHAN SUARNAT(カレリア民話)- もくじ

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