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【随筆】苦楽を共にしたあいつと私の再会

社会人になって初めてごはんを炊いた。
思いつきで米買ったから、炊飯器は学生時代に使っていたもの。

3、4年ぶりに稼働してもらうので丁寧に洗って消毒してから米をセットし炊飯ボタンを押す。
調子に乗って「ギャル」とピースするも裸爪の指では映えないし、私はギャルではなかった。

炊飯器は洗濯機のように勢いよく動き出すタイプの家電ではない。そのためしっかり作動しているかがイマイチ分からない。

そもそもこいつが正しい動きをしているかどうかすら分からない。なぜならどんな音が鳴ってどんな動作をするのかすら全く覚えていないからだ。

これが3、4年の重みか。

その重圧に耐えられなくなり、とりあえず風呂に入る選択をする。昔から臭いものには蓋をしてやり過ごすタイプの人間だ。
嫌なものは見なければ存在しない。そうでしょ?

とはいえ風呂はサッと済まし、台所にいるあいつの様子を確認しに行く。
特に変なところもなかったと思うし大丈夫だろうと思うのも束の間、ああなんか焦げ臭い。ほんのりだが焦げ臭い。

やだなぁ失敗かと肩を落としつつ炊飯を中断しおそるおそる蓋を開ける。
中にはまだ粥上のドロっと米が並々。いや並々ってなんだ。こいつのキャパ最大の3合炊いてんのかよ。

それにしてもどうすんだ3合分の炊きかけの米。

幸いなことに米は焦げてはないみたいだった。
いや、つまり焦げ臭いのは炊飯器の方ということになるので幸いという訳でもないかもしれない。

しかしながら、こうなったらもう強行突破するしかない。そして私は社会人だ。こういう時のための呪文を知っている。
「エイヤー」と呟き、時間短縮の策としてお急ぎモードで炊飯ボタンを押す。「ギャル」よりもこちらの方がしっくりくる。少々悔しい。

すぐに湯気を上げる炊飯器。
心なしか焦げ臭さもないような。

「ピーピーピー」

米が炊けた時に鳴る音がした。
はたして私の米は炊けているのか。

緊張の瞬間、しゃもじを片手に炊飯器を開ける。

そこには真っ白ふっくらなご飯が綺麗に炊けていた。あまりの白さに照り返しで日焼けを案じたほどだった。私の勝ちだ。

底の方を返してみても少しも焦げていない。
私の勝ちだ。

炊きたてごはんの香りは食欲を高める効果がある。
今晩食べるつもりで炊いた訳ではなかったが予定を変更、秋鮭も焼いてしまおう。

鮭も本来弁当用として購入したのだが問題ない。食べたい時に食べるのが食材を1番美味しく頂くコツと聞いたことがある。

ありがとう、炊飯器。
これからまたお世話になります。

【米を炊いただけの日記】

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