見出し画像

本屋、初めて手売りで古本を売る。

本屋になっておよそ半年が経ちました。
本を売ることには慣れてきたつもりですが、先日、また新しい体験がありました。
「古本」を「手売り」する体験です。

5月5日、友人に誘われ、近所のカフェ&古着のお店mingleさんの1日限りのフリーマーケット「春市」に、古本で出店させていただきました。
こちらは「自分が大事にしていたものを誰かに譲る」というコンセプトで、店主の方の私物だった古着や雑貨をはじめ、手作り品や焼き菓子などが並ぶ、小さくて素敵なフリマです。

準備中のようす。

私が持っていったのは古本一箱、30冊ほど。
規模としては、いわゆる一箱古本市くらいでしょうか。

あまり気負いせず軽い気持ちで参加して、当日も他の方の品物を見たり、お菓子をいただいたりして楽しく過ごしました。

でもあとから振り返ると、普段の「本を売る」とは全然違った体験だったのでは?ということに気づき、覚えているうちに書こうと思ったのです。

ということで今回のテーマは、新刊書店と手売りの古本市の違いについてです。

新刊書店と一箱古本市を比べてみた

今回出店したのは本に限らないフリーマーケットですが、自分が持っている古本を手売りする体験を、ここでは仮に「一箱古本市」と表現します。
(古本を店舗で売ることや、ネットのフリマで売ることと区別しています)

その上で、同じ「本を売る場所」として新刊書店と違うなと思ったのは、下記の3点です。

  • 売れる本か、好きな本か(選書の違い)

  • お客さんはよく読む人か、そうでもない人か(お客さんの違い)

  • 待って売るか、話して売るか(売り方の違い)

これを、出店の準備の流れに沿ってまとめてみます。

選書の違い

出店が決まってまずやったことは、どの本を売るか考えることでした。
手元に残しておきたい本を除き、整理したい本を棚から出す。そしてその中でも今回は、どういう本を並べようか?と本棚の前で小一時間悩みました。

書店で私はPCや学習参考書の棚を担当していますが、その中で売る本は基本的に「売れるかどうか」が基準になります。

過去のお店での売上や、全国平均を参照して選日、必ずしも私が読んだことない本も含みます。特に、受験や資格などの参考書系はそうなる傾向にあります。

しかし、今回は「大事にしていたものを譲る」というコンセプトもあって、選ばれた本は全て私が一度読んだ本でした。
しかも自分が読みたくて選んだ本しかありません

なので、どういうところが魅力なのかも知っているし、一度読んでいるから中身も十分知っています。
ただしそれが相手の好みに合うか(=売れるか)は、お客様次第ということになります。

お客さんの違い

私が好きな本の中から持っていく本を厳選しようとした時、次に考えたのは、どのような人たちが来るのか、ということでした。

普段の職場である新刊書店にやってくるお客さんは、当然ながら「本を読みたい、買いたい」という人です。そうした人はもともと本が好きで、普段から活字に慣れています。

しかし、今回のお客さんは普段mingleを利用する方なので、普段から本を読んでいるかどうかはわかりません。
そこで、普段読む機会がない人も興味を持ちそうな本を中心に選ぶことにしました。

基準としては、文章が堅苦しくなく読みやすいもの、普段の生活に関係のあるもの、リラックスして読めそうなものを中心に選びました。
具体的には、たくさんあるビジネス書の中から子育てや教育、話し方の本をチョイス。それ以外にも小説やファッション関係の本、写真が素敵な雑誌や、映画のパンフレットなどを出品しました。

出店した本の一部。(店内の写真を撮り忘れました)

売り方の違い

そして当日。
冒頭に書いたように、私は割とのほほんと参加していて、「どのようにお客さんと接するか」までは考えていませんでした。

しかし今思うと、振る舞いに関してはちょっともったいないことをしたな、と思っています。

それは、新刊書店と一箱古本市での最も大きな違いは、お客さんとの接し方にあるとわかったからです。

マーケットが始まってすぐは比較的混み合っていたので、私は初め、密にならないようお店の外にいました。しかし店内が落ちついてからも、本を眺めている人に特に本の説明はせず、様子を見ているだけでした。

というのもその時は、「お客さんは本を見ているのをあまり邪魔されたくないだろうな」と思っていたからです。

書店は基本的にセルフサービスですし、普段から私は本屋を「自分と向き合いながらゆっくり本を選ぶ場所」だと思っているので、店員はひたすら「声かけられ待ち」の姿勢です。
その日も本の近くに自分がいないことに違和感を持ちませんでした。

でも、そうして本を眺めていた人たちは、本を元あった場所に戻して、お目当ての服や雑貨を購入して帰られました。
始まってから二時間ほど、本は一冊も売れませんでした。

そのあと、書店でも馴染みのあるお客様がいらっしゃり、知り合いということもあって、私は本についてたくさん解説しました。
そしてその方は、合計4冊ほど購入されました。

単純に考えれば、その方は本好きな方だし、知り合いだからということで、たくさん購入していただいただけかもしれません。
しかしそうしたこと以上に、私はその日初めて(!)お客さんと話して、妙に納得してしまったんです。

最初から、もっと話してよかったんだなぁ」と。

店主の方のステキなブース。

自分の店ならともかく、書店で働く以上、普通は「自分が売りたい本だけ売る」のはできないことです。

それを、せっかく好きな本だけ並べられて、全部読んで説明もできるのに、紹介もせずに並べておくだけなのは、単純にすごくもったいないことだなと気づいたのです。

対面で販売する場所では、内容や良さを言葉にすると、お客様が興味を持ってくれる。
いろんな反応が返ってきて、そのうちの一つが、購入のきっかけになったりする。

そうしたことは、販売業をされる方にとってはごく当たり前かもしれません。
でも、書店で黙々と本を並べるのに夢中になっていた私は、気づかなかったんです。
改めてみると、すごく単純なことなのに。

ちなみに、他の知り合いの方にも「子どもが読書の時間に読める本」というリクエストを受けていくつかご紹介したところ、全部購入いただくということもありました。

本が売れるかどうかは、能力の問題ではなくて、思い込みとか、気づきの問題なのでした。

好きなものを売れば、楽しい。

今回、手売りの体験をして改めて思ったのは、自分が好きなものを売るのは、強いということでした。

絶対に揺るぎない好きなものは、何をしなくても言葉に力が入るし、対面となればなおのこと、言葉以外の態度からもお客さんにそれが伝わります。

自分が何か買う側として考えてみても、売っているものが大好きな店主さんから買うのと、好きなのかよくわからない人から買うのでは、全然違います。
好きな人は知識が深いだけでなく、実際に使った情報も添えられたりして、信頼して買うことができます。

そして何より、手売りで売るのは楽しいし、売れた時は、やっぱり嬉しいということ。

そうした感情をじっくり噛み締められたのは、今回の出店が終わったあとでした。なんと鈍い!

今は「また古本やる機会ないかなぁ」と思っているところです。
また本が溜まったら、どこかの屋根の下でお店を広げたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?