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夕暮れの記憶

一日一日、陽が落ちるのが遅くなっている。

昼間上衣を着ていると汗ばむような陽気であるが、陽が落ちてしまうと肌寒い。

こんな時期の夕暮れの街を歩くのが好きである。

何かを思い出しそうだけどなにも出て来はしない。

きっといろんな事があったに違いないのに。

記憶は私の心を刺すばかりである。

だから忘れているだけなのだろう。

意識して忘れてしまった記憶達をどこにしまっているのだろうかと思う。

一つや二つじゃないはずだ。

子どもの頃から溜まったそれらはきっとこの夕暮れの街に溢れ出し落として来ているに違いない。

たくさんの人に蹴飛ばされ、踏まれて薄汚れてしまった私の記憶はずっとこの街のどこかのアスファルトに貼り付いているに違いない。

それが夕暮れになると「うぉ~ん、うぉ~ん、」と泣き出すのだ。

陽が完全に落ちてしまうまでのほんの短い間だけ泣くことを許される。

きっと私が泣くことの出来なかった記憶はこの時間だけ張り裂けることを許されるのだ。

この泣き声を聞きながら私は私を普通の人間だと認識しながら歩くのだ。

夕暮れの街を歩くのが好きである。

何かを思い出しそうだけどなにも出て来はしない。

落としてきてしまった記憶達はもう私の記憶じゃない。

アスファルトから剥がれることの出来なくなったその記憶はいつまでもいつまでも忘れることが出来なく泣き続けるのである。

「うぉ~ん、うぉ~ん、」と泣き続けるのである。

私はそんな泣き声を聞きながら夕闇の迫る街中を歩くのが好きである。



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