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[大学数学]一生使える微積・解析学の本はありませんか?

※ この記事では、書名を著者名で記載する場合があります。その際、敬称を省略いたします。予めご了承ください。


イントロ

一生使える微積・解析学の本はあるのでしょうか?

ずばり「そんな本はない」です。

杉浦「解析入門」や高木「解析概論」は一生モノなのでは?
確かに、これらで微積分・解析学への深い理解を得ることは可能です。

微積・解析学は応用の範囲は広く、都度、ニーズに合わせて、買い揃えていくことになります。しかし、人生の時は有限で、資金も有限です。この記事では、わたしの経験から「なるべく長い期間使える」本をピックアップしてみます。

この記事では下記の方を対象にしています。

  • 非 旧帝 レベル

  • 物理・工学・情報系向け

    • 少なくとも数学科ではない

  • 博士後期課程には進まない

    • プロにはならない

  • 学生、社会人を含む独学者

    • もちろん、講義を受けている方も

次に用語の定義を。

解析学$${\supset}$$微積分 です。これは微積分の方が基礎的(易しい)を意味します。この易しいは「解析学的には荒い」です。解析学と微積分とではそもそも対象が異なります。そのため穿つ道具が異なります。

  • 解析学 - (mathematical) analysis

    • 数学的対象を「分析(analyze)」する手法の集成

  • 微積分、微分積分(以後、微積と表記します) - calculus

    • 非数学的対象、つまり物理的対象、数理モデルなどの工学的対象を「分析(analyze)」する手法の集成

以上のように定義します。わたしの自説です。

「入門」という語について。この語は、"専門書あるある"の詐欺な言葉です。「著者が謙遜して、1つもしくは数段階下のレベルで表記する」時に使用されます。正味の難易度を順に並べると

解析学 >  解析学入門 > 微分積分 > 微分積分入門

です。「入門」という言葉がタイトルにあれば、1つレベルが上がると考えください。「解析学入門」と書いていれば、正味は「解析学」の本なのです。

※ 今回の記事では、実解析(複素を含まない、実数での微積・解析学)に限っています。「解析概論」では複素関数・ルベーグ積分が扱われており、例外はこの本だけです。微分方程式、特殊関数も含みません。特殊関数は次の記事に少し書きました。

なるべく長い期間使える本

その1:基礎編

いきなり、演習書です。

この本の問題をすべて解いてください。それからです。「この積分の計算が分からない。載っている本はどれだ?」微分積分を学んでいる時によくあります。この本に収録されている計算の網羅性が群を抜いています。この本で計算パターンを知っておけば、以後、他書で微積分的なテクニック探しをする必要がなくなります。学部の間は微積の計算で困ることがありません。この本を取り組むにあたり、どの教科書・参考書を使うは関係ありません。とにかくやり通してください。この本はリファレンスとして必ず役に立ちます。

※ 社会人でデータサイエンス(DS)を目標に微積を勉強されている方へ。この本での三角関数の計算を省いても問題ありません。指数関数、対数関数、また$${\varGamma}$$関数、$${\beta}$$関数は統計学の計算で使います。しかも頻繁に。過去に出会ったDSistさんで苦手な方にたくさん出会いました。$${\varGamma}$$関数、$${\beta}$$関数を知っていると、統計学の計算は楽になります。知らないと、むしろアドバンスドな分野で挫折します。

参考文献をあえて書くと、

つぎに、こちらの演習書も揃えてください。

微積と解析学のバランスのいい問題集です。後述する解析学を学んでからも、演習書・リファレンスとして使えます。つまり、ほぼ一生モノとしての利用ができます。「演習書はこれだけでいいのでは?」と思われるかもしれません。この本での微積分的なテクニックは、数学的技法としての網羅が重視されています。煩雑・無味乾燥に感じるかもしれません。解析学への側面のバランスについては、試し読みで「例題一覧」で確認ください。連続性、収束性、$${\epsilon-\delta}$$論法などが載っています。この本には解析学レベルの級数までしっかり入っています。こちらもやりこみ度合いで「なるべく長い期間使える」本になりえます。

有名な演習書に「塹江誠夫,詳説演習微分積分学,培風館,1979」があります。網羅性が高いですが、途中計算がほとんど載っていません。取り組んでいたころ、計算がわからなくて数時間消費することが度々ありました。この本を選ばれる方は、後述のその3:解析学に即進まれる方でしょう。哲学書ならはアリストテレスやヘーゲル、ニーチェなど原著書を読み進める、解説書・概説書が不要なタイプです。

その2:解析学手前

微積レベル以上、正味の意味で「解析学」レベル未満です。このレベルから、本に微積分的なテクニックの網羅を求めていけません。上記の小寺「明解演習微分積分」もこの意味で解析学手前に属します。

解析学手前と書きましたが、この書籍で解析学の基礎は出来上がります。解析学の基本から重要な概念はほとんど網羅されています。外部参照なしに読み進められ、終えた頃には「解析学」を使って、次の分野へ進めます。金子晃先生は、もともと難しい本ばかり書かれていました。

など。東大にいらっしゃったのですが、お茶の水女子大学に移られ、その頃から人が変わったかのように、出す本の趣向が変化しました。わかりやすく、実用的、しかし、以前の厳密性を失われてもいません。

ただし,本書は微積の完全な教程を目指したものではない. 分かり易さに重
点を置いたので, すべての結果を定理として系統立てて並べ, 厳密に証明する
ということはしていない。

金子晃「数理系のための基礎と応用 微分積分」参考文献より

と書かれていますが、多くの人が「なるべく長い期間使える」、解析学一旦修了とできる本です。

類書、ほぼ同じレベルで小林昭七先生のこちらも甲乙つけがたい。わたしは金子先生を選びました。

その3:解析学

これ以降は、数学としての修養とお作法を習得する本です。解析学の理論を公理的に構築していきます。微積分的なテクニックは出来て当然で、微積分的なテクニックはこのレベルの書籍では些末なことであり、網羅性を求めてはいけません。

コレも有名、田島「解析入門」です。この本はその2:解析学手前にあたりますが、ユースケースが解析学限定になるので、こちらに含めました。副読本です。この本では「入門」タイトル詐欺はなく、正味の「解析学入門」です。数学的対象を穿つとはどういうことだろう、これに答えてくれます。$${\epsilon-\delta}$$論法や実数論への足掛かりになるはずです。

1冊で、しかもコンパクトに理論が構築されており、割と好きでした。プレミアがすごいことになっていますね。わたしもプレミア価格1万円ほどで売りました。培風館さん、再販してください。

つぎの黒田「微分積分」がイチオシです。
手に入れやすく、現代的であり、読みやすく、応用が利きます。

「関数解析 共立数学講座」(共立出版,1980)で知られる黒田成俊先生による本です。「微分積分」(共立講座 21世紀の数学,2002)とタイトルがなっていますが、「解析学」です。「解析入門」(東京大学出版会)と同レベルに骨太で、数学的に格調高い本です。意外に進めやすく、面白い。ホントにおすすめです。

以下はおなじみの3冊です。持っていましたが、あまりに使うシーンがなく、手放してしまいました。わたしは金子「微分積分」と黒田「微分積分」までしかやっていません。これらは、喩えると、ドストエフスキーの作品、「カラマーゾフの兄弟」や「罪と罰」のようなものでしょうか。文学部(露文)であれば、ドストエフスキー作品は研究の対象として読んでいて当然、作品背景、関連書籍への読み込みなど、作品以上の深度が求められます。では、一般読者はどうか。読むので精一杯ですよね。わたしはこの「読むので精一杯」側に立つ人です。読んでおいて損はない。ただ常に参照するかというと、それを言い切れない、としておきます。

最後に

書いたものの、最後はやはり駆け足になりました。下になるほどじっくり使うシチュエーションがなかったため、書く内容がどうしても希薄になります。「解析概論」を座右の書とするには、基礎編で挙げた小寺「明解演習微分積分」に達した段階で、他書を顧みずに「解析概論」に進むしかないのかもしれません。学部(2~3年次)の間に(2周目)解析学を終えておきたいです。そうすると、このようでしか時間的な余裕がありません。一方、「解析概論」を皆が皆、使う必要がないとも思います。

今回の記事で、まとめとして、わたしのオススメを書くならば、こうでしょうか。物理・工学の学生を対象として、現代的なアプローチであれば

あるいは、

が現実的だと思います。微積・解析学ばかりに時間を掛けていられませんし。

最後に1つ書かせてください。
微積や解析学の本が多すぎます。先生方へもうこの分野の書籍を出さなくていいです。数学書を書くならば、別の分野を書いてください。

思い出したので追加します。
もっと積分を楽しみたい!このような本があります。和訳本はないはずです。このような本のほうが「解析入門」(東京大学出版会)よりも有用という人もいるかもしれません。持っていますけど、余力がある学生時にやっておきたかったです。


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