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庭のように本棚を手入れする(『本の長屋』退店のお知らせ)

高円寺『本の長屋』にて、「桶屋書店」名義で箱店主をさせていただいていましたが、8月いっぱいで終了することにしました。
遅くとも9月10日ごろには、本を回収する予定です。

6月に正式オープンしてから3ヶ月という短い期間で学べたことは決して多くはありませんが、予想通り難しかったところや、やってみてわかったことなど、学びがありました。

共有書店という仕組みは今後も広がりそうなので、個人的な覚書をこちらにまとめておこうと思います。

なんで退店するの?

予想はしていたものの、やはり遠方からの棚の管理が難しかったというのがいちばんの理由です。

本の長屋は東京・高円寺にあり、私が住んでいるのは長野県です。
遠距離であることで、高円寺が持つ地理的な魅力、時間のゆったりさ、書店としての佇まいなど、その場の魅力の半分も受け取れないというのがもどかしく思いました。近くに住んでいれば、店番でぼーっとしたり喋ったりすることで、もっと他の箱店主さんや、お客様と関われただろうなという後悔は大いにあります。

しかしながら実際は、思った以上に東京へ訪問できませんでした。
個人的に忙しくなったのもありますが、売上と費用のバランスを考えると、訪問費用どころか出店料すら回収が難しいというのが現状でした。ある程度は予想していたものの、継続をどうするか考えた時点で、流石に今後も同様に費用がかかるのは大きすぎるな、という判断になりました。

また、頻繁に訪問できない分、本の長屋のスタッフの方に頼らざるを得ない形になってしまうのも心苦しく、退店を決断しました。

やってみてわかったこと

  1. 物理的な「本棚」への手入れの大切さ
     本は「モノ」であり、本棚には物体としての存在があります。手入れをしなければ埃もかぶるし、色褪せもする。せっかく意図を持って棚に並べた本も、数日手を加えなければ並びも乱れるし、同じ物を眺め続ければ飽きる。しかし、お客さんの手によって乱れることはむしろ推奨すべきことなので、自分の手の届かないところに棚を置く場合は、その後のお手入れ方法もちゃんと考えないといけないと実感しました。
     本棚は庭のようだと思います。手入れされた庭は確かに心を癒すけれど、放置すれば雑草も生えるし荒れる。庭は自分の手に届く範囲に置かないといけないのだなと思いました。

  2. スリップの大切さ
     お店にはいろんな特色を持つ箱店主の本が並んでいますが、スリップは共通して「本の長屋」のものを利用していました。この猫型スリップがとても可愛い。それスリップがあるだけで、本屋としての印象と、お店の統一感がすごく増します。スリップは販売の際に回収してしまうので、これまでさほど重視してこなかったのですが、これを機に、自分でもスリップをデザインしようと計画中です。

  3. やりたいこと伝わってるのか問題
     今回の本棚設置にあたっては、コンセプトを設けて設置していました。でも、このコンセプト、結局どうだっだか?といえば、あんまりピンと来ていません。現時点で、反省はおろか、結局どう受け取られたんだろう・・・という印象の参考になるものがないのです。リアクションを受け取るには、お店番がいちばんだったろうなと思います。この意味でも、自分が直接その場にいるということは、自己表現として本棚を作る場合には特に意味が大きいです。

共有書店は、自分で書店を始めるよりはるかに気軽に始められるし、可能性もたくさんあります。しかしながら、例え「一箱分」の面積であっても、継続にはお金も時間もかかります。その際には、物理的な近さは圧倒的メリットです。

実は共有書店の後、塩尻でもお声がけいただいて、地元のカフェ『MINGLE』にて小さく本棚を置かせていただいています。こちらではまた異なるコンセプトで、喫茶やお買い物のついでにゆっくり読みたい本や写真集を集めています。
距離が近いこともあって、お店の方に反応を聞いたり、棚の動き具合を見たりできるので、今後もこまめに変更を加えていこうと思います。

終わりに

「常設の本棚を置く」という経験は初めてだったので、その機会をいただけてよかったな、というのが最初の感想です。
今回参加のきっかけはクラウドファンディングで、その理念に賛同しての参加でした。箱店主はお店への関わりしろが大きく、店番やイベント、仕組みづくりなどもまだまだ行っている最中です。パンフレットには「言葉の複合施設」とあり、イベントや箱店主主催の企画などもゆるやかに始動しているようで、コミュニティの基盤としての「本の長屋」は、むしろ今後の方が面白そうな展開になりそうです。

今回は一度退店するのですが、今後は利用者として足を運びたい書店の一つになりました。

本の長屋は現在、新しい箱店主の募集も行っています。もしお近くで、活動にご興味がある方がいればぜひ。


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