ベーグルのある午後
ベーグルが好きである。
社会人になりゼネコンの大阪支店で営業マンとして働き出した。
世の中が成熟し、日本人がモノに満たされ、精神的にも満たされていると勘違いしている時期だった。
そんな時代とともに建設業界の営業スタイルが変わる過渡期だったと思う。
公共のインフラは整備が整いつつあり、官庁発注の仕事を業界で仲良く分け合って十分建設業各社の腹が満たされる時代が終わりつつあったのだと思う。
民間からの工事受注を拡大しなければならない時代に向かっていたんだと思う。
ゼネコン各社はそれまで少なかった若年層の営業マンを育て始めた。
私もそのうちの一人であった。
個性的な年齢の離れた先輩方の中で揉まれ育てられた。
ストレスは少なくはなかった。
よく一人、昼間の大阪京橋の街を歩き回った。
大阪支店は京橋に自社ビルを構えていたのである。
歩きながらの考えごとを子どもの頃から常としている。
歩きながらいろんなものを目に入れ、考えを切り替えながら発想のチャンネルを変えるような感じで、初めての事を自分なりの推理をしたり、その日のお客さまとの会話や出来事をまとめていた。
帰社後の先輩方との打ち合わせ、報告を歩きながら準備していた。
そんな時に京阪本線の高架下にベーグルの店を見つけた。
生まれて初めて見たベーグルだった。
よく前を通過して気になっていたが、私には入りにくいおしゃれな店構えだった。
ある日勇気を出して店に入り、店員さんに説明を聞いて家族の分も買い、自宅で食べたのが初体験だった。
それまでの私が知るパンのイメージが変わった。
目の詰まった重たい生地のパンは一つあれば私の一食に十分だった。
そして美味しかった。
半分にスライスしてトーストしてハム、チーズ、玉ねぎのサンドで。
バター、蜂蜜だけでも。
挟むのは何でもいい。
腹持ちもいいベーグルサンドをラップして、ハンカチで包みカバンに入れて一人営業で歩き回ったあと、公園で缶コーヒーとともに昼メシにすることもあった。
そんな時はいつも季節の良い秋であった。
この恐ろしい暑さが去り、心地良い秋風が吹き出したら、ベーグルサンドを持って緑のきれいな公園でぼんやりしながら昼メシの至福の時間を過ごしたい。
最近ゆっくり味わうことのない美味しいコーヒーを時間をかけて頂きたい。
まだまだ先であろうが、流行り病もおさまっての落ち着いた本当の秋の訪れを例年以上に心待ちにしている。
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