ほんとうに知りたかった宇宙論【大学院レベル】~こっそり読もう
メルケル元首相はドイツ首相に以前、旧東ドイツ時代では物理学者でした。
「相対性理論を学びたかった。」
彼女は物理学者になりたかった経緯をこう語っています。
私たちも、同じように相対性理論を学び、宇宙を知りたい。そのために、理論物理学を大学で数年間かけて学びました。
しかし、「本当に知りたかった」疑問に専門書は答えてくれない。
大学院生が「マルチバースが。。。」なんてゼミで口走ると、担当教員から「大丈夫?疲れていない?」と精神面の不調を危惧されてしまいます。
「宇宙」は興味を引くコンテンツなので多くの方が解説されています。
でも物足りない。たいていは、物理学専攻であれば常識ともいえる内容ばかりです。
ペンローズダイアグラム
院レベル宇宙論を扱っているのかの指標に、ペンローズダイアグラムが載っているか、が挙げられます。もちろん、ミンコフスキー空間はさらに前提になります。ペンローズダイアグラムを使わないと、時空の無限遠を扱えません。つまり、"宇宙の終わり"や"宇宙の果て"を記述できません。
ペンローズダイアグラムを、皆さん、読めますか? 書けますか?
いざ調べてみると、ネットではこのような学部上級レベルの宇宙論を論じた情報が、あまりにも少ない。
YouTubeには、唯一、丸山 不二夫さんによるマルラボがあります。
ペンローズダイアグラム(図)は、このプレイリストの『マルレク 楽しい科学「イメージで見る「スケール変換」」』で説明されています。
そもそも、ペンローズダイアグラム(図)は、入門書・啓蒙書では扱われていません。この本くらいだと思います。
いわゆるMTW「重力理論 Gravitation」にはもちろん載っています。ただ、2万円もするこの本を手にするには、少し敷居が高い。
マルチバース・宇宙の終わり
このワードは、物理学科に属している間は、けっして発してはならない。口にしようものなら、少し距離を置かれてしまう、どこか恥ずかしい用語です。「シュレディンガーの猫」も現役学生で言う人はいませんよね。
"マルチバース"や"宇宙の終わり"は、arXiv.orgには論文が挙がっており、れっきとした研究対象です。理論的にしっかり学ぶには、膨大な予備知識、難解な計算を要します。
「Kerr解さえ解いたことがない。Hawking輻射の導出なんて無理。」
ほとんどの学生が、お話だけ知っている、となります。そのお話でさえ、何が正しいのか、SFなのか、判断できない。
この2冊は違いました。ちゃんと載っています。
現役学生はこっそり読みましょう。
須藤靖『不自然な宇宙 宇宙はひとつだけなのか? 』ブルーバックス
マルチバースについての本です。マルチバースは専門書で扱われることがありません。マルチバースは、SFすぎるネタなんです。宇宙論の専門家が真面目に答えてくれています。貴重な本です。しかもわかりやすい。
ケイティ・マック『宇宙の終わりに何が起こるのか 最新理論が予言する「5つの終末シナリオ」』ブルーバックス
この本はブルーバックスになるんですね。はじめからブルーバックスでよかったのでは。日本の学者さんにはない、饒舌な語りが特長。SFでおなじみのネタについても最新の知見で論じられています。
これらは専門書ではないですよね?
一般の方が興味を引く宇宙論の疑問、宇宙の終わり、ホワイトホール、マルチバース、真空崩壊、これらはSFなんです。専門書で解説されることはありません。だからこそ、少し尖ったこの2冊はありがたい。
最後に専門書を。
Barbara Ryden,宇宙論入門(原著第2版):宇宙の力学からインフレーション、構造形成まで,森北出版,2022
概要欄に「宇宙分野の優れたテキストに贈られる “Chambliss Astronomical Writing Award" を2009年に受賞しています。」とあるように、優れた宇宙論入門書として世界的に知られています。学部2年あたりから読める難易度です。工学・物理専門外の方でも通読可能。
この本、面白い。もちろん、宇宙の終わり、ホワイトホール、マルチバース、真空崩壊は載っていません。ボリュームもよく、入門以上本格手前な方にはうれしい難易度設定です。
先月、2022年10月に改訂版が出ました。福江純先生は、ブラックホールの現象論である降着円盤の研究で世界的に有名な方です。「宇宙のチリが重力によって集まり、恒星や惑星が生まれます」なんて言えなくなります。宇宙論を知りたい時、一度、この本を目を通すのをオススメします。
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