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メディア・リテラシーとしてのABD 〜塩中ABDレポートVol.1

このたびご縁をいただいて、塩尻市立塩尻中学校で中学生20名とABDをすることになりました。
(ABDとは?という方はこちらを見てね)

塩尻中学校、略して塩中では、8年前から総合学習の講師を外部に依頼し「地域ふれあい学習」として実施しているようです。とても長い歴史ですね。
今回はこの「地域ふれあい学習」の講師として、約半年間、全10回にわたる長期の授業を行うことになりました。

大人とのABD経験はあっても、子ども向けに実施するのは私も初めて。
ただ、お話をいただいた時「中学生の理解力や思考力があれば十分楽しめそう!」と直感的に思ったのもあり、喜んでお引き受けしました。

「推し、燃ゆショック」とABD

この授業をどういうふうにやっていこうか考える一方、最近読んで頭から離れなかったのが『推し、燃ゆ』という本でした。

ざっくりした概要は「ネットの情報とSNSによって、主人公が推しの一挙手一投足に振り回される話」といえるでしょうか。
主人公は、「推しを推す」ことを自分のアイデンティティにしていますが、推しがネットで炎上したことをきっかけに、主人公は大きく振り回されることになります。自分が生きる価値を、自分以外の何かに依存している人が、それを失う時どうなるのか。その一つの例を『推し、燃ゆ』は語っています。

この話を読んで強烈に思ったのは、アイデンティティとか自分の生きる意味も含めて、「自分の人生のあり方」はネットで検索できないということでした。

自分の考えは、当然ながら自分で考えるしかなく、他人が教えられるものではありません。ましてや生き方に関して「こうあるべき」とか「正解」とかは、個々人によって異なるので、自分で試すまで良いかどうかわからないはず。
しかし、インターネットでググれば何かしら出る現代、私も含めやってもいないのに検索してわかった気になってしまうことも、少なくありません。

ネットの情報から選び続けるよりも、一度自分の方向性を考えて、その上で情報を選べるようになるためのポイントは、おそらくこんな感じです。

・「自分はどう考えたか」に目を向けること
・正解がないという前提に立つこと
・誰かの意見を否定しない、判断を保留すること

これらを、中学校で生徒たちと共有しつつ、自分も学べたら。そうした想いを込めて、授業には「ググっても出ない〇〇を見つけにいく」というサブタイトルをつけました。
今回は、ABDという読書形式を通して、1冊の本の知識を生徒みんなで共有し、自分の考えを示し、他人との捉え方の違いを認識することを目的にしています。ちょっと難しい言葉では「メディア・リテラシー」とか「考える力」といったあたりがテーマになると思います。
ただ、私が選んだ本ばっかり読んでいるのもつまらないので、10回やる中でゆくゆくは子どもたち自身が選んだ本でABDしたいと思っています。

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(↑初回の説明用に用意したフリップ。スケッチブックにコピー用紙を貼り付けて、紙芝居みたいにしています。)

やってみて、子どもたちはどうだったか?

そして、生徒たちとの初対面の日を迎えました。
蓋を開けてみると、「ABD」という謎の授業にもかかわらず、2年生と3年生から20名が集まってくれました。

事前の打ち合わせで担当の先生から聞いたところによると、塩中は好きな本を持ち寄って定期的に読む「朝読書」という活動をしています。それゆえに、本好きの生徒が多いと言われていましたが、実際のところどうなのか?と思い、生徒たちに挙手のアンケートを取ってみました。

質問は、どれくらい本を読むか?でした。
・パーの人→→→結構読む。
・チョキの人→→そこそこ読む。
・グーの人→→→正直読書はちょっと苦手。
一斉に手を挙げてもらいます。

すると、パーとチョキが半々、グーがちょこっと。
要はほどんどがそれなりの本好きなのでした。想定以上にレベルが高いクラスです。(つまりは、みんなのやる気が出ないとしたら、原因は私の腕一つというわけ!緊張しますね。)

次の授業からは、本格的にABDが始まりました。
私が初回に選んだのは、猪谷千佳著『その情報はどこから?』。

ちくまプリマー新書はもともと中高生向けに書かれており、読みやすさ的には国語の教科書と同じくらいのイメージです。
初回は少なめに、一人10ページ未満の内容を読みます。その内容を、B5用紙最大2枚にまとめてもらい、発表。毎回、大人でも手こずるのが要約と発表ですが、なんと子どもたち、全員できちゃいました

要約もポイントが書き写されているし、発表も、若干の声の小ささはあるけれども、慣れの問題でしょう。さすがは、本好きクラスです。
問題は、グループに分かれたダイアローグ。4グループに対して1人のファシリテーターなので、目が足りず改善の余地がまだまだあるけれども(主に私が)、初回はとりあえず、付箋を使ってコミュニケーションを行うことができました。
そして、みんな真面目。授業中に喋ったり余計な気を散らしたりすることなく、ちゃんと話を聞くし、作業も行ってくれます。

バタバタな中、初回のABDを終えました。

新しい本の読み方で、まだ見ぬ世界に出会う

正直、子どもたちにとって、ABDはめちゃめちゃ大変な授業だと思います。
他の総合学習の授業は見ていないので厳密に比較はできないけれど、花道やダンス、短歌といった文化的な授業に比べ、同じ時間の中で明らかにやることは多いでしょう。なにしろ頭を使いますから、大人でも会の最中につまむお菓子は必須にしています。

そんな忙しい授業を(お菓子もない状態で!)やり遂げられる中学生のポテンシャルは本当に驚かされます。何よりびっくりしたのは、終了後のアンケートに「楽しかった」という感想があったこと。大変さの中に、もう楽しみを見つけてくれていることが、単純にすごく嬉しかったです。

本の楽しみは、一人で静かに小説を読むだけではありません。
ABDのように分担して読む読み方もあれば、読みたいところだけ読む「ななめ読み」、さらには背表紙だけ眺める「積読」さえも(笑)本を楽しむことといえます。

私の役割は、まだ子どもたちがやったことのない楽しみ方で、読んだことのない本との出会いをつなぐこと。それは、自分がまだ知らない、でも魅力的な世界と出会う方法の一つであるはずです。

今後も、みんなが楽しめる授業になるように、2回目も頑張ります。

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