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阿修羅の少女は蒼穹に翔ぶ

第三、第四腕の感覚は、ここの神経を使うのよ。と、優羽花さんが私の肩甲骨の辺りをなぞりながら教えてくれたことを、翔ぶたび思い出す。
「CP。こちらカグツチ01。対象は見当たらない」
『了解。カグツチ01、警戒を続行せよ』
静寂に沈んだ高層ビルの隙間を、私達四人は往く。
”敵対勢力”が出現して10年。適正を認められた私達は、自動的に”学園”へ集められ、学び、訓練し、”それ”と戦わされる毎日だ。

「みーちゃんみーちゃん。今日は出るかなぁ」
「02、巡回中は名前で呼ばないで」
「さっちゃんて呼んでくれなきゃヤダ。今日は呼んでもらってない」
「……沙友理さん、ちゃんとしなきゃ、私達死んじゃうんだよ」
「ちょっと、いいでしょうか」
怖くてささくれ立つ心を、癒す様な落ち着いた咲さん……03の声。それから一拍遅れて、足元からサケビオンナの奇声が上がった。
「車の陰に隠れていると、”あの方たち”への反応が遅れますね」
「くるぞ」
ダイアモンド陣形の後尾、朝子さん……04が、アシュラギアの四つ腕を展開させながら気怠げに言う。
”サケビオンナ”……敵対的細菌【E】に冒された死者の成れの果て……”敵対勢力”の警報個体。
生体組織が腐り落ち、スカートを纏った様な姿のそれを、朝子さんの重機関銃が黙らせた。

「こちらカグツチ01。”敵対勢力”を確認。直ちに排除する」
『こちらCP。壁から遠い。囲まれないよう注意せよ』
「了解」
第三腕、第四腕を展開させつつ、私は瓦礫に覆われたアスファルトを踏み割り降り立つ。
「陣形形成。陣形形成。04を囲みトライアングル」
二本の巨腕には、アサルトバックラーとブロードソードMk-3。沙友理さんと咲さんが位置につく。周囲の建物から多量の”敵対勢力”が湧き出す。
これは待ち伏せ? 知能は無いはずじゃ?
そんな疑問を踏み潰すように、十人分くらいの人体部品が寄り集まったような駆逐個体……キョジンが、その最奥から姿を表した。

【続く】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。