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TikTokの先駆け?失敗したSNSアプリ開発から学んだマーケティングの重要性


1、はじめに

自己紹介

私はITエンジニアとして様々なAndroidやiOSアプリ、Webアプリの開発に関わってきました。IT業界は15年目となり自分で開発会社を立ち上げてから8年ほど経ちました。現在は数多くのWebアプリ、スマホアプリサービスを立ち上げてきた経験やノウハウを活かして、サービスデザインや事業デザインをメインでやっています。

TikTokのようなアプリを開発した背景と、その経緯

私がエンジニアとして参画した開発プロジェクトは、今でいうTikTokと同様のコンセプトのアプリを開発するという、当時としては革新的な挑戦から始まりました。このアイデアは、若者たちが簡単に動画を共有し、自分たちの創造性を表現できるプラットフォームに対する強いニーズから生まれました。

開発の経緯は、ある企業からの依頼によるものでした。

この企業は、既に同様の機能を持つWebアプリサービスを持っており、数千人規模のユーザーベースも確立していました。2018年の当時の市場は動画共有やソーシャルメディアの台頭期で、特に若い世代の間で動画コンテンツの人気が高まっていました。

このアプリの開発は、エンジニアの私にとっていつも通りのプロジェクトの一つでした。確かにスマホアプリで新しいコミュニケーション手段を提供するという点で革新的な要素はありましたが、私の主な目標は技術的な問題を解決し、スムーズに機能する製品をリリースすることにありました。


2、アプリの特徴とユーザー層

開発したアプリの主な機能

開発していたスマホアプリは、ユーザーが動画を撮影し、それを編集して友達と共有できる、直感的でユーザーフレンドリーなアプリでした。

具体的には、画像を組み合わせて動画を簡単に作れる機能や、音楽に合わせて写真をスライドショー動画にして共有できる機能、ユーザーがフォローしあったりコメントしたりするSNS的な要素を取り入れることで、流行に敏感な若者たちにアプローチしようと考えました。

目玉の機能として動画に音楽を流す際に歌詞を表示できる機能も開発していました。依頼のあった企業の開発マネージャーはJASRACとも何度も話をして、この機能のリリースに注力していました。

元々のWebアプリとしての成功要因

当時のSNSサービスは、主に画像とテキストを中心としたコミュニケーションが主流でした。この潮流の中で、元になったWebアプリは動画中心のコミュニケーション手段を提供しました。これがWebアプリの成功の鍵となりました。

このアプリでは、ユーザーは自分の好きなアーティストの音楽を聴きながら、写真や動画を楽しむことができました。この機能は特に好評で、ユーザーに新しい体験を提供することに成功しました。音楽と映像の融合は、ユーザーに感情的なつながりを提供し、単なるテキストや静止画にはない深みと魅力を持っていました。

動画を中心としたコミュニケーションの提供は、当時としては画期的な試みであり、ユーザーの関心を引くことに成功しました。この新しいアプローチは、従来のSNSとは一線を画す特色をアプリに与え、特に若年層を中心に注目を集める要因となりました。


3、マーケティング戦略の失敗点

このプロジェクトでの最大の教訓の一つは、マーケティング戦略の不足でした。以下にその主な失敗点を挙げます。

これらの点が、最終的にサービスの未達成につながった主な要因と考えられます。マーケティングは、単に製品を宣伝する以上のものであり、市場との連携、ユーザー理解、そして柔軟な戦略調整が不可欠です。

「売りたい」ではなく「検証したい」という消極的な姿勢

市場での成功に対して「検証したい」という慎重な姿勢を取っていました。このようなアプローチはリスクを抑えることができるかもしれませんが、同時に大胆な市場投入戦略を取ることを妨げ、結果的に事業の成長に限界を設けてしまいました。市場での勝負を避け、控えめなマーケティング戦略を取ることで、本来のポテンシャルを最大限に発揮することができませんでした。

市場への積極的なアプローチ不足

当時、開発を依頼してきた企業の事業担当者は主にオフィス内でマーケティング戦略を練ることに専念していました。しかし、これは市場への積極的なアプローチを意味していませんでした。実際のユーザーとの接触を通じて、ニーズや嗜好を直接理解する機会を逃し、市場での存在感を高めるための重要なステップを見落としていました。

流行の変化への対応の不足

サービスのターゲットユーザーは流行に対して特に敏感な若者層でした。しかし、リリース当時のマーケティング戦略は1年前に取得した古いデータに依存しており、流行の変化に迅速に対応することができませんでした。

流行り廃りが激しいユーザーをターゲットとしているのに、タイムリーなトレンドへの対応ができるような体制が無かったのです。

プロジェクトの指標はユーザーが使いやすいか、使いにくいか、注目された機能が要求を満たしているかなどプロダクトに目が向いており、「ユーザーは流行の中心地として情報取得のために利用するのか」というプラットフォームとしての目的のための指標はなく、加えてユーザーのニーズやインサイトを知り、提供するコンテンツをマネジメントする仕組みもありませんでした。


4、コンテンツマネジメントとインフルエンサー戦略

TikTokの成功と私たちのプロジェクトの失敗を比較すると重要な面が見えてきます。それはコンテンツマネジメントとインフルエンサー活用の戦略の有無でした。残念ながら、これらの要素は私たちのプロジェクトにおいて大きく欠けていた点です。

コンテンツマネジメントの不在

当プロジェクトでは、コンテンツの質や多様性に十分な注意が払われていませんでした。動画や画像といったコンテンツは、プラットフォームの魅力を高め、ユーザーを引きつける重要な要素です。しかし、私たちはユーザーが投稿するコンテンツの管理や、質の高いコンテンツを促進するための明確な戦略を持っていませんでした。その結果、ユーザーエンゲージメントの低下につながり、プラットフォームの魅力が十分に発揮されなかったのです。

マネジメントしていたのは不適切な画像や暴言などを監視するためのモニタリングサービス機能が存在するかなどのプロダクト寄りなものばかりでした。

私たちは正しいことや製品の安全性ばかりで、ユーザーにとっての面白さが皆無なコンテンツプラットフォームをリリースしたのでした。

インフルエンサー戦略の不在

現代のマーケティングにおいて、インフルエンサーは非常に重要な役割を果たします。彼らは、特定のコミュニティやフォロワーに影響を与え、ブランドやプロダクトの認知度を高めることができます。

私たちのプロジェクトでは、このようなインフルエンサーを活用する戦略が欠如していました。有名なインフルエンサーや意見リーダーを積極的にプラットフォームに取り込むことで、より多くのユーザーを引き寄せ、コンテンツの共有を促進することが可能でしたが、その機会を逸してしまいました。

競争力を高めるためのコンテンツ戦略の重要性

TikTokは初期から運営側が主体となって面白コンテンツをアップして、ユーザーを楽しませる戦術を展開し、さらにクリエイティブなユーザーを囲い込みすることで他のユーザーへの波及効果を狙っていたと思います。

私たちのプロジェクトで指標としていた製品の品質だけで競争するのは非常に難しく、マーケティング的な戦略を考え、実行することができる役目を持った人材が不在だったことはビジネスにおいて致命的ではありました。


5、ビジネスプランと実際の成果

私たちのプロジェクトは、表面上は非常に立派なビジネスプランに基づいていましたが、実際の成果は期待に遠く及びませんでした。ここでは、そのビジネスプランの落とし穴とユーザー獲得及び収益化の失敗について考察します。

ビジネスプランの落とし穴

当プロジェクトのビジネスプランは、理論上は完璧に見えました。事前にWebアプリで検証されたユーザーの感触、ターゲットユーザーの特定、音楽著作権を管理するJASRAC社との連携などが詳細に計画されていました。

しかし、このプランはビジネス側の都合が優先されて、TikTokなどの他社が提供するアプリの台頭などの現実の市場状況やユーザー行動の変化に対して柔軟性を欠いていました。

そして実際の実行フェーズでは、計画された戦略が適切に実行されなかったり、市場の変化に対応できなかったりしたため、計画と実際の成果に大きなギャップが生じていましたが、事業チームには挽回する機能がありませんでした。

ユーザー獲得と収益化の失敗

ユーザー獲得に関しては、マーケティング戦略の不十分さやコンテンツの魅力不足が大きな障壁となりました。また、私たちのアプリはユーザーにとって十分に魅力的でなかったため、期待されたほどのユーザー数を獲得することができませんでした。

マネタイズのプランはTikTokと同じく広告掲載によって収益を得るビジネスモデルでした。広告掲載モデルはユーザー数やアクティブ数に影響がありますが、私たちのアプリは直接広告を発行する機能を持っていなかったのです。

アプリにSDKライブラリを入れることによって広告提供し、SDKの提供元企業から広告掲載料を支払ってもらうビジネスプランでした。間接的に広告を利用するだけのマネタイズでした。

当然のように直接的に広告を発行できるのと、間接的に広告を利用するのでは収益に大きく差が発生します。魅力的な広告を発行するための提案能力も育ちませんし、アプリを利用するユーザーはお金のない若年層のため広告を見ても購買能力が低いのです。

プラットフォームを利用するターゲットユーザーはビジネスにとって収益を生み出しにくいユーザーだったのです。

プロジェクトは新しい事業のサービスだったため、投資が主な資金調達方法でしたし、売上や収益は徐々にアップすれば良いということで計画されたものだったので事業継続するための資金が枯渇し、結果としてサービス停止ということになったのだと思います。


6、TikTokの成功から学んだこと

TikTokの成功は、私たちに多くの重要な教訓を与えました。ここでは、TikTokのマーケティング戦略とその成功要因、そして「ユーザーに使ってもらう」ことの重要性について考察します。

TikTokのマーケティング戦略と成功要因

TikTokの成功はマーケティング戦略が大きく影響しています。TikTokは、ユーザーが楽しく使えるプラットフォームを提供することに重点を置きました。彼らは、クリエイティブなコンテンツを作成しやすい環境を整え、ユーザーが自分の表現を共有することを奨励しました。

ユーザーがコンテンツを作りシェアするサービスにおいて、運営自体がコンテンツを作りアップする。運営自身もユーザーとして参加するプラットフォームは楽しそうです。運営がユーザーが好むコンテンツを理解するのにも役に立ちますので、良いサイクルが出来上がっていたと思われます。

さらに、インフルエンサーを積極的に活用し、その影響力を通じてアプリの普及を促進しました。これらの戦略により、TikTokは急速にユーザー数を拡大し、世界中で大きな成功を収めました。

「ユーザーに使ってもらう」ことの重要性

私たちのプロジェクトとTikTokの最大の違いは、「ユーザーに使ってもらう」ことへのアプローチです。TikTokは、ユーザーが継続的に関わりたくなるような魅力的な体験を提供することに成功しました。これは、単に機能を提供すること以上に、ユーザーが実際に楽しんで使用するプラットフォームを構築することの重要性を示しています。

TikTokはユーザーに使ってもらうため様々な現実世界のイベントにも顔を出していました。大学の文化祭などでTikTokのロゴのTシャツを着たスタッフの人たちを見たことがあります。業界の人たちしかいない展示会や講演会などではなく、ターゲットとなるユーザーのいるところに参加するのはマーケティング戦略としても非常に理にかなったものだと思います。

こうしてTikTokは運営を含めたユーザーがアプリを積極的に使用し、それを日常生活の一部とすることで、自然とアプリの普及が促進されていったのです。

結果として自分たちのユーザーに見合った広告を表示することにもつながり、CPRやCPAの高い広告プラットフォームを作ることにもつながったのだと思います。


7、まとめと教訓

このプロジェクトを通じて得た最も重要な教訓は、「提供する側が売る気がないと成功しない」ということです。以下に、この経験から学んだ教訓と、今後のプロジェクトに生かすべき点についてまとめます。

「提供する側が売る気がないと成功しない」という教訓

サービスや製品を市場に提供する際、単に良い製品を作るだけでは不十分です。重要なのは、その製品を積極的に市場に売り込み、ユーザーに受け入れてもらうことです。私たちのプロジェクトでは、この点において不十分でしたし、TikTokはその点に非常に強かったと思います。

製品の開発には成功しましたが、市場への積極的な売り込みやユーザーの獲得に向けた努力が足りなかったのです。成功するためには、製品の魅力を伝え、ユーザーに使ってもらうための戦略が重要です。

スマホアプリは工場を建設したり、駅前に店舗を構えたりするよりは安価にチャレンジができるビジネスの1つではあります。私たちのもとには毎月のように挑戦的なビジネスアイデアが持ち込まれ、インターネットを使ったデジタルサービス開発の依頼や相談がきます。

事業検証、PoC検証のようにプロトタイプを作ることも多いのですが、検証することが目的になっているプロジェクトがあることも否定できません。提供側が製品やサービスを売るという意思を感じるプロジェクトが実はそんなに多くないのです。

結果として検証プロジェクトは機能検証の面が強くなり、使い心地が良ければユーザーは使ってくれるという根拠のない仮説を議論することになります。私たちはサービスや製品開発側の人間として「ユーザーに買ってもらうポイントはなんですか?」という視点から逃げてはいけないのです。

今後のプロジェクトに生かすべき点

市場・ユーザーとの対話

市場・ユーザーのニーズと動向を常に把握し、それに応じて製品やサービスを調整する柔軟性を持つこと。流行のタイムサイクルを把握して手元の情報をアップデートすることが必要だと思います。

ユーザー中心のアプローチ

製品やサービスの開発は、ユーザーの視点を常に意識し、彼らが実際に求めているものを提供すること。サービス運営側もいちユーザーとして参加したっていいということがTikTokの成長戦略から学べました。

積極的なマーケティング活動

製品の魅力を効果的に伝え、市場での認知度を高めるための積極的なマーケティング戦略の実施は必ず必要だと強く学びました。製品やサービスのマネジメントだけでは、市場に認識されたり、ユーザーに使ってもらえる可能性を高めることは難しいのです。



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