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(職場と学校のリーダーシップ開発:その4) TAのリーダーシップ

前回は企業でのリーダーシップ研修について書くつもりだったのが,大学でのアクティブアクティブラーニングの話が長引いてしまったのでTAの役割とリーダーシップの関係についてここで書いておこう.

TA (teaching assistant)は,各大学の制度によってSA(student assistant)と呼ばれたりLA(learning assistant)と呼ばれたり,さらには同じ大学内で複数の呼称があって役割(授業内か自習室か等)や身分(院生か学部学生か等)が異なったりしているが,ここでは教員に同行して教室に入り授業進行を支援(あるいは司会のように主導)する学生のことを言うことにしよう.こうした「学生が学生の学びを支援する」制度はいまではごく普通になったが,小生が2005年に立教大学でそうした役目の学生を配置しようとした頃には,TAは大教室での授業にだけ配置されて,出席票を配って回収したり,パソコンのセットアップを手伝ったりといった軽作業が想定される役割で,それ以外にはせいぜいのところ私語している学生に注意したりというあたりが授業進行への最大限の関与であった.しかし私語を注意したりすると「こいつ教員の手先かよ」などと反発されることもあるのでアルバイトとしては人気のある仕事とは言えなかった.そんな時代に「25名単位の15個のクラスに各1名,つまり学生約380人に対して計15人のTAを配置してくれと依頼したのだが,このリクエストを通すために学部執行部の皆さんは骨を折ってくださった.その後何年かかかってTAはリーダーシップ教育に不可欠で,なおかつ人気のある仕事にまでなった(このへんの経緯については拙著『大学教育アントレプレナーシップ』に書いた).また,リーダーシップを学習成果目標としない授業にあっても,アクティブラーニング促進のためには有効な方法であるという報告があちこちの大学からなされている.

いまでは普通になった授業内TAであるが,TAがなぜ・どうやってアクティブ・ラーニング促進に貢献できるのだろうか.前回からとりあげているブレイクアウトでのグループディスカッションであれば,各グループを回って議論が活性化するような質問を投げかけたり,黙っている様子の学生に声をかける等の支援がまず考えられる(リーダーシップの第三要素である相互支援).この役割は教員よりも上手にこなすTAも多い.そうした介入よりも,メインルームつまりクラス全体の場での振る舞いのほうが難易度が高いと感じるTAは少なくない.単に教員の言いなりの助手であってもいけないし,受講生べったりのガーディアンでもよくない.クラス全体の学びの最大化というゴールをまず授業の前から教員と共有し,そのために率先して教員と受講生の双方を支援するというリーダーシップが求められる.共通のゴールの価値を信じ,そのために必要なことを受講生はもちろん教員に対しても自ら提案をおこなう,つまり目的設定と共有,率先垂範,相互支援というリーダーシップ最小三要素を体現する存在であることが教育効果のためには最も良いだろう.

こうしたTAの役割はリーダーシップ以外の授業でも有効なのだが,リーダーシップ以外の専門の教科内容を理解したうえでそうした役割を十分に果たせるTAを養成するのはなかなかに大変なことである.それならばTA養成のための授業を開設して,各専門分野のTA候補生にその授業を取ってもらうようにするか,学部時代にリーダーシップの授業を熱心に履修した大学院生をTAに採用する等の方法は効き目がありそうだ.



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