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「学習する組織」への一進一退を可視化する


図1 状態

心理的安全性(衝突安全性)を議論するときに,図1のように,エドモンドソン『おそれのない組織』をもとにして,成果指向を縦軸に,心理的安全性(衝突安全性)を横軸にとり,4つのゾーンに分けて,ある組織(職場でも学校でも)がどこに入るかを診断してみるということが多い.(なお,ここでいう心理的安全性は単に「安心だ」という意味ではなくて,「衝突しても失敗しても立場が悪くならない」という意味である.これについては既に書いた.)

心理的安全性も成果指向も高い状態は「学習する(失敗しても学習できればいい)組織」であると呼ばれて,理想的な状態であるとみなされる.石井遼介氏は,その他の3つのゾーンに,キツい職場・サムい職場・ユルい(ヌルい)職場,という絶妙な名称をつけた.わが社はユルいな,とか,隣の課はキツそうだな,といった具合である.

同様のことは学生のクラスやグループについてもあてはまる.大学でもアクティブ・ラーニングの形をとる授業ではグループワークが多い.偶然に分けられたグループで一緒に作業することになって,「とにかく単位だけはもらえるように最低限のことはクリアしよう」となれば「サムい」グループになる.厳しくて優秀な上級生が一人いて,グループとしての成果も高いものをめざすが,メンバーがその人の号令のままに作業するだけになっていれば「キツい」ブループである.

われらがリーダーシップ開発の授業内のグループワークでは,右上の学習する組織を作るようなリーダーシップ,つまり高い成果目標で合意でき,なおかつ全員がお互いに反論しあっても,それは高い成果目標のためであってマウントをとるためではないことが分かり合っている状態(右上)を作るようなリーダーシップの醸成自体を授業の成果目標にしているので,縦軸横軸どちらについても高くなる行動をとるように教材を作ったり,教員やTAが介入したりして高いほうに誘導していく.アクティブ・ラーニングであればよいと考える授業に比べて,リーダーシップ開発の練習であるという学習目標がはっきりしているので,右上を目指すようになるグループがずっと多いと思われる.

そのようなリーダーシップのクラスで,クラスやグループの状態を振り返ることは毎週行われるが,その長期版で,数週間ごとに行われるものがある.一昔前は各自自分のグループやクラスのモチベーションの変化を表すモチベーション曲線を描いて見せ合い,どの時点で何が起きていたかを振り返るという方法が用いられていた.縦軸にモチベーション,横軸に時間をとる,ごくシンプルなグラフである(図2).描きやすいが,描いている本人も,モチベーションが何故上下したのか,何故成果を出そうという気になったのか,人間関係だったのか,分からずに描いたり,あとで見て思い出せなかったいするだろう.

図2 モチベーション曲線

このモチベーション曲線に代わって,図1を応用して,こうした振り返りを2次元(時間軸を入れると3次元)で行うことができるだろう.図1の2次元平面上で,右上に「移動する」ことは,グループやクラスが,より多く学習する方向に変化した(心理的安全性も成果指向も上がった)ことを意味する.逆にどちらも下がった期間があれば,グループやクラスが「サム」くなったのである.心理的安全性は上がったがそれが成果のために活用されなくなると「ユル」くなる(図3).

図3 状態の変化を2次元で表す

7週間の1学期(クオータ)の中間振り返りにこれを使うとしよう.そのとき,第1日Day1からDay4の,グループやクラスの位置をプロットして,その位置や変化を見るのである(図4のAからE).(モチベーション曲線と違って,横軸は時間ではないことに注意してほしい).AはDay1から4まで週をおうごとに学習する組織への道を順調に歩んでいる.しかしこのパターンは滅多にない.Bのように,アイスブレーキングが効いて右のほうへ行ったあと,成果指向も上がっていったり,Cのようにサムイ組織への一本道だったり,Dのように一箇所にとどまったままのこともある.Eのような右往左往もありうるだろう.

図4 (状態の変化)

これなら図2のモチベーション曲線よりも,より深く振り返りながら描くことになるし,振り返りのあとにどうしようかと仲間と話し合うときにも行動プランに落としやすいのではないか.

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