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短編小説「凶器は言葉」

とある白い部屋で、子供と大人が話している。

「───よしわかった。じゃあこんな話をしよう。人類が精神病理学に至るまでの狂気の話だ」

「はい。お願いします」

「そもそも狂気とは何だと思う?フィクションでなら見掛ける表現だけれども、具体的にどういう状態を狂ったと判断するのか?」

「さあ…急に叫んだりとか、話が通じなくなるとか…そんな感じでしょうか?」

「そんな状態はね、例えば昔の日本なんかだと狐憑きだとか、神懸かりと呼ばれていたんだ。キリスト教の文化圏だったら悪魔憑きとかね。そして現代医学では、その狂気にメスを入れて、病状や治療法と紐付け分類してきた」

「価値観というのは時代と共に変遷するものだ。今の価値観からしてみれば、狂気の解明の歴史そのものがある種狂気染みて見えることもあるだろう。魔女狩り。パノプティコン。ロボトミー手術。幻覚剤の研究。宗教戦争」

「昔とある女性が言っていたんだけどね…狂気とはこの価値観が…物差しが更新されるようなものなんだそうだ。精神の致命傷とも表現していたかもしれない」

「致命傷…ですか」

「あるいは……そうだな。急に狼に味方したくなったりするのだろうね」

「はあ……よく、わかりません」

「こういうのは後からわかるものだ。伏線とは張った瞬間ではなく、回収した瞬間に張られるものであり、終わりと始まりを見極めることは難しい。しかし、似ているからこそ比べることは可能だ…と、こんな風に」

「考え事は適当にね。真剣になりすぎてはいけない。愉しまなくてはね。君のように自分を苦しめる為に使うのは勿体無いよ」

「あの、僕も…好きでしてるわけでは…」

「うん。まあ癖みたいなものなんだろうね。これから私と頑張っていこう。しかしさっきの話題は生臭いというか、死臭がしていたね。もっとアイスクリームの好きな味だとか、そういう話にしようか」

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