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ドーナツと私

今でこそドーナツなどは珍しい食べ物ではないが、私が子どもの頃は家庭の食卓に当たり前にのぼるオヤツではなかった。
料理好きなお母さんがNHKの『今日の料理』を見ながら小麦粉から作るドーナツくらいしかなかったのではないだろうか。
それを当たり前にしたのは『ミスタードーナツ』豊橋店だった。

豊橋駅前の広小路、豊橋の一番の繁華街に『ミスタードーナツ』は出来た。
すぐ近くの豊橋で一番背の高いマンションには『暴れん坊将軍』の松平健のご両親が住んでいるらしいとの噂を聞いたことがある。
そんな目抜き通りに出来た『ミスタードーナツ』は大繁盛だった。
仕事の帰りに母が買ってきてくれたドーナツを兄と二人で食べたのが懐かしい。
甘いものをそれほど欲しいと思わない子どもだったが、珍しさもあったし、いろんな種類のドーナツは美味かった。
コーヒーと共に口にするなんてことはなく、素手で油ぎったドーナツをつかみ兄と競争でワシワシと食べた。

職業婦人の忙しい母なりの努力で、母も生まれて初めてのドーナツ屋で色んなドーナツを買ってきてくれた。
丸い穴のあるドーナツが不思議だった。
油で揚げるのに熱を通し易くする穴なのかと子ども心に思い、型抜きした残りの穴の丸型の行方も気になった。
ついでに豊橋名産のチクワは口に咥えたまま仕事をしてもその穴で呼吸が出来ると言っていた父を思い出したりした。

ドーナツで子どもの頃育った豊橋に思いを馳せた。
今まで住んだ幾つもの街の中で都会でもなく田舎でもなく、山も海も近く、私の好きな本屋もある豊橋が好きである。
しかし、その豊橋に住もうとこれまで思わなかったのはどうしてだろう。
豊橋もこれまで住んだ他の街と同様、私には通過地点だったのかも知れない。
今住む八尾もこの歳になってもまだ同じような気がしている。

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