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【短編小説】祭りが終われば 〜I 始まりの春〜

夏祭り、夜空に咲く大きな花…
あの時、あの花火を見に行ってなかったら…
今の二人は何か違っていたのかなぁ…

       〜プロローグ〜

 新たなクラスになって一週間。高校二年生という大人から見たら、一番楽しい時期と言われる年頃、『そんな事はない』と思っていた。それでもそれなりに楽しんでいた。何かと一緒に行動する仲間も出来た。出身中学も趣味も違う、これといって共通点は見当たらなかったが、とりあえず5人でいる事が多かった。
 田所 悠真 テニス部(所謂、幽霊部員)
 吉村 重信 帰宅部(中学から帰宅部一筋)
 僕     バスケ部
 松本 由  女子バスケ部マネージャー
 花海 由紀 帰宅部?
頭のレベルは皆同じ位、特別良い訳でもなく、特別悪い訳でもない。何故一緒にいるようになったのか?最初は僕と由が同じバスケ部で話すようになり『互いに気が合った』という言葉が合ってるが、不思議な位恋愛感情はお互い感じる事はなかった。その後、由と元々仲の良かった由紀が話に混ざる事が多くなり、そこにいつの間にか他の二人が加わった形で今に至る。

        〜春 仲間〜

 春は高校生でも何かと忙しい。新入生が入ってきていろいろやる事が多くなるからだ。いや、忙しくしているのは、部活に入っている生徒ばかりだ。新入部員の獲得、強豪と言われる部、人気の高い部はそれ程苦労はしてないようだが、そうでもない部はそれこそ必至だ。なにしろこの学校では部員数に応じて部費が割り当てられる。当然大会等での成績も充分に加味される。
「あれっ?部活行くの 早くね?」
悠真が僕に声を掛けてきた。
「あー、部活見学期間中だからな」
「お前は今日も部活行かないの?」
「あたりめー」
「じゃ、ちゃんと辞めればいいのに」
「あ?もう辞めた事になってるんじゃね?」
「そっか〜、じゃあな」
「じゃあな」
歩きながら話していたが、玄関前で別れた。体育館へ行くと、いつもと違う雰囲気に圧倒された。
「部長、頑張ったじゃん!」
見学に集まった新入生の多さに驚き、思わず目の前にいた部長に声を掛けた。
「あー、ウチじゃないけどな…」
「あっ?隣か?」
「あーバレー部の見学だ!」
「だよな。ウチにこんなに見学来る奴いないか…
 今年も安定数ってところか?」
「あーそうだな」
部活自体は人気は高い方ではないが、バスケという競技は毎年一定数の人気はある為、対して対策をしなくても、人数は確保出来る。ただ、バスケ部は男子・女子共に三年生の部員が一人もいなかった。それなりに問題があったようだったが、三年生の全員自主退部という形で解決をみた。

 ふと女子部の方にも目を向けるとマネージャーの由の姿があった。
「おっ!珍しいなぁ…マネージャーが、練習早々       
 来てるなんて」
当たり前のようにいてもおかしくないと思われるが彼女の場合、練習が始まった後に体育館に姿を現し、練習が終わる前に気が付くといなくなっているのが、彼女だった。
「この時期くらいはちゃんとしないとね。」
「やる気あるじゃん」
「この後、楽になる為なら…」
「らしいな」
「あっ?ねー…」
改めたように由が声を掛けて来たが、練習開始の合図で掻き消され僕には聞こえなかった。練習が進んでいくと、新入生の姿も減りいつも通りの体育館の光景になっていた。と同時に由の姿も見えなくなっていた。

 いつものグループはいつも通り、仲の良さは続いていた。だが、僕はたまにグループから外れる事があった。別に嫌という訳ではないけど、『一人でいる時間』を作る事が必要だからだ。何故かと言われても理由は自分でもわからない。ただ周りも僕がいなくなった事を気にしている様子はなかった。それくらいが丁度良い。

 部活は新入生の入部騒ぎが落ち着いて、春の大会に向けて慌ただしくなる。学校全体で春の大会を盛り上げるのもこの学校らしさかもしれない。
「ゴールデンウィーク何処か行くの?」
5人で集まってる時に重信が、誰にという事でなく切り出した。
「特に何処か行く予定はないよ」
由紀が答える
「俺も予定はないよ」
悠真が続く
「私も暇かな?」
由が続けたところで僕が
「お前…大会は?…あっ、いつも通りなら連休前     には大会が終わるのか…」
「そういうこと…男子はまた微妙な感じ?」
「そうだな…そんな感じ、だから連休は一応予定を入れられない感じ」
一通り返事が終わったところで、その先の会話から僕は外れた。
「何か面白い事でもあるの?」
「いや、全員分じゃないけど、遊園地の割引券
 があるから、全員で割れば少しは安くなるし、
 どーかなーって思って…」
「行きたーい」
「良いねぇ」
「いつ行く?」
4人が盛り上がって来たところで、僕は練習の為に黙ってグループを離れた。その際背中に視線を感じていた。仲は良いが、自分の参加出来ないイベントの話に参加するのは気が引けた。

 ゴールデンウィーク直前、大会期間中の為、平日でも部によっては日程が組まれていて、学校がなんとなく静かだった。いつものように練習に向かっていると玄関付近で後ろから呼ばれた。振り返るまでもなく、由紀の声だとわかった。
「ねぇ…遊園地行かないの?」
「うん…大会かもしれないから…」
「終わるかもしれないんでしょ」
「4人で楽しんで来いって」
「…」
「ねぇ…」
由紀が急に言いづらそうに声を出した。
「なに?」
僕はなるべく優しいトーンに変えて聞いてみた。
「…」
下を向いて言葉を選んでいるような様子だった。
「んーん、何でもない…」
由紀は言い切る前に振り向いて歩き出していた。
僕はただ、その姿を見つめてから…練習に向かった。心の片隅に、由紀の違和感みたいなモノを気にしながら…。

 連休も終わり、春の大会も無事?終わって、いつもの落ち着きを取り戻した学校。大会の成績も特に目立った成績の部はなく、まさに『いつも通り』という言葉が当てはまった。そういえば、僕は4人が一緒に遊びに行ったのか、誰にも聞いていなかった。まぁ…あまり興味がなかった。っていう言葉が当たっているのかもしれない。

       〜春 ズレ…〜

 初夏というにはまだ早過ぎる気がするが、気温的にはそう言っても良いと思えた日が続き、梅雨の到来が待たれる程の天気だった。

 僕はひょんなことで、ある一人の友人といる事が増えた。それは女子バスケ部のキャプテンで皆から頼られる明るい性格の子だった。ひょんな事とは、この年頃によくある恋愛相談で最初は恋愛ではなくバスケについてだった。バスケ経験のある指導者がいないこの学校では、選手自らが選手を選び、戦術を組み立てなければならず、その相談だったが、話す内にいつの間にか彼女の恋愛についての相談になっていた。
 とはいえクラスが違うので休み時間には彼女がわざわざ僕のいるクラスまで来ていた。彼女が僕のクラスまでくると、二人で廊下で話す事が多かった。幾つかの視線を感じながらも、気にしなかったが、一部で付き合ってるんじゃないか?と噂になっているのも知っていた。
「あまり、ここへ来ると噂されるぞ!」
「ねー。あまり気にしてないけど…」
「気にしてないなら…いいけど」
「奴に見られるのは気になるだろ?」
「ん〜、逆に気にしてくれる方が嬉しいかな?」
「ポジティブだな」
「それだけが取り柄。私は良いけどアンタはいい
 の?」
「ん?気にする相手なんかいないから…」
「そーなんだー、いそうだけど…」
「いそうな奴程いないんじゃね?」
「それはあるかもね」
「それでさー、次の大会なんだけど…」
そんな話で短い休み時間は終わっていく。

 この学校は給食があった。教室で食べるのではなく、食堂へ移動して食べる方式で基本的に席は自由だ。基本的と言ったのは、どこでも良いと言いながら、なんとなく皆いつもと同じ席に座るからで、僕もこの時間だけは一年の時から一緒に食べているメンバーと食べている。

 給食を食べた後、図書室の前のソファに座っていると、女子バスケ部のキャプテンの彼女が寄って来て、隣に座りこんだ。
「それでさー…」
いつも通りの相談?雑談?が始まった。
 由が由紀と話している。僕から見えているという事は、向こうからも見えているだろう。校舎のつくりで教室棟から図書室前は見える。
「また…あの二人…最近仲が良いね」
教室の前から図書室の方を見ながら由紀が呟くように言った。
「ん?」
由が由紀の視線を追うように図書室の方を見て、何のことか気付いたようだった。
「あー、あの二人。そうだね、部活熱心の
 キャプテンだから彼も振り回されてるん
 じゃない?」
「うーん、頼りにされるのはわかるけど…」
少し間をおいて
「最近5人で話してないなぁ…って思って…」
「そうだっけ?」
「由ちゃんは彼と部活の時話し出来るから…」
「そっか、まー、なんにも変わってないよ彼」
「知ってるのかなぁ…」
「何が」
「彼、私達が付き合い始めたの…」
「あー…、知らないんじゃない?私…言ってない
 し…、敢えて言う必要もないと思うけど…
 付き合ってても、いつもの仲間は、いつもの
 仲間だよ」
由が続ける。
「それに彼あまり集団で、長くいるタイプじゃ
 ないし…」
「でも…」
由紀が何か言い掛けたところで、悠真と重信が二人の所へ合流し、話は終わった。
 僕はこの時、当然のように4人がそれぞれ付き合っている事を全く気づいていなかった。誰かから言ってくれてたら…何か変わっていたか…だからといって、不自然に4人と距離をとることはしないだろう。4人が嫌がるなら話は別だが…

       〜梅雨 バス〜

 六月に入ると学校は本当に平和だ。特にイベントもなく、まるで心地よい風が吹いているかのような感覚を抱く時間が流れる。

 部活が休みのこの日の放課後、学校に自販機と幾つかテーブルが並ぶ、校庭全体が見渡せる、いわば生徒の憩いの場と言える場所で一人なんとなく校庭を眺めてた。4人はもう帰ったものだと思ったから、敢えて一人この場所にいた。
ここは吹き抜けになっていて、上の階には職員室があったが、あまり人の気配は感じなかった。
「あっ!」
二人分の声が聞こえた気がした。
反射的に上を見た。ここにいると、よく上から声を掛けられる事が多い。上にいたのは女子バスケ部のキャプテンだった。
「よー、先生からの呼び出しか?」
「あんたじゃないもん… ねぇ、今降りるから
 待っててよ」
「あー」
僕は校庭の方に向き直した。その瞬間目の端に見覚えのある後ろ姿が見えた…?
「由紀…?…」
独り言だった。なんでこんな時間に…
「あー、委員会があったみたいよ。花海さん
 でしょ。何人か集められてたみたい」
「ふーん…よく知ってるな 一緒か?」
「違うけど、委員会の先生がなんか言ってた」
「ふーん」
他愛もない話の中、由紀の後ろ姿が気になって
しょうがなかった。
「で、お前は何してたの」
「部長って忙しいんだな…」
「呑気でいいわね、男子も他の部もちゃんと
 やってるよ」
「大変だな。良かった部長にならなくて…」
「なれなくて…の間違いでしょ」
「そーね。リーダーってタイプじゃないし」
「あっ!そうだ!」
「何?」
「次の大会、アンタを女子部のコーチってことで登録しておいたから…」
「はっ?コーチなんで?」
「次の大会、男女共同じ会場でやるんだって。だから問題ないでしょ」
「いやっ、そーいう事じゃ…まっ!いっか…」
「出た!得意の…まっ!いっか…」
「うるさい!他のメンバーは知ってるんだろう
 な?知らないといろいろ面倒だからな!」
「もちろん!この前のミーティングで全員の
 許可はもらったから」
「まぁ…しょうがないか…でも男子の試合が優先
 だからな!」
そう言っている時、目の端に由紀の姿が映った。もしかしたら、さっきのもう一人の声…それにここのところ、何か話してる途中で、邪魔が入ることが多い気がした。呼び止めようか?…その時
「あっ…花海さん。一人なんだ」
「ん?」
「知ってるでしょ?」
「なにを?」
「えっ!花海さんと田所くん、それと吉村くんと
 由が付き合ってるの」
「へー、知らなかった」
「えっ?嘘でしょ?仲が良いのに…」
「仲が良いのは関係ないんじゃない?」
「だって…由から聞いてないの?」
「聞いてない」
「えっ?うそっ?」
「仲が良いからこそ、言いづらいってこともあるかもね。変な気を遣われたくないとか…」
自分で言ってて、笑いそうになってるの抑えつつ少し呆れてきた。
「まぁ…何でもいいや!言いたくないのか?
 言いづらいのか?なんてどーでも…」

 一人帰りながら、由紀の事が気になった。もしかしたら付き合っている事を僕に言おうとしてたのかもしれない。彼女の性格からして…秘密にしたままには出来ないとは思うけど…なかなか言い出しづらいのもわかる。彼女は優しいから…
僕は明日からも知らない振りをしているのが良いのかな?と自分自身を納得させつつ、どこか面倒臭さを感じてきた。
「まぁ…いっか…」

 梅雨に入り、自転車通学からバスに変えた。これから暫くの間、通学風景が変わる。自宅の最寄りのバス停まで歩き、バスでおよそ40分バス停から学校までは徒歩5分といったところ。自転車でおよそ90分とはわけが違う。

 この朝バスに乗り込み全体を見回すと悠真の姿が見えた。少し混んでいる車内の奥へと身体を滑らせ、座っている悠真の前と辿り着いた。
「よっ!」
「よっ!珍しいなバスなんて」
悠真はバス通学だった。
「梅雨に入ったからな」
その後は、大した内容の話はしなかった。もちろん由紀の話も…僕は心の中で、もしかしたら口止めしているのはコイツらかも…と思いながらも余分な事は考えないようにしようと、自分に言い聞かせていた。
 そのまま悠真と教室まで行くと、三人が出迎えるように集まっていた。
「よっ!」
「おはよう」
「えっ?一緒に来たって事はバスで来たの?」
「あー、梅雨に入ったから」
「へー、雨の中根性で自転車じゃないの?」
「その根性いらないだろ」
「梅雨が明けるまでバス?」
「うーん、どうかな?夏は暑いしな」
「ねー、夏だよ!夏!」
「どーした?急に…」
「ねぇ、夏の大会って、いつ?」
「マネージャーなら把握しとけ」
「コーチの方が詳しいはずでしょ!」
「コーチ?コーチって何?」
「あの子に頼まれて女子部のコーチになったん
 でしょ」
「事後報告だけどな」
「で?いつ?」
「夏休み前には終わる予定だろ」
「うそ?コーチがついて?」
「そんなに甘い話じゃないけど…伸びても夏休み
 入ってすぐには…それ以上は無理だろうな」
「ふーん、男子は?」
「今回は同じようなもんかな?」
「えっ、じゃ7月下旬には空くの?」
「俺の?」
「うん!」
「わからないけど…そうなるかな?」
「えっ?男子は合宿するよねー」
「あーお盆明けかなー、今年の予定はまだ決めて
 ないらしいけど…なんだかんだいつも同じ感じ
 だから…」
「ふーん」
「ふーん…って何かあるの?」
「まだ何もない」
「なんだそれ?」
由紀がヤケに夏休みにこだわってるのが、気になった。それと同時に他の3人が引き気味だった事も、確かに付き合っているのだから、それぞれ遊びに行くなりすればいいと思うが…この時、僕は少し距離を取りたいと思った。

 そんな話の事を忘れかけたころ、練習の休憩時間に由が寄って来た。
「ねぇ」
「何」
「うちのキャプテンと付き合ってるの?」
思わず笑ってしまった。
「付き合ってなんかないよ」
「ほんと?」
「あー、なんなら本人に聞いてみろよ」
「そこまで言うなら良いけど」
「何?」
由はここからが本題だっていう表情をしながら、
「由紀ちゃんとなんかあった?」
「由紀と?」
「何もないよ」
「本当?」
「あー、本当だよ。皆んなといる時くらいじゃ
 ないか?最近話したの?」
「だよね〜」
「うん、どうした?」
「いや…いいんだけど…」
何か歯切れのの悪い感じの由
「あのさ…ちょっと前に…由紀が夏休みの事…
 話してたの覚えてる?」
「あー大会の予定がどーのこーの」
「うん、あの続きって由紀ちゃんから何か
 聞いた?」
「続き?続きがあったの?知らない」
「だよね…なら…いいんだ…うん」
そのまま由は体育館に戻っていった。

 その日の練習後、バスまでの時間、あの学校の憩いの場で一人座っていたら、突然隣に女子部のキャプテンが座ってきた。
「何してるん?一人で…友達いないの?」
「バス待ちだよ。友達…ちょっとめんどくさい
 時があるけど、一応いるみたい。お前とか?」
「って私かい!いや、面倒って…」
「いやっ…それはお前じゃない」
「あーそ。ねー、今日由と何喋ってたの?」
「あれっ?彼女でもないのにヤキモチ?」
「ばーか」
「対した事じゃないよ。ただ…お前と付き合っ
 てるのか?って聞かれただけ」
「へー、で、なんて答えたの?」
「あー。付き合ってるよ…って」
「ウソ?」
「…ウソだよ、ばーか」
「それだけ?」
「なんで?」
「うちのクラスの子達が噂してるの聞いたんだ」
「どんな?」
「ある仲良し5人組の話」
敢えて返事をしないでいると、彼女は少し声のトーンを落として話し始めた。
「あのね、その5人組ね、仲良しなんだけど…
 2人ずつ付き合ってるらしいの…でも…残った
 1人には、付き合ってる事内緒にして、一緒に
 いるんだって…」
彼女の優しさだ。敢えて他人事のように話をしてくれている。
「それって、やっぱり酷くないかなぁ…だって
 なんで隠さなきゃいけないの?付き合ったら、
 仲良しグループもそれまでってこと?」
少し熱が入ってきたが、何も言わずに聞いていた。
「それがね…」
少し間が空く。
「それが、1人の子に内緒にしてるのは…中の
 1人の女の子の願いなんだって…その子…
 その1人の話になると、急に態度かおかしく
 なるらしくて…」
僕には、何となく思い当たる節があったが、
でも…それとこれとは関係ない話だし、それに
今更だろ…いろんな想いが湧いてきたが、何も言わなかった。
「その1人とその女の子…何かあったのかなぁ…    
 もしあったのなら、そんなグループでいるって 
 のもわからないし、それに付き合ってる子が
 可哀想だよねー。付き合ってるの友達に隠さ
 れてるのって…普通じゃないよね。やっぱり
 その一人がどうにかしてあげないとじゃない
 かなぁ…っていう話」
僕は少し考えたフリをした後
「いいんじゃない?放っておけば…」
「冷たくない?」
「だって、その彼氏と付き合うのを決めたのは
 その子自身だろ?たとえば同時に告白されて、
 選んだのであれば、その1人に気を遣って…て 
 いう考え方もあるけど…
 それって…その1人にしたら、きっと地獄だ
 よねー。どうしてフラれた子とその彼氏と仲
 良くしてなきゃいけない?って感じだろ?」
「そーだけど…」
「きっと…いうタイミングを逃したんだろ?
 仲が良いとある事だろ?もう時間が経ってるん
 だから今更って感じじゃないか?
 きっとその1人にとっては…」
気がつくとバスの時間になっていた。
「時間だから…行くよ。じゃ」
「あっ!待って、今日私もバス」
「そういう事?」
バスに乗り込むと空いていた。二人で一番後ろの席に座り、くだらない話をしていた。だが暫くすると彼女の降りるバス停が近づいた。
「ねぇ、その1人の人…私…思うの…」
「なにを?」
「そんなに大人みたいになる事ないのにって…」
「?」
「きっと優しさから知らないふりが出来て、
 優しいから仲良くしてられるんだよねー」
何故か彼女が少し涙ぐんでるように見えた。
「優しさなんかじゃないよ。ただ面倒臭い
 のが嫌いなだけ、仲が良くてもそいつはきっと
 興味がないんだよ。だから気にしないで
 いられるんだよ。馬鹿みたいだけど…
 冷たいのかもな…」
バスが止まり、彼女が立ち上がり、歩き出した。
「やっぱり優しいんだよ。その1人」
とだけ言い残してバスを降りていった。
「ん?考えかたによっては、俺は嫌われてるの
 か?ただの邪魔者ってことになるか?」
一人になって、独り言が思わず口から漏れた。
少し注意しながら、今度は心の中で
「まっ…いっか〜」

     〜夏 暑さの始まり〜

 長かった期末テストが終わった。
「さぁ!夏休みだ!」
重信が独り言のようだが、叫んだ。
「さぁ!大会だ!」
由がボソッと呟いた。
「真面目なマネージャーだな」
「コーチがいつも傍にいるから、真面目ぶって
 ないとね。怒られちゃうから」
「そんなんじゃ怒らねーよ!じゃ練習だ」
部活の準備をしていると、廊下から僕を誰かが呼んでいた。声のする方を見ると女子部のキャプテンがそこにいた。近寄ると、少し焦った口調で、
「一年生のあの子が怪我したんだって」
「なに!」
一年生のその子とは、バスケのセンスがあり、既にレギュラーポジションを獲得していた子だった
「怪我って」
「捻挫したみたい。右足首」
「マジか?!」
「うん、大会は無理だって…」
「そっか…しょうがないな…メンバー組み直す
 しかないな…」
「うん」
何を話しているかは、他の人間には聞こえていないはずだが、僕は背中に視線を感じていた。そっと振り返ると、4人が集まっていたが、誰が見ていたのかはわからなかった。

 数日後、練習は大会に向けての準備に入った。僕は男子の練習をしながら、女子部の練習を見ることに追われ、頭の中が軽くパニックになっていた。その日の休憩中、突然由紀が僕の元へ来た。
「休憩?」
「うん」
「ちょっといい?」
二人で体育館から出て話すことに。由は由紀が来たことすら気付いてないようだった。
「ねぇ」
「ん?」
「もう皆んなには話して決まってるんだけど…」
由紀は少し言いづらそうに話し始めた。
「夏休み皆んなで遊び行かない?」
「皆んな?」
「5人で…お父さんの会社の保養所が軽井沢に
 あって、空いてるから使っていいって…」
「ふーん、5人で行く事に皆んなは?」
「ん?なんで…5人の方が楽しいじゃん」
心の中で4人で行けばいいのに…って呟いた。
「それに、お父さんも、貴方が行くと思ってる
 の、一緒なら安心だからって…」
以前彼女のお父さんと、話した事があった。不思議なくらい気に入られたようだったけど、どうやら、僕がいる事が条件のようだ。
「日程もほらこの日なら、大会もないでしょ」
彼女は説得するように僕を見ていた。
「考えとくよ。じゃ」
僕は休憩が終わるのを察知して体育館に戻った。由紀がどんな顔をしていたのかも確認もしないで「考えとくよ」はよくある「行かない」の意思表示か?と自分の中で思いながら、由紀の性格からして、表面通りに受け取ったろう。と勝手に納得していた。

 大会が始まり、ただでさえ暑い体育館は、集まった人で更に温度を上げていた。選手として、コーチとして、僕一人スケジュールが忙しく、半ば嫌気が刺していた。
「バカじゃないのか…このクソ暑いのに…もうやらないからな!」
と口にしたものの、傍には誰もいないので独り言になっていた。ふと見ると目の前を由が通り過ぎていく。
「由」
驚いて振り向いた。
「あっ!」
「どこ行くん?」
「お昼買いに…」
「もうそんな時間か…俺も行く」
「そっ?じゃあ行こ」
会場のそばにあるコンビニへ二人で向かった。
「ねぇ…」
珍しく由が人の様子を伺うように話し掛けてきた。
「何?」
「あの…由紀ちゃんのお父さんの会社の保養所
 の話知ってる?」
「あー、この前由紀が俺のところへ来て話してた
 けど…」
「返事した?」
「知ってるんだろ…」
僕は敢えて言葉を濁した。由紀が3人になんて話したかを知らない以上、迂闊に答えない方が良いような気がした。
「由紀ちゃんは、アンタが行くことがお父さんの  
 条件だって言ってるけど…」
由は間を開けた。僕の返事を待ってる様子ではなかったので、僕はただ待った。
「…ねぇ…私達4人がそれぞれ付き合ってるのは…知ってるんだよね…」
僕は何も答えなかった。
「由紀ちゃんが…これまでの関係を壊したくない 
 から…アンタには言わないでおこう。って言う
 から…言わなかったけど…」
由は居心地の悪そうな顔をしながら
「5人で行った事にすればいいじゃん。…由紀
 ちゃんに言ったけど…バレた時が怖い!って、
 だから…由紀ちゃんはアンタがちゃんと来る
 って思ってるよ」
「どうして欲しい?」
「えっ?」
予想外の言葉だったのか、由は驚いた。
「一緒に行った方がいいのか?それとも行くって
 事にしておいて、ドタキャンした方がいいか?
 第一、野郎達はなんか言ってるのか?」
ここまで、由紀と由の話は出ているが、男二人はどう思っているのか?全く出ていなかった。
「話してないの?」
由は更に驚いて
「あー、くだらない話しか最近はしてないなぁ」
「全く呑気なのか?話しづらいのか?…」
少し呆れ気味の由が続けた。
「私たちの前では、結局アンタに任せるみたいな 
 事言ってたけど、本音はわからない。
 特に悠真くんは複雑みたい…」
「ふーん」
「ねぇ、聞いていい?」
突然改まった様子で
「由紀ちゃんと前に何かあった?」
「何かって?」
「だって、由紀ちゃんアンタの事になると、
 少し変わるんだもん…今回の件もだけど…
 付き合いだしたころかなぁ…特に変だなぁ
 って思ったの…」
「別に何もないよ」
「ホントに?…」
「ないよ!」
「ならいいけど…軽井沢行きの件、由紀ちゃんが
 アンタにまた確認するって言ってたから、
 ちゃんと答えてあげてね」
「なんて答えればいい?」
「来ればいいじゃない…それが自然なのかも…」
「ふーん」
コンビニから戻り、皆んなの元に着いたところでこの話は終わった。

 大会は順調に進んだ。男子だけだが…女子は直前にレギュラーメンバーのケガが大きく響き、呆気なく終わった。だから今日は『コーチ』という肩書がとれ、自分の試合に集中出来る。
朝から女子部のキャプテンが試合を観に来ていた。会場は特に入場料などは摂られないためか、
どの学校も応援の保護者や友達が多く来ていた。
「勝てるの?」
僕の傍で彼女がストレートに聞いてきた。
あまりにストレートと過ぎて、思わず笑ってしまった為、僕はそのままその質問を、男子部のキャプテンにしてみた。
「当たり前だろ」
「おっ!強気だね」
「試合前くらいな!」
僕は彼女の顔を見ながら
「だってさ…」
「頼もしいじゃん」
「そうか…?」
試合前のアップを始めようと、練習コートへ向かっていると、会場の入り口付近で4人の姿を見かけた。ビックリした、今まで一度も来たことはないのに…僕の姿に気付いてない様子の4人を横目に見ながら、僕は声もかけなかった。
僕は何か嫌な予感を胸の中に抱えながらアップに向かった。

to be continued…

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