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椿の花のいさぎよさ
街中でツバキをあまり見かけなくなったような気がする。
私が子供の頃、昭和のあの頃はよく生垣にツバキが植えられていた。
堅い実で何にするわけでもないのに、通りすがりに勝手にとってポケットに入れていたものである。
『椿』は春の季語である。
しかしながら『寒椿』は冬の季語である。
いつまでも初心者の私に俳句創作はなかなか難しい。
夏井いつきが選者をつとめる松山市公式俳句投稿サイト『俳句ポスト365』の兼題に昨年『寒椿』が選ばれた。
いつものように記憶再生装置である季語『寒椿』が私の記憶の引き出しをそっと引いたのである。
以下が、その時の投稿文章である。
◆今週のオススメ「小随筆」 お便りというよりは、超短い随筆の味わい。人生が見えてくる、お人柄が見えてくる~♪
昔、うっかりどこかのお宅の庭に迷い込んだことがある。
もちろん私が子どもの頃の話である。
今はもう見かけることのなくなった縁側のある木造の平屋のお宅だった。
サザエさんの舞台になる磯野家の庭のようなお宅、縁側に座布団が一枚あった。
それまで誰かが、お婆ちゃんかお爺ちゃんが日向ぼっこをしていたようなそんな雰囲気を子どもの私でも感じることの出来るそんな空気の残っている庭だった。
そう、NHKのチコちゃんと岡村がキヨエとやり取りをするあの庭と縁側の雰囲気であった。
私の理想の世界がそこにあったのだ。
濃いピンクの椿がボトッと音をたてずに私の頭の上に落ちてきた。
音はしないのに音がした。
ただそれだけで子供の私の頭の中はくるくる巡った。
そこに座っていた人がどんな生活を送ってきたのか、やはりここにも現実しかないのではないか、と思い至る。
そっとその庭から抜け出した。
寒椿が音をたてずに落ちてきたように。
寒椿は残酷な花のような気がした。
ただ私の勝手な理想の世界を打ち崩しただけなのに寒椿は一瞬で人の人生を変えてしまう、そんな花のような気がした。
それも音も立てないで。
あまりに温かな風景と対照的な音の無い寒椿の落花音であった。 /宮島ひでき
音もなくボトリと落ちるツバキの潔さが好きである。
私の求める武道の遠い目標でもある。
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