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22杯目


俺は、来客で賑わうフロアで、コーヒーをトレイに乗せて運びながら、ふと窓際のあの子を見た。

真っ直ぐな背中が、思いがけずゆっくり立ち上がって驚いた。
その拍子にトレイが揺れてコーヒーの水面が、ゆらりと波打つ。

雅喜「ぅゎっ!!」

今まで窓の外を見ていた彼女が、ゆっくり向きを変えて、彩人へ向かって歩き出したから、目が勝手に追いかける。
窓際姫は、コートとバッグと一緒に長方形の箱を持ってる。

赤いギンガムチェックに白いリボンのそれって多分、チョコレート…だよね?、客が一斉に見てる中、緊張しながら歩く様子を目で追って、息を飲んだ。

頑張って!!あと少し!!  と咄嗟に応援してしまう。

雅喜「すみません。これ、置かせて頂いていいですか?」

あの子が緊張して転びそうになったら助けられるように両手を空けておきたかったから、
とりあえず近くのお客さんのテーブルにトレイを置いたら、田中さんが睨んで来たけど、それはバッチリ無視した。

長い髪から覗く耳が真っ赤になってる。
けど、今までよりいい表情に見える。
無表情に泣いてたあの時よりずっといい。

それにしても彩人、視線くらい向けて反応してあげてもいいんじゃない!?
気づかない演技は下手過ぎて見てられない。
顔が赤くて、体の動きが固い。

彼女は真っ赤な顔で演奏する彩人の前で立ち止まって、真っ赤なギンガムチェックの箱をピアノの譜面台の横に、静かにコトンって置いた。

気持ちを込めるように、少し背中を倒して…。







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